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その8

 この爆弾発言に夏子や冬子が


「おお、そうだそうだ!」

「さすが、わが姉上!」


 だが本人にとっては、そりゃ大問題。


「お、伯母さん! 何て事を言ってくれるんです! それじゃ、この命が何個あっても足りませんって!」


「蓮生さんね。だから、もしもって言ったでしょ?」


 この時、すでに目の前のカボチャにも慣れた爺さんが


「う、迂闊じゃったわい……お、おい、長浜。その遺言状をよこせ。それに、そこの筆と硯もじゃ」


「え? あ、はい」


「よっこらしょっと」

 いきなりムクッと体を起こしてきた爺さん。受け取った筆に早速墨をつけ、スラスラと何やら書き始めている。

 やがて、それを再び長浜に渡し


「読め!」


「あ、はい……」

 皆が耳を澄ます中


「PS二 万が一、相続筆頭候補の蓮生が未婚のまま亡くなった際には……」


「へ?」

 

 驚く本人を尻目に、待ちきれない夏子が促してきた。


「亡くなった際には?」


「……その時点で生存している孫にくれてやる」


 これを聞き


「なあ、志保? 言葉が荒くなってきてね?」


「さては爺さん、面倒臭くなってるな?」


 だがまたもや、春子さんが


「生存ですか? ならば、もしも撫子ちゃんが亡くなっていたら、椿ちゃんとこの土筆とで半分っこにするんでしょうか?」


 そら反論されるに決まっていた。早速本人さんから


「お、伯母さん! わ、私を勝手に殺すなって!」


「だから、さっきから、もしもって言ってるでしょ!」


 これに幼顔の椿までが


「じゃあ、蓮生さんと土筆さんと撫子さんの三人が亡くなれば、遺産全部がこの私のものだね!」


 無邪気に言ってくるだけに、余計にたちが悪い。

 この時、背後から肩を叩かれたカボチャ女


「ん? どした?」


「マキ。ちょっと、向こうへ行こう」



 部屋の隅っこまでやってきたお二人さん。

 先に志保さんが


「だんだんと血なまぐさくなってきたね」


「確かに、な。その内、全員死んだりして」


「で、案外爺さん一人生き残ってたり」


 これを聞いたカボチャが、腹の底より


「ギャッハッハ! そらいいわ!」


 端から笑ってるマスクだったが、それにつられて土管も


「アッハッハ! 遺産もクソもないって、ね!」

 だが、ここでふと我に返り


「ん? 私って、ここにいつまでいたらいいんだ?」


「志保さあ。どんな契約になってるんだ? 春子さんと」


 これに顔を曇らせてる星名探偵


「うーん。それがイマイチ曖昧でさ。ちょっくら聞いてくる」


「じゃあ、この木俣さんも」


 再び、皆の輪の中に戻ってきたのはいいが、そこに聞こえてきたのは春子さんご本人の声。


「じゃ、じゃあ、もし孫全員が亡くなってたら?」


 まだ続いている。

 そして、これに食ってかかってきたのは夏子で


「春子姉さんさ。そりゃ、そっちはいいよね? 養女だから愛情の欠片もないんでさ。でもこっちは腹を痛めた実の娘なんだよ!」


「な、何ですって?」


 これにまたまた


「よっこらしょっと」

 体を起こしてきた爺さん。さらに続きを書き始めた。

 やがて、それを三たび長浜に渡し


「読め!」


「あ、はい……PS三 十万が一、蓮生亡き後に、次点相続候補である孫三人全員までもが亡くなった際には……」


 待ちきれずに、今度は冬子が促してきた。


「亡くなった際には?」


「……その時点で生存している、毛嫌いする娘どもにくれてやる……」


 ここで娘三人が、異口同音で


「おおお!」


「……んなわきゃないんで、県の医療センターまで全額寄付をし、県民の皆様のために使っていただければ幸いに存じます。おしまい」


「えええ?」


 春夏冬とも、想定外のオチに目を丸くしている。


「PS三まで出てくるとは、次はPSPかいな?」

 こんな木俣さんに、志保さんが


「まさか。でも最後は綺麗にまとめてきたな、爺さん」

 こう吐いて、座ったまま腰をずらして春子さんに近づいていった。


「あのう?」


「何です、星名さん? この忙しい最中に?」


 別人の如く、血相を変えている女だったが


「実は、任務も終了したので、そろそろおいとましようかなって」


「はあ? 終了ですって? まだ何も終わってないじゃないでしょ?」


「いや、儀式にも参加しましたし、遺言状も公開されましたし。あとは何もする事がないかと?」


 これに目を剥いてきた相手が


「ビタ一文も入ってないんですよ? そんなんで、誰が残りの金を払うものですか」


「こっちの方こそ、はあ? それじゃ契約違反でしょう?」


「いえ、ちゃんと言ってあります! 遺産を無事に得る事ができるまでって」


 離れた場所より、これを眺めている木俣さん


「おにぎり君さあ? 何だか、言った言わんになってるみたいだね?」


「そうみたいですね。それにしたって春子さん、人が変わったみたいで」


「あれが本性だろな」


 それに、田部君が助手らしく


「ここに、いつまでいます? 何か、どんどん深みにはまっていきそうな気がしちゃって」


「確かになあ」


 依頼人である志保さんからの残金十万に固執するのか? はたまた、それを諦め、火の粉が降りかかる前にとっとと戻るのか?

 難しい二者択一ではある。


「おそらくあやつの事だからさ、春子さんから金をもらえなかったら、こっちに払うわけもないじゃん」


「そう思いますね。逆にガソリン代とかを折半しろ、とまで言ってくるかも」


「お、鋭いね! そら有り得る話だ。いずれにしったて戻った方が良さそうなんだが、問題はここからの足なんだよね。えっと、バスって通ってる……」

 そう言って、木俣さんがケータイを取り出したのだが


「あ、そうだった。電波が入らないんだった、このクソ田舎じゃ」


「それも、嫌なシチュエーションですね?」


「言えてるし……おにぎり君さあ、歩ける距離じゃないよね?」


 これに目をパチクリと


「と、とても無理ですよ!」


「やっぱり。じゃあ、電話を借りてタクシーでも呼ぶか? 痛い出費だけど、今回はやむをえん」


 守銭奴にしては、珍しい判断だ。いやだからこそ、本能的に身の危険を感じているのかも。


「わかりました。じゃあ、僕が番号案内で聞いてきます」



 やがて戻ってきた助手だったが、その顔を見るなり木俣さん、探偵らしく推理してきた。


「近くにタクシー会社がなかった?」


「あ、そうじゃなくって」


「え? そうなんだ……じゃあ」

 そして気づいたのだった。


「ま、まさか、電話も?」


「うんともすんとも言いません……木俣さん? これって、すでに最悪なシチュエーションになってますよね?」


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