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その11

 木俣さんからも追い出され、志保さんとも別れた田部君。今更、物置小屋にも戻れるはずもなく


「仕方ないなあ」


 そして今は、主人を失った部屋の中で独りたたずんでいる。


「とにかく、これ以上死者を出さないようにしないと」


 前向きである。この場に女流探偵が二人もいながら、実質上の探偵役を自ら買って出ているのだ。

 無論その持ち合わせている正義感のなせる業なのだが、それに加えて、身の安全が確保されたという安心感によるものも大きい。

 つまり蓮生亡き後、殺しのターゲットは女性限定となってしまった――このように、彼氏は考えている。


「まずは……」

 至極当然という風に、田部急造探偵は何度も頷き


「犯人は、何故この部屋を襲撃しなかったのか?」


 もちろん、すでに答えは用意されている。


「昨夜、蓮生さんとこの僕が入れ替わるのを知っていたから」


 だが


「ここの部屋なんて襖一枚で仕切られてるだけだから、その気になれば誰にでも中の話なんて簡単に聞けるしなあ」


 早速行き詰まった模様。

 そしてやはりお人好しの男、次に口に出してきたのが


「撫子ちゃんと椿ちゃんとを守らないと」


 この時一瞬だけ、ご主人様の顔が頭の中をよぎったのだが


「まあ、あの人なら心配ない……というよりか、過剰防衛で相手をとことん戦意喪失するまでやってしまうからなあ」


 実際に、それで一挙犯人逮捕、なんてことも確かあったはず。

 この時だった。遠くの方より、物凄きデカさで……


「ハックショイ、コンチクショウ!」


 このおっさんグシャミに、青ざめるはおにぎり助手


「げ、げに恐ろしきは、木俣マキ」



 そのあと懸命に脳細胞を駆使するものの、やはり向いてないのか、とんと推理が進まないおにぎり君。とうとう、ゴロンと畳の上に寝転がってしまった。


 「いつまでここにいるんだろう?」


 この、木俣さんの口癖にもなってしまったセリフ。何気なく吐いたものだったが


「いつまで……いつまで……いつまで……いつまでって?」


 ここでガバッと再び起き上がった彼氏、その原因が春子さんの曖昧な発言に在るのがわかった様子。


「遺産が転がり込むまで? これって、いつの話になるんだろ?」


 頭を少々、ちょうど六十度くらいまで傾け逆三角形になってるおにぎり君。そうこう考えてるうちに、その大元にまでたどり着いた。


「そうか! 元々、遺言状に期限が記されてないんだ! 確かに蓮生さんが孫の誰かを嫁に迎えるのが条件なんだけど、いつまでという期限が設けられてないんだ!」


 そしてさらに


「嫁を迎える前に蓮生さんが死んだ場合は孫にくれてやる……この追記された箇所にも、期限については一言も触れられていない!」


 はたして、これが何を意味するのかというと


「これじゃライバルが死ぬまで、互いが延々と殺すチャンスをうかがうことになるじゃないか!」




「木俣さーん!」


善は急げと己の考えを伝えにやってきた健気な助手だったが、部屋の中に足を踏み入れようとした瞬間


「そこから一歩でも入ってみい? そしたら、こいつをおみまいすっからな!」


 中では木俣さんが、愛用しているスタンガンの手入れの真っ最中だ。


「ち、ちょっと、やめてくださいよ」


「いや、やめん。本気モードだ」


「そんなあ……ひょっとして、まだ『とんずら』のこと怒ってます?」


 これに相手が語気を強くし


「あったりめえだ! すこぶる名誉を傷つけられた!」


「でも少しくらいは、その気はあったでしょう?」


「まあ、あわよくばくらいは……って、何を言わすんじゃ!」


 これを聞き、田部君が我が意を得たりと


「ほうら、やっぱり……で、僕の話に耳を傾けてもらえますよね?」




「……と、まあこんな感じですが」


 考えをすべて口にしたおにぎり君、相手の反応をうかがっていたところ


「クソッタレ!」


「え?」


「ビール、あと三缶になってしもうた」


「はあ? そら、何缶も飲んでるから」


「ま、いいや。また厨房から拝借してくるわい」


「え? 水滝さんからもらったんじゃないんですか?」


「ん? ま、まあね」

 少々罰が悪くなったのか木俣さん、ここでようやく


「確かにキミの言うとおり、どこにも期限の『き』一つないな」


「でしょう? そこが、何だかそら恐ろしくて」


「そら恐ろしいねえ……だったら、他にもそら恐ろしいことがあるぞよ」


 これには、その小さな目を丸く、ビー玉のようにしたおにぎり君


「ほ、他にもって?」


「えっと……あ、そうそう。例えばさ、今夜辺りがヤマだって言ってた医者が何故にそそくさと帰ってしまうんだ?」


「あっ」


