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その12

「それはそれはご苦労さん!」


 行く時の数倍は早いスピードで戻ってきた田部君、いまだ息を切らしつつ


「ハアハアー……こんな経験なんて、もう二度と嫌です」


「おい。そんなことじゃ、立派な探偵にはなれんぞ」


「だからいつも言ってるように、探偵なんかになるつもりは……」

 だがここで、ふと


「あ、それよりも、これでやっぱり撫子ちゃんと椿ちゃんの命が危うくなるわけでしょう?」


「ま、そういうことだけどさ。でも夏子&冬子夫婦にとってはさ、今となったら娘というよりもそれ以上の宝物になったわけだし」


「何だかキツイ言い方ですけど。それで?」


「だからさ、みすみす毒牙にかかるようなまねはさせないってこと」


 ようやく理解できたおにぎり君


「ああ、だから厳重に警戒するという話ですね?」


「そそ。故に心配ご無用なのだ……よっぽどのことが起こらぬ限り」


「もう、いつも奥歯に物が挟まった言い方して。その『よっぽどのこと』って、例えば何なんです?」


「そんなもん、この場で推理できたら『よっぽどのこと』じゃなくなるじゃん」


「またまた十八番の屁理屈を」


「あん? 何かほざいたか?」


「あ、いえいえ別に」


「ならば……」

 木俣さん、再びスタンガンの銃口を助手に向け


「さっさと主を失った部屋に戻るのだ!」




「冷たい冷たいとは思ってたけど、まさかここまで冷たい人とは」


 おにぎり君、ぶつくさ言いながら訪れたのは


「志保さん? 中へ入ってもいいですか?」


「ん? ああ、おにぎりさんか。どうぞどうぞ!」


 こちらは、まだ少しは温かそうな気配。


「で、どうしました?」


 これにおにぎり君、一部始終を話しだした。




「へえ! さすがに木俣マキだけのことはあるな!」


 こんな感心している志保さんに、田部君ときたら


「そうですか?」


「だってね、普通はそこまで気づかないよね?」


「まあ、普通じゃないですから」


 この時、またもや聞こえてくるは


「ハックショイ、コンチクショウ!」


 これに志保さん


「な、何? 今のって?」


「さ、さあ?」

と、澄ましたおにぎり君、実はどうしても聞きたかったことがあったのだ。


「ねえ、志保さん? 木俣さんとは、どんな関係だったんですか?」


「え? ああ、そのことか……」

 志保さん、遠くを見ながら、といっても天井だが


「実は幼稚園からの知り合いでね、九州は福岡なんだけど」


「へえ!」


「小学生の時なんか、いつも手を繋いで学校へ行ったもんだよ」


「へえ! へえ!」


「でね、帰り道で互いに『しほちゃんね、大きくなったら絶対マキちゃんのお嫁さんになるんだ!』とか『まきちゃんも、絶対絶対しほちゃんのお嫁さんになるんだもんね!』とか言いながら……ん? どうしました?」


 ん? 相槌がないが?

 見ると、再び口に手を当てている田部君。


「は、吐き気が……あ、いえ、とっても微笑ましいお話だなって」


「でしょでしょ? でもね、これが高校生になったっとたん」


「なった、うっぷ、とたん?」


「学年テストで常に1・2を争うようになってね、いつの間にやらライバル化したわけなんだ」


「そ、そうだったんですか。まあ、確かにその片鱗はうかがえますね、あの人には」

と言いつつ、身構えたおにぎり君だったが


「お? 今回はセーフなんだ」


 だがここはやっぱり彼も人間、ちょっとした悪ふざけで、しかも声を大きめにして


「でも、そういった知恵やら知識を偉ぶって口にするとこらが、どうかなって!」


 はたして、すぐに


「ハックショイ、コンチクショウ!」


「あはは、やっぱり……え?」


 笑ったのはいいが、やけにデカい?

