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その13

「長浜さん? ちょっとだけよろしいでしょうか?」


 いきなり襖の向こうより聞こえてきた声。思わず弁護士は腕時計に目をやる――八時半すぎだ。


「え? こんな時間に何だ?」


 訝る中年男だったが、声の持ち主すら判明しない。

 そこに再び


「おられますか? 雇われ探偵の星名ですけど」


「ああ、貴方でしたか。どうぞどうぞ、散らかっておりますが……」


 許しをもらって、中へと入ってきた三人。


「あ、皆さんご一緒……」


 ここで言葉が止まってしまった。それもそのはず、星名探偵の隣にはカボチャ頭の女が――


「ん?」

 これに思わず左を向いた志保さん、その目を大きく見開き


「や、やめんか! くわえタバコなんぞ!」


 そら驚くはず。だがご本人は、至って呑気に


「あらま? 気づかんかった」


「おぞましいやっちゃ……マキ、あ、いや土筆さんって」




「それで、何の御用ですか?」


 ようやく場も落ち着きを取り戻し、長浜弁護士があらためて言葉を発してきた。


「いえね。この土筆さんが、どうしても直に遺言状に目を通したいと駄々をこねまして」


「え? そ、それは……」


 この狼狽えぶりがすべてを表している――すぐに探偵二人は、そう捉えた。


「どうされました?」


「あ、いえ……」


 ここで口を開くはカボチャ娘


「相続人にはそれを見る権利がありましてよ。弁護士のおたくなら、それくらいは重々承知でしょ?」


 これに言葉が完全に詰まった中年男


「クッ」


「ほら早く! さっさとしないと、このカボチャで頭ゴーンってしますよ!」


 いつのまにやら、フィニッシュ技になっている。

 だが、これをすぐに横から訂正してきた志保さん


「そこは違うでしょ? 土筆さん。見せないと家庭裁判所に駆け込みますよ、でしょ?」


「お、そうでしたわ。オホホホホ」

とは言いながらも、数歩前に出てきた木俣さん


「私こう見えましても、巷では『短気なパンプキンちゃん』なあんて呼ばれてるんですよ」


 さすがにこの口が裂けた風なカボチャの面、目の前までくるとおぞましい。


「き、脅迫するきですか?」

 だが一向に気にすることなく、ついにカボチャが弁護士の顔に接触した。


「うおおお! や、やめんか!」


 これに


「トリック・オア・トリート……オア・イート?」


「イ、イートって……」


「もちろん意味は……」

 ここでカボチャをすりすりしてきた似非土筆さん、声を荒げ


「食っちまうぞ! ってことだ。ユーシー?」


 さすがに食われたらかなわんと、ようやく観念した長浜さん


「わ、わかりましたって、もう」

と言いつつ机の上に置いてある革製のカバンの鍵を開け、一通の封筒を取り出してきた。


「これですよ、これ」


 投げやりに渡されたものを受け取った志保さん、早速中より一枚の紙切れをつまみ出した。

 それを他の二人も覗き込み


「おい! そのデカい頭で押すなって! 読めんだろが!」


「おろ? こりゃすまんこって」


 すぐにカボチャの面を取った木俣さんだったが、いきなり弁護士がその場に倒れ、なんと泡まで吹いている。


「ブクブクブク……」


「ん? このおっさん、いきなりどうした? なあ、マキ……」

 驚いて隣を見た志保さんだったが


「ぬおお! お、おい、顔変わってるぞ!」


 これに間髪いれず、田部君からも


「き、木俣さん! メークが落ちかけて、一層おぞましく!」


「メークが? そいつは何よりじゃん!」

 思わず手を叩くはカボチャ娘、早速中身を読み始めている。


「どれどれ?」


 これには腰が引けてる志保&おにぎりだったが、それでもやはり中身が気になるので同様に目を通しだした。

 やがて、志保さんがその一見親指風の人差し指で


「ほっといてんか!」


 こりゃ失礼。

 で、それにて文面をなぞっていると


「『……んなわきゃないんで、県の医療センターまで全額寄付をし、県民の皆様のために使っていただければ幸いに存じます。おしまい』……確か聞いたのはここまでだったなあ」

 さらに、その下には


「お、やっぱりあったぞ、PSP! 本来なら、PS3よか前にあるべきなんだが、な!」


とまあ、案外なオタクぶりを見せてるなか


「普通、そこに食いつきます? もっと下ですって」


 そこに、今度は木俣さんが


「もっと下? あ、PS何とかって追記まであっぞ? 何とかって……ははーん。爺さん、さすがにこの先は知らんかったと見えるな。で、何々? 『もう、追記はしないもんね!』ってか。でもこれってさ、『貼り紙厳禁』の貼り紙みたい………」