「普通は、一晩中そばに着くんじゃなかろうか? ま、一歩さがって、すでに為す術なしとサジを投げたかも? って考えることもできるけど」

 だが女流探偵さん、この先があった。


「それなら、何故に奴さんの車だけパンクから逃げ伸びれたんだ? 弁護士のおっさんの車だってさ、ちゃんとパンクしてたぞう」


「え? た、確かに。じ、じゃあ、あの玄海という医者が一枚噛んでると?」


「そこまではわからんけど。ただ、キミが望んでるそら恐ろしいことを述べたまでだよ」


「べ、別に望んではいませんって」


「ま、いいや……でね、おにぎり君よ?」


「あ、はい?」


「今回の中で、最たるそら恐ろしいことを発表してしんぜようか?」


 これには、目をパチクリさせた田部君


「さ、さ、最たるって! な、な、何なんですかっ!」


 この時、言葉と同時に吐き飛ばされた唾を木俣さん、体を左右に振って避けながら


「キチャナイやっちゃなあ……でさ、何故にヤマとまで宣言された爺さんが、今もってピンピンしてるわけ?」


 衝撃の一言だった。少なくとも田部君にとっては。


「た、確かに言われてみれば、そのとおりです」


「だろう? あんな調子なら、そのうち三国山脈だって飛び越えるぞう」


 だが相手ときたら冷静に


「そのヤマは無理でしょう。で、どこです、それって?」


「よくぞ聞いてくれた。実は群馬県と新潟県との県境に位置するのだ」


 自慢気な木俣さんではあるが、本題からは外れてきだした。

 だが、そこはサポート役の助手が修正し


「何だか、すべてが偽りで固めてあるみたいな」


「だってさ、元々この土筆ちゃんからして偽りごとなんだからね」


「そ、そうでしたね。あ、でも撫子ちゃんと椿ちゃんが狙われてるのは事実かと。何しろ、現に最有力遺産相続候補が亡くなって……」


 だが、これにも横ヤリを入れてきた木俣さん


「ホントに死んだんかなあ? 蓮生クン」


 この時、テーブルの上に二個のビー玉が落ちてきた……とはいかないまでも、それくらい驚いているおにぎり君。


「ま、まさかあ?」


「じゃあさ、キミって死体見た? あたしゃ見てないけど」


「で、でも、掛けられたゴザの胸の辺りが盛り上がって……」

 と、ここまで喋った田部君だったが、すぐに激しく左右に首を振り


「い、いや、実際には確認してない……」


 ここでついに九缶目を飲みきった木俣さん


「プファー! やっぱサイコーっすね、スーパー搾り!」


 だが目の前の男ときたら、未だなお


「あれって、本当は刺されてないかも? とすると、あれを運んでいた亭主三人って何なんだ?」


 これに、十缶目のプルに手をかけている飲み助が


「そんなゴチャゴチャ言わんと、己の小さき目で確かめたらいいじゃん!」


「ええっ? 死体、いやもとい、死体かどうかを、この僕が?」


「その僕が、だ」


「あのう、一つお願いが……」


 だがキッパリと


「やなこった」


「そんなつれないことなど仰らずに……ね? このとおりですから」


 慌てて両手を合わせるおにぎり君。だが、その合わせた掌の間から見えた光景は――自分に向けられている銃口だった。




「お、お邪魔します……」


 誰に断ってるのか? もしここで返事が返ってきたら、どうするつもりなのか?


 梅さんに聞いてやってきたは薄暗き部屋、思わず身震いするほどの寒さである。

 それもそのはず、窓という窓がすべて全開にされてるのだ。


「で、電気は?」


 だがここは田舎屋敷。灯りの紐は中央にぶら下がっている。

 ようやくその真下までたどり着いた田部君、目の前の紐を一気に三回ばかし引っ張った。すると部屋全体が少しだけオレンジ色に染まり、奥の壁に沿ってゴザが敷いてあるのが目に留まった。


「あ、あれだ」


 飲み込んだ生唾の音すら響き渡りそうな、そんな中をゆっくりと忍び足で近づく彼氏。

 そしてとうとう


「は、蓮生さん。ご、ご機嫌うるわしゅう」


 このおにぎり、明らかにテンパっている。


「少しだけ、失礼しますね」

 そう許しを請いながらゴザを捲った田部君。思わず力が入ってしまい、それをすべて剥ぎ取ってしまっている。


「わっわっ!」


 ご本人が驚いている。確かに、どこが『少しだけ』やら。

 やがてようやく慣れたのか、その場に屈みこんだおにぎり君――あ、いや、口に手を当てている?


「も、戻しそう……」


 何とか踏みとどまった彼氏、ここでついに肝を据えたのだ。


「このまま帰ったら、何を言われるかわからんし」


 きっとボロクソだろう。

 まずは突き刺さったままのナイフに目を凝らし、次には己の手の甲を相手の鼻の下に当て――そして、出された結論は?


「んもう! ちゃんと死んでるじゃん!」


 摩訶不思議な日本語ではあった――


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