 これを訝って、ゆっくりと振り返るおにぎり君だったが、開けられた襖の向こう側には


「自分、ええかげんにせえよ!」




「べ、別に殴らなくっても」


 確かに彼氏の左頬には、生命線が異常に長い手形の跡がクッキリと残っている。


「しょうもないことをほざくからだ!」


「だ、だって事実を言ったまで……」


「はあ? おい、右の頬も差し出せ」


 ここで、見かねた志保さんが割って入り


「まあまあ、二人とも。ここは、この私の顔に免じて」


 だが興奮さまやらぬ酔っ払いが


「誰が、そんな顔に免じるかってんだ」


「はああ? おいこら、今何て言ったんだ?」


「何回も言わすな。それは顔じゃねえって言ったまでだ」


「何だと、この蚊トンボ! 悔しかったら、少しは肉感的になれい!」


「るっせえ、この象ムシめが! 少しはくびれんかい!」


「てめえみたいな、くびれもヘチマもない電柱には言われたくないわい!」


「何だと? 逆に胴回りの方がデカいビア樽のくせしおってからに!」


 何だかいきなり凄まじい闘いになってきたところ、そこは自他ともに認める平和主義者のおにぎり君が


「まあまあ、お二人さんともこの僕の顔に免じて……」


 これにピタッと言い争いをやめた女流探偵二人、同時に顔を彼氏の方へと向け


「てめえがそもそも悪いんじゃ!」




 まさに踏んだり蹴ったりのおにぎり君。本当に踏まれたり蹴られたりして、すでに気を失いかけている。


「ちょっと、やりすぎたみたいだな? マキよ」


「まあな。危うく第二の被害者になるところだったな」

 そんなことを平気でのたまう、やはり鬼の木俣さんだったが


「ところで、こいつって何しに来たんだ?」


「ああ。事件に関してのマキの推理なんかしゃべってたぞ」


「そうか。相も変らぬお人好しだからな、こいつって」


「確かに、今どき稀有な人種だ……あ、それにしてもマキの推理には、ほとほと感心したよ」


「へ?」

 ライバルからの数十年ぶりの温かい言葉に、驚く木俣さん


「そ、そげなこつ……照れてしゃあなかたい」


「あはは! いきなりの博多弁ですたいね」


「そういうお主もなまってるとよ」


 この方言が耳にさわったとみえ、ここでムックリと起き上ってきたおにぎり君


「あいてててて」

 そして体中をさすりながら


「んもう、やりすぎですって! あちこちが悲鳴あげてますって!」


 だがだが、何を言おうとやはり無駄なことで


「手加減したのになあ」

「その悲鳴ってもんを、一度聞かせてくれ」


「ハアー……どうぞ先を続けてくださいな」

 

 ガクリとうなだれる田部君、その座右の銘は『人間、タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない』なのだ。


「えっと……そんなら志保、このおにぎりに免じて事件の話でもしよっか?」


「御意」


「じゃあ、早速だけど、何か気づいた点はある?」


「マキ同様、医者がすぐ帰ったのには疑問を感じてたよ」


「ああ。で、他には?」


「それから、例の物置小屋。鍵がかかってたはずなのに、仏さんは自らそれを開けて犯人を招いている」


「なるほど。つまり、よもやの人物だったわけだ」


「そそ。仏さんにとっては、犯人らしからぬ犯人ということだ」


 これに耳を傾けているおにぎり君、さすがに女流探偵同士だと感心し、この先を期待していたところ


「じゃあ、志保さ。私は一眠りしてくるよ。その前に、爺さんだけには挨拶してくるし」


「そっか。じゃあ、私も行くし」




「ご気分は如何ですか?」


 律儀にもカボチャをかぶってる似非土筆さん。

 これに寝床の大五郎さんも


「ああ、今なお元気じゃ」


「確かに、三国山脈くらいは飛び越しそうだなあ」


 こんな何気ない田部君の独り言に


「ん? そこのいびつなおにぎり、何か言ったか?」


「え? い、いえ何も」


「そうか、ならばよい。で、その隣にいる、ちくわぶ如き娘は誰じゃ?」


「ち、ちくわ……コホン。私は、春子様に雇われた星名なるしがない探偵でして……」

 その続きは小声で


「何回も言わすな、このハンペンじじい」


 だが何と


「ん? お言葉じゃが、わしゃハンペンが大嫌いじゃこて」




 再び志保の部屋に戻ってきた三人。


「爺、恐るべしだな!」


 さすがに驚いている志保さんに


「確かに。あの爺さんだったっらさ、日本アルプスくらい三段跳びで越えそうだ」


 木俣さんすら、その例えが大幅にグレードアップしている。

 この時、襖の向こうから声がかかり


「失礼します。夕食をお持ちいたしました」


 すぐに許可され、中へと入ってきたそんな梅さんに木俣さんが


「よくぞ、ここに三人がいるってわかりましたね?」


 これに相手が頬を染め


「あ、そこにおられる田部様に指示を頂戴したもので」


「へえ! 気が利くじゃん、おにぎりのくせしおって」


 この、褒めてるのかどうかよくわかりかねる木俣発言に続き、志保さんも


「おにぎりさんって、案外良き主夫になれるかもな!」


「いやあ、それほどでも」


 何故に田部君よ、ここで頭を搔きつつ照れるんだ? キミって、一生黒子でいいのか?



「えっと、こちらが川海老の唐揚げで、そちらが松茸の土瓶蒸し……」


 微笑みながら、いちいち料理を説明している見上げたお手伝いさん。


「ま、松茸?」


 驚くおにぎり君だったが、その隣の木俣さんより


「確かにここへ来る道中に、赤や黄に染まった広葉樹に混じって針葉樹もチラホラ見かけたなあ。あれって、松だったんだ」


 これに、その向こうにいる志保さんの口からも


「ああ、アカマツだったね、確か。まあ、ここは里山だからね」


 田部君にとって何が恐るべしとは、まさにこの二人の博識である。


「さすがに、学年で一・二位を争うはずだ」




「ああ、食った食った!」


 こんな、ない胸、いや腹をさすってる木俣さんに


「あんだけビール飲んで、こんだけ平らげて……よくもまあ、太らないもんだなあ」


「あ、そのことか。というのも私ってさ、無茶苦茶お通じが良くってさあ。案外東洋一かも」


「そうなんだ。ま、噛み砕いて言えば、消化しきれてないってことなのかあ」


「そそ、奥歯でちゃんと噛み砕いてるのにね……ってか!」


「んだんだ。消化だけに、しょうかもなんちゃって!」


 こんな女子会化した場に、おにぎり君が一石投げ込んできた。


「あのう、そろそろ事件に関する話題を」


 これに素直に反応してきた酔っ払い、いつの間にやら缶ビールを手にしている。


「事件ねえ……ところで志保さあ、気づいた? 爺の部屋の床の間にあった硯って?」


「ん? ああ、硯ね。少々濡れてたよね? 多分、使った後だったかと」


「さすがですな。でさ、そのわけって、おそらくは遺言状に何やら追記したか、あるいは書き直したか……そう思うんだよな」


 さすがに女流探偵となれば鋭いものだ。ましてやここにそれが二人もいる。こら自分には到底無理だなあ……このように肌で感じている田部君だった。


「マキの言うとおりだと思うよ。だからここは……」


 この後を木俣さんが続け


「あの長浜っちゅうおっさんを締め上げて……」


 で、ブーメランの如く再び志保さんが


「今現在の遺言状とやらを見せてもらおうではないか!」



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