 さすがにイラッとしたおにぎり君


「んもう、二人して何言ってるんです! 肝心なのは、その間ですって!」


「あっはっは! それくらいは、とうにわかってるわ。な、志保よ?」


「そそ。ちょっとおにぎりさんをからかっただけですよ」


「はああ?」

 そして田部君、梅おにぎりと化し


「も、もう勝手に二人でやってください! 金輪際、口出ししませんからね!」


 だか悲しいかな完全にスルーされ、二人の女流探偵とも肝心な箇所に目を通している。


「『もしも、もしも孫三人皆とも死滅した際は、我が財産そのすべてを……』」


 この木俣さんの後を、志保さんが引き継いだのだが


「『……梅にあげちゃうもんね!』」

 そら、目を丸くしている。


「……は、はあ? い、いきなりの意外な登場人物だこて!」


「た、確かに。何で、ここで梅なんだ?」


「だよな、マキ。いくら世間が乱れてるったって、やらしい関係とは考えにくいよなあ? 何せ、爺と孫くらい年が離れてるし」


 これに相手も頷きながら


「ああ。いくら好色風だからといって、あら無理だろな……でも何だ? この大抜擢ってさ」


 ボロクソではある。


「今まで散々世話になったから、ってのもないなあ。どう見たってあの爺さん、そんな殊勝な台詞なんて吐きそうにもないしなあ」


「吐かん、吐かん。吐くわきゃない」


「だよな。じゃあ、一体……」


 腕を組みつつ、頭をひねってる志保探偵殿。そこに木俣探偵が


「なな? 犬神チックに考えると、ここは血じゃね?」


「ん? 血って? 血の繋がりってことか?」


「そそ……なあ、志保よ? 見方を変えて、ここは故人をいっぺん探ってみよっか?」


「私もそう思うよ。爺さんの亡き女房、つまり春子らの母親。それに姉妹の中で早く逝ってる秋子。この二人だな?」


「んだんだ。ま、一度写真で、そのお顔でも拝ませてもらおうではないか! で……」

 木俣さん、ここはごく当然と


「じゃあ、志保。春子にでも頼んでさ、アルバムを借りてきておくれでないかい? 何せあたしゃ、頭ゴーンした身ですよってからに」




「え? アルバムですって?」


 志保さんの意外な言葉に、少々狼狽えている春子だっだが


「あ、嫌なら嫌でいいですよ」


「え?」


「まあ、あのカボチャ女が役を降りるだけですから」


 このセリフが一番効く。何しろ、遺産相続候補からたちまち外れるわけだから。


「そ、そんな」

 はたして、相手はすぐに観念した。


「わかりました。少々お待ちを」


 やがて戸棚の奥の方より、一冊の古いが分厚いアルバムを出してきた春子さん


「これですよ」


 早速、渡されたその表紙を捲った志保さんだったが、そこには大五郎爺さんと、おそらくは母親とおぼしき女の真ん中に赤ん坊が一人写っていた。


「それ、この私なんです」


 柄にもなく、はにかみながら言ってきた春子さんだったが


「見たらわかるっちゅうねん。不細工、そのまんまやんけ」


「え? 何か言いました?」


「あ、いえ……じゃあ、少しだけこのアルバムをお借りしますね!」




「やっぱ、ガキンチョの頃からブッサイクやなあ」


 アルバムを捲りながら、無礼すぎるセリフを口にしている木俣さん。


「だな。で、マキよ? 問題の、この母親なんだが……」


「メッチャ美人やんか! ビックリしたわい」


「だろ? どう逆立ちしたって、三姉妹には似ても似つかんわな?」


 これも同じく失礼な志保さんだったが、それに被せてくる木俣さんも


「似てないな。赤の他人より似てないな」


「ああ。と言っても、爺さん似でもないし」

 そう言いながら志保さん、先の方を捲りながら


「この辺りを見てよ」


 これに、開かれた頁に目をやった木俣さん。そして次の頁、その次と自分で捲りながら


「ふーん。女のガキンチョ四人が写ってるのを見ると、いつも三人と離れてポツンと一人が写ってるよな?」


「そそ。それが秋子だと思うよ、多分。何だか、いつも除け者扱いだよな? 顔もほかの姉妹とは違うし……というより、この子って爺さんソックリだろ?」


「その通りだな。爺さんを若くして、髪を伸ばしたらこうなるよな……ああ、それを苦にして自害したのか」


「おい、マキ。まだ、そうと決まったわけじゃないぞ」


「まあな。しかし秋子は分かった、だがあとの三人は父親にも母親にもちっとも似てない……」


 志保さん、この発言の後を受け


「つまり、爺さんが愛人に産ませたものか……」


 バトンが再び返ってきた。


「あるいは、母親の方が浮気したのか……この可能性もあるよな?」


「ああ。マキが言うように、案外この顔って男好きする顔だもんな」


 この時、ずっと黙ったままだったお地蔵さん、いや、おにぎり君が


「でも、そんなことを誰に聞くつもりなんです? まともな返事など返ってきませんよ、絶対に」


 だが


「え? キミって、いつからそこにいたんだ?」

「おにぎりさんって、とうに寝たのかと」


「さっきから、いますって! もう、二人そろって!」


「これは失礼をば」

 ニコリと微笑んだ志保さん


「まあ、おっしゃるとおり誰も答えてはくれないですねえ……」


 そして、木俣さんも頷きながら


「そら、そうだ。というか、その真実を当人、爺さんと母親以外は知らんやもしれん」


「じゃあ、どうするんです? これから?」


 ほうら言わんこっちゃない、と眉間にしわを寄せた田部君だったが


「そんなおにぎりなんて、まずそうで誰にも食ってもらえんぞ……だからさ、秋子の方を聞くのだ。その死んだ時の状況なんぞを」

 そう言った木俣さん、自信満々に


「……春子から、な!」






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