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魔法世界に生まれて  作者: おきょう
第一章
6/21

「エドワード王子、こちらへ!」


若い兵士が、繋いでいたルルとエドワードの手を無理矢理離すと、エドワードを立ちあがらせて自らの後ろに引き寄せて隠す。


今ここに居る兵達は『悪人から王家を守る』と言う職務に忠実すぎるほど忠実だった。

王族同士で暗殺など行われる可能性さえある場所で、彼らは現王家を守る立場。

ルルがどんな身分の人間なのかは関係無いらしい。


ルルの細い二の腕を、兵が乱暴に掴んだ。


「王子の頬をあんなに腫らしやがって!!」

「っ…!」


(やだやだ! 何、怖い!)


縦にも横にも自分の数倍の大きさはある大の大人に乱暴に扱われ、怖がらない方がおかしい。

ルルは恐怖で思わず目をつむり、身構えた。


「……な、に…?!」


しかし、逆に兵士はうろたえた声をあげて腕を離してしまう。


(……へ?)


そうっと目を開けたルルは、自分を取り囲む兵たちが皆自分の顔を驚愕の表情で見ているのに首をかしげる。


「『王の祝福』……?」

「こんな子供に与えたなんて聞いてないぞ?」

「いや、しかし現に…。」


兵士たちの困惑した声に、ルルは眉を下げる。


(王の祝福って…レア陛下にされたあのキスよね? 何で分かるの? 口紅でも付いてたとか?)


手の甲でごしごしと額をすってみる。

こすった手を目の前に持ってきて見てみるが、口紅は付いていなかった。


(うーん…?)


彼女の額には、王家の紋章が浮かび上がっていた。

『王の祝福』は何らかの危機が迫ると淡く光って浮かび上がる術だ。

与えられた者が王家の守護化にあることの証明。

王族に絶対的な信頼を得たものだけが与えられる特別な称号。


紋章が浮かんでいるのは(ひたい)の為、残念ながらルルからは一切見えない。

だからどうして周囲の兵たちが驚いた様子で自分を見ているのか、さっぱり分からなかった。


「……取れないよ。」

「へ?」

「『王の祝福』は魔力で刻む刻印。こすったって取れない。」

「……っ、エドワードおうじ?!」


見ると兵士の足の後ろから身を乗り出して、エドワードがふんわりと微笑しながら話していた。

相変わらず瞼は半分降りていて眠そうな表情ではあったが。


(おぉー、王子笑ったら可愛いな!! いやいや。そんなことより何で普通に話してんの!?)


エディのさわやか笑顔とはまた違う、小動物系の癒し笑顔に精神年齢17歳のお姉さんは思わずときめいてしまいそうだ。

ルルの疑問を読んだらしく、エドワードが可愛く小首を傾げて口を開く。

ふわふわの髪質に大きな瞳、ふっくらした唇で話す様は、さながら子犬を思いだす愛らしさだった。


「話すのが面倒なだけで、話せないわけじゃないから。」

「…はぁ?」


(ど、どんだけ面倒くさがりなのよ…。)


もうちょっと舌が回る年だったなら、もう何時間だって説教してやったところだ。

だが残念ながら今は舌っ足らずな3歳児。

しかも周囲には怖い顔をしたおじさん達が取り囲んでるときた。

ルルはグッと息を飲み、怒りを耐える。


目の端に、ラグの上を土足で踏みつける男の人の足が移る。

足から辿って見上げてみると今この場にいる兵の中で一番偉いらしい、ふんぞり返った目つきの悪い兵だった。

彼はルルを睨みつけ、部下に命じた。


「王の祝福があったとしても、この娘がどこの誰だろうと、王族に手を挙げたとすればそんなもