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その10

 一方、こちらは女流探偵のお二人さん。


「おい? 何で、さっきから白飯ばかり食わされてんだ?」


「気にしない、気にしない! しこたまカロリー摂って、その土管姿に磨きをかけてくれい!」


 すでにビール半ダースを空にしている木俣さん、肉じゃがや南蛮漬け二人前分を肴にしてすこぶるご満悦。


「はああ? だから酒呑みは嫌いなんだよな!」


 こちらビア樽如き志保さんは、意外も意外、その見かけによらず下戸なのだ。


 報酬をせしめる策を練りながらの食事。欧米並みに時間を費やした格好だったが、この時、柱時計が十一時を知らせてきた。

 これには驚く志保さん


「へっ、もうこんな時間? あたしゃいったい、何時間白飯食い続けてるんだあ?」


 これにホロ酔い気味の女が


「わっはっは! 牛でも、そこまでかからんぞ」


「この酔っ払いめが」

 素面の方の探偵さんが、相手を睨みながら立ち上がって


「じゃあ、ボチボチ行きましょかいな」


 だが


「行くって、用足し?」


「はああ? 何を言ってるんだ? おにぎりさんの警護に決まってるだろが!」


 これには木俣さん、身振り手振りも加えつつ


「志保。そこにお座り」


 いきなり命令され戸惑う相手だったが、なおもそこに


「いいから、座りんしゃい」


 この女が博多弁になった時は本気モード、というのを知ってる志保さん。ここは素直に従った。


「はいはい……で、何だ?」


 これを見た木俣さん、軽く頷きながら


「それでよかとよ。でさあ……」


「ん? 何をあらたまってる?」


「私ら、ブレてね?」


「ブレてるって? 何のことだあ?」


「だってさあ」

 こう言葉を発しながら、前のめりになった木俣さん


「目的はあくまでも金、金なんだぞう。殺しなんてさ、二の次だぞう……ユーシー?」


 これまた平気な顔で、物騒なことをぬかしてくる木俣さんだったが


「おお! その通りだった!」

 やはり、同じ穴のムジナである。さらに志保さん、続けて


「ま、彼氏も、いざとなれば大声でも張り上げるだろうしな」


「そういうことだな。あれでも一応は男だし」

 使用人に対し、散々な言い方をする雇用主ではあったが


「じゃあ同志よ、報酬奪取作戦会議を続けようではないか!」

 



 カーテン越しの外よりの光で目を覚ました田部助手、一発伸びをかまし


「ふわあー」

 だがすぐに己の立場を立場を思い出した模様で、その丸っこい体全体を見回し


「ああ、無事だった!」


 お腹だけでなく心も満腹感一杯で熟睡してたくせに、だ。

 そしてすぐに廊下へと飛び出し、目当ての部屋の前までやってきた……だが、ここで躊躇した。いくら女っぽくないと言っても、やはりうら若き二人の女性には間違いないのだ。少なくとも男性ではないのだ。

 だが、さすがに心優しき青年である。二人に一刻も早く元気な姿を見せ、安心させて上げたいのである。


「おはようございます!」


 まずは中に一声かけてから、襖をゆっくりと開けるおにぎり君。だがそこには、一生涯トラウマにでもなりかねない程のあられもない姿の――二匹の、蚊トンボと象ムシ。そらおぞましすぎる。

