表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メシアの勲章  作者: 赤はげ
act.1 妖精、メカ人間、ショックウェーブ
10/12

Close Quarters Combat

「おはようございます」


目を覚ましたハンの目の前には、金髪でワイシャツの男。

辺りを見回すと、ほぼ視界はゼロである中、窓から差し込む中庭のライトの淡いオレンジの光のみが明かりを作っていた。

部屋の中に敷き詰められた布団に眠るゴリエと子供達。

その中で自分だけ、その男に揺らされ起こされていた。


口元に例のおしゃぶりは無い。

眠る前に目の前の彼に奪われた事を覚えている。

作戦は失敗に終わった、しかこれが作戦だったということを知るのは目の前の彼のみ。

ゴリエ達はまだハンを家族の一員だと信じている。


それがハンの弱みとなった。


「私達のドンである御主人様の元へ案内します」


そう言った彼にハンの体は抱きかかえられる。

そのまま歩き出し、部屋を出る時に明らかにワザと、就寝の際最後まで泣きじゃくっていた子の胸を叩きながら眠るゴリエの顔面を勢いをつけて踏んで行ったが、大の大人+子供一人の重さで踏まれたのにも関わらず彼女の顔は微塵にもそれによってダメージを受けた様子は無く。

傾くこともなく何事もなかったかのように眠り続けた。


棟の廊下をゴリエの部屋より更に奥へと進む。

途中、窓を覗いた給湯室の様な部屋が真ん中のテーブルを中心にして黒く焼け焦げているのが見えた。

先生が送った爆弾だろうか。


とても長く歩いた。

しかし男に急ぐ様子はなく、寧ろ抱えているハンに負担がかからないように気を使っているように見える。

ハンは彼の右肩にアゴを乗せながら通り過ぎてゆく両壁の絵画を見ていた。

暗闇に慣れた視界が捉える絵画の印象は子供のハンからしたら不気味な恐怖以外の何物でもなく、ハンは思わず彼のワイシャツを握った。


その時、ハンは自分の複雑な心境に気が付く。

自分を抱えるこの男に抱くこの感情はなんだ。

自分の棟とはいわゆる敵である棟の人間であり、突如目の前に現れ、悪意に満ちた今回の作戦を見透かされ、その為のアイテムも奪った彼に対して恐怖を感じるのは必須。


しかし、そんな彼に。

自分を何処かへ連れ去ろうとしている彼に害意がない事を感じたのは、彼の口調、表情だけに足らず。

確信のない第六感という他に無い。


彼の口調から捉えられたのは、むしろそれよりも

これから起こりうる事態の大きさであった。



ーー


10時間前



ゴリエ

〝着替えよう″


「お…っ!?」


子供達の目の前でそう言って徐にエプロンを外した彼女を見て、思わず俺は席を立った。

女性陣の冷たい視線も構わず、股間のブツのおかげで立ちにくさを感じながらも。


流石はハンも俺と同じ男、クレープを貪りつつも視界の中心に彼女を捉え続けている。

黒いシャツを脱ぎ捨てると、その白く透き通った肌が露わになる。

艶かしいラインを保ち無駄のない肉付き、そしてトーマス先生をも魅了したその豊満な胸。


何より興奮したのは、メイドのカチューシャとスカート、そして足のガーターベルトをつけたまま上半身裸というのが俺は子供の頃から大好きだった。

子供の頃、ポケモンでジョーイさんのパンチらを見てからずっと好きだった。


彼女がブラのホックに手を掛けた時。


ドラキー

〝クレープうますぎワロチンコマルサマwwwwwwwww″


と、2列に渡って表示された特大のそれは

ちょうど「it's delicious」の「'」がゴリエのそれと重なり

それを拝む事が叶わなかった俺は憤怒のあまり、クレーターを作る勢いで床を殴りつけた。


と、その時。


〝ゴリエェェェエエエ!!″


ゴリエ

〝はーい!お嬢様すぐに向かいまーす!!″


突如叫ばれたその声に、ゴリエは少し体を揺らした後、忙しく目の前のクローゼットから適当なシャツを引っ張り出して着ながら、脱ぎ捨てたエプロンを拾い上げそのまま部屋を出て行った。



おっさん

〝可愛いだろ、ウチの姫様は″


途端、後ろからハンの肩が叩かれる。

画面がぐいっと右に回ると、そこにいたのはさっきのおっさんだった。


ハンの情報収集によると、どうやら彼もM棟から拉致紛いの勧誘によって1年前ここに来たらしい。

フランクな性格で、子供達の名前などの情報を親身になって教えてくれた。

肌の色は黒。


因みにM棟はA棟の傘下の棟とか言われていて、基本法にほぼA棟の内として扱う。

しかし、この二つの棟の間に溝を作ったのはA棟の中に僅かに残る「黒人差別」という風潮。

だから、この学校に黒人が入学するとA棟に入れられる事はまずない。


ドラキー

〝おじさんはどうしてここに来たの?

連れて来られた子達の共通点って何?

ゴリエの目的って何なの?″


おっさん

〝おいおい、そんな一気に質問すんなよ

聞きたいことが山程あるのはわかるが…まぁ、一からゆっくり説明してやるから落ち着いて聞けや″


さっきゴリエのいぬ間に聞ききれなかった質問を一気に振りかけると、両手で待ったと言ったようなポーズを示しながら彼が言った。


おっさん

〝俺が連れて来られたのは1年前だって言ったな。

そん時は会長の気まぐれで「全棟合同のかくれんぼ大会」があったんだ…。

…ってお前も参加してたか?″


ドラキー

〝うん、一日目で見つかっちゃったけど″


おっさん

〝俺もだ。なんせ鬼にはシ団の連中とか他にもこの棟の…あー、なんつったかな、あのジジババの…。

まぁ、とにかく強豪ばっかだったからな

一日目にしてA棟とR棟の生徒以外は全員捕まったと聞く″


「俺は開始数秒で捕まった」


と、俺。


「私は一時間もったかな?」


と、モネ。


「私は2日目まで残りましたけどね!!」


と、先生。


ドルマゲス

〝私は2日目まで残りました!″




おっさん

〝戦いは一週間以上続いた

Aの鬼もRの鬼も自分の棟を優勝させたいがために自分の棟の生徒を見つけたとしても黙るという暗黙のルールみたいなのまであったから実質戦いはA棟 VS R棟だ

単純に棟の生徒の数が多いからこの二つの棟だけが残ったなんて言う奴もいるが、実際にあの場を見てればそんなわけないことは明らかだったぜ″


ドラキー

〝俺も見てた、俺の先生も残ってたから″


そう言えばあの頃はまだあの男、ちょいちょい学校には来てたな。

今では全く見ねえけど。

因みに俺は見てなかった。


おっさん

〝校舎はボロボロ、校庭の森はほぼ一掃されたところでA棟の鬼が最後のR棟の生徒を見つけた。

ただその生徒の状態が問題だった…″


ドラキー

〝あ…!″


「……」


おっさん

〝そう、彼は死んでいた。

餓死なんかじゃない、飢えに耐えきれず購買や食堂に入ったトコロを罠にかかった生徒は沢山いたが、彼の懐の食料は充実していた

それに一目みれば彼が何者かによって受けた深いダメージによって死んだことは明らかだった″


おっさん

〝棟間の戦いはA棟の勝利で終わった。

まあゲームはまだ終わっちゃいなかった。

かくれんぼルールはあくまで「鬼が最後の一人まで見つける」だ

だが、事が事だ、隠れてた奴らも遊んでる場合じゃないと自分から出てきてゲームも終わったが″


おっさん

〝ここから先に実はAとRの間で取引があったのは知らないだろう?

俺と一部の人間しか知らねえ…それこそ会長すら知らないかも…いや、それは無いか。″


ドラキー

〝取引…?″


おっさん

〝あの後この事に憤慨したRの連中はAに謝罪を求めた。「勝利に飢えて盲目になったA棟の人間が殺したに決まってるとな」

Aも自分達がやったと言う事こそは出来なかったが否定も出来ず、謝罪に応じることにした、金を沢山持ってってな″


おっさん

〝しかし謝罪に出向かったAにここの首領であるご主人様はこう言った

「不運な事故だ、責任を負うのは私

貴方達に咎めの理由は無い」

まぁ、人一人殺されたがそれも許した

そういう形にしてAとの和解を図ったんだろうな

だがその時すぐ様その発言を上書きするように口を挟んできたのが姫様…ゴリエだった

あの人は隣にいるご主人様をガン無視してAに謝罪として優秀な生徒を一人差し出すと言う条件を提示した

この俺…ブザライ・マーシュラを名指しでな″


ドラキー

〝俺と大体同じだ…″


おっさん

〝多分皆そうさ、ヤクザみてえな常套句使いだから交渉はうまいんだ

…んで、まぁ皆俺が指名された事が意味わからんわけよ、別に優秀では無かったからな

でもまぁ、あっちが満足するならあげるか、って事になった。

…正直俺も乗り気だったしな…″


ドラキー

〝え?なんで?″


おっさん

〝なんていうかな…姫様が可愛かったから…まぁ、それも…あるか?

とにかく姫様もご主人様も俺の肌の色を気にしてる様子が全く無い上に欲しいとまで言ってくれたからな…

M棟が差別対策であるってのは知ってたから…仕方ないのはわかるがやっぱりそこに入れられるのは自分が虐げられる可能性があるって意味だ

それがずっと気になってた

だから俺を当たり前のように扱うあの人達の態度が嬉しかった″


おっさん

〝さっきからずっと俺の腕をゴシゴシ擦ってくるお前とは違ってな″


ドラキー

〝あ…ごめん″


おっさん

〝はっはっは!!

いや、いいんだよ。嫌がられてねえって事だ

…まぁ、その後ご主人様は最後まで「そんなことしなくていい」って言ってたんだが

ご主人様が帰った後、姫様が直接俺を回収しに来て俺はR入りってわけだ″


ドラキー

〝おお…強引″


おっさん

〝はは、だがな、大変だったのはこの瞬間からだ

俺がここに来た丁度その時、R棟の連中の中には先のご主人様の言葉を「生徒の死を何とも思っていない」と受け取り騒ぎ立てる奴らがいた

そいつらは元々「反A棟派」と呼ばれAとの和解を望むご主人様とは溝があったんだが、これを機に「反A棟反ご主人様反」となり完全決別状態となった

ヘタすりゃまた新しく棟が出来ちまうと言われる程の状態だ

ただそうなればRの戦力は分散し我が校の勢力図は完全にAが牛耳る事になる

今その新しい棟とやらが出来ていないのはその「反A棟反ご主人様派」がそれが癪だからっていうそれだけの理由だろうな″


おっさん

〝っとまぁ、余談が過ぎたが俺がここに来たのはこう言う理由だ

それに話した通りRには反A棟派がいるからな、俺も姫様もお前が元A棟だってのは隠すが気をつけろ″


ドラキー

〝う、うん″


おっさん

〝因みに姫様は反A棟派だ″


ドラキー

〝は!?″


おっさん

〝A棟を嫌う気持ち以上にお前が欲しかったんだろうな

…と、次は姫様に連れて来られた奴らの共通点だったな″

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