 開けた時の十倍の早さで襖を閉めた彼氏、そそくさと立ち去ろうとしたところ、中より


「寝姿、見たなよなあ?」

「一人だったら、襲ってたよなあ?」


 これには慌てふためくおにぎり君。咄嗟に再び襖を開けたのはよかったが


「キャアー! 変態よ、変態!」

「アーレー! お嫁に行けなくなっちゃう!」


「ち、違いますって! ぼ、僕は少しでも早く元気な姿をお二人さんに見せなきゃって!」


 こう弁解しながらも、伏し目がちの田部君。これにようやくお二人さんも


「わかった、わかった」

「そういうことにでもしとこか」


「ど、どうも……」

 ひたすら頭を下げてるおにぎり君、ここで、さらに蚊のなくような声で


「き、木俣さん……ぱんつ丸見えですが」


「ん?」

 すぐに己の下半身に目をやった女


「お、ホントだ! じゃあ君、拝観料として金一万を……」


 この時だった。

 突っ立ってる田部君の背後を、数人がバタバタと慌ただしく走りすぎていった。

 それを目で追う田部君


「朝から何の騒ぎだろう?」


 これに象……志保さんが、ゆっくりと


「あっちってさあ、確か玄関だよね?」


 そしてこちらの蚊……木俣さんも、のんびりと


「外で何かあったんじゃね?」


「外で?」

 ここで、ようやく気づいたおにぎり君


「も、物置小屋だ! は、蓮生さんだ!」



 小屋の前には、すでに家族全員が集まっていた――無論、主の大五郎と似非家族のカボチャ頭を除いてだが。

 姿の見えない旦那衆三人が、おそらくは中の状況を確認してるのだろう。

 本来ならば己の寝食の場であったはず。こう考えると居ても立ってもいられない田部君だったが、そこに梅さんが近づいてきた。


「大丈夫ですか? 何だか顔色が」


「え? あ、梅さん。し、心配ご無用ですよ」

 努めて明るく振る舞う田部君


「それより、蓮生さんの具合は?」

 この問いかけに相手が顔を背けたのを見て、すぐに悟った。


「ま、まさか、お亡くなりに……」


 はたして、梅さんはゆっくりと頷いている。

 これを見て、小屋の方へと足を進めるおにぎり君。その周りには、憔悴しきった顔をしている家族の面々が立っている。無論、腹の中は、真逆のはず――これくらいは、彼にでもわかる。


 やがて道真、宗茂、長政の三名の男性陣により、中から運び出された仏さん。ゴザが掛けれてはいるものの、その胸の異常な出っ張り具合によって、そこに凶器が突き刺さったままなのがわかる。

 それを呆然と見ている田部君、その背より


「お金って、恐ろしいものですね」


 声でわかった。田部君は、振り向きながら


「梅さん? 確か、小屋の戸口には鍵が」


「ええ。掛かってたはずです」


「じゃあ今朝、戸口には鍵は……」


 この時


「いいじゃん、いいじゃん、鍵なんてさ」


 いつの間にかやってきてた女流探偵ペア。木俣さんなんぞ、不謹慎にも欠伸までしている。

 そこに梅さんが、今の問いかけの答えとして


「鍵は掛かってなかったようです」


「そうですか」


 ここで助手に木俣探偵から


「やっちゃた後はさ、できるだけダッシュでここから立ち去るもんだって。リアルならね。第一見つかったらさ、元も子もなくなるじゃん」

 そう言い切った木俣さん、お次は梅さんの方に目をやり


「で、昨日きた玄海って先生は? まだいるの?」


「いえ。あれから、すぐにお帰りになられました」


「そっか。で、今日も来るんでしょ?」


 だが、相手は頭を振り


「い、いえ。今度お見えになるのは三日後です」


 この言葉に反応したのは、ずっと黙りこくってた志保さんで


「三日後だって? あの爺さんの車しか当てがないっていうのに!」


 そこに木俣さんも


「確かに、な。ここでこのまま、三日間も過ごさなならんってわけだ」

 そう言いながら、小屋の方を見やり


「お次は撫子か、はたまた椿か」


 だが志保さん、すかさず


「あんたもや、あんたも!」


「おお、そうやった」


「そうやったって……呑気なもんだな」


 このやり取りを見ていた梅さんが


「あのう? 失礼ですが、お二方とも昔からのお知り合いですか?」


「え?」 異口同音。


「ま、まさか。こんな土管娘と知り合いだなんて」

「だ、誰が好き好んで蚊トンボなんかと」


「そ、そうでしたか。息がピッタリ合っておられますもんで」


とは言いながらも、訝ってるお手伝いさんである――




 その後、哀しき報告も兼ね、主の元へ集合した面々。


「ウッウッウッ……養子とはいえ、ここまで手塩にかけて育ててきたあやつが……ウッウッウッ」


 床の中で泣き崩れている大五郎さん。

 そこに


「元はといえば、てめえが書いた遺言が悪いんじゃ」


「ウッウッ……ん? 何か言ったか、そこのカボチャ娘?」


「あ、いえ。私も養子の身ゆえ、ご心中をお察しします、と」


「そ、そうか。お前さんも養子の身だったな」

 そう労った大五郎爺さんだったが、すぐに咽び


「ゴホゴホッ、ゴホホのホッ」


 これを見た長浜弁護士が、皆を見回しつつ


「じゃ、じゃあこれでお開きと」




「胸を正面から三度刺されてたんだってさ」


 志保さんが、どこやらか情報を収集してきたらしい。


「じゃあ蓮尾って、油断したっぽいな」


「だな、マキ。で、私らの、これからの行動を考えると」

 こう切り出してきた志保さん、すぐに表情を引き締め


「第一に、殺しを傍観することである!」


 これに木俣さんも諸手を挙げ


「おお! 大賛成なのだ! しまいに、この土筆ちゃんに遺産がゴッソリ転がり込めば……」


 志保さんも調子こいて反復してきた。


「そそ。転がり込めば……」


「ほ、報酬も、ゲ、ゲットできるってわけなのだ!」


 この、いきなりの雇い主の滑舌の悪さが気になった使用人の田部助手。相当訝って


「遺産がゴッソリ転がり込んできた後、まさか木俣さんってトンズラする気じゃ?」


「ま、まさか。な、何を言うのだ!」


 はたして、志保さんも疑惑の目を向け


「その慌てふためき様、確かにおぬしならやりかねんわな?」


「そげなこと、金輪際なかとですたい。紙に誓うとですたい」


「ふうん。いきなりの博多弁も怪しいわな? で、かみに誓うって、ペーパーの紙だったりするかもな?」


「ドキン……いやいや、ちゃんとゴッドのかみですたいね」


「そっか、まあいいわ。ま、何か不審な動きがあれば、このプロジェクトから外すからな……で、ずっと空いたんで言いにくいが、第二は」

 志保さん、木俣さんの顔を覗きこみながら


「土筆ちゃん自身の身の危険、だな」


「おろっ? 確かにそうであったな」


「ま、てめえの身はてめえで守るんだな、木俣マキよ」


「それくらいはわかっておるわ、星名志保」


 何だか空気が元に戻ってきた感が。それもこれも、田部君の『トンズラ発言』に起因している。

 そして、そんな彼氏がいきなり挙手し


「異議あり!」


 だがお二人さんは、相も変わらず


「後々、『助けてえ~』って泣きべそかいても知らんからな、木俣マキ」


「誰が貴様なんぞに助けを求めるか、星名志保」


「異議あり!」


 木俣さん、ようやくこれに反応し


「るっせえな、さっきから。キミがおにぎりくらい知ってるわ!」


「ち、違いますって! 異議ありって言ってるんです! 第一、異議ありとおにぎりって、語感的にそこまで似てないでしょ!」


「いちいち、うぜえやっちゃな。で、何だ?」


 これに田部助手、すこぶるまっとうな発言で


「蓮生さん殺しの真犯人の捜査が最優先かと」


「ほうほう。相も変わらずいい子ぶりやがる……」

 すこぶる嫌味タップリな蚊トンボさん、さらに


「じゃあ、ただ今よりキミを捜査係に任命する!」


「はあ? またあ、生きもの係みたいに簡単に言って」


 だがこれを無視した木俣さん、二人に向かっていきなり


「ささ、今より保身に努めるから、とっとと出ていってくれるか?」

 そう言いながら、どこやらから取り出したマジックインキで襖の下あたりの畳に線を引き始めてきた。


「この線からこっちはマキの陣地だから、入ってきたらダメだからね! あ、空中もアウトだぞ!」


 これを見た志保さん並びに田部君、思わず顔を見合わせ一言


「お子ちゃまか?」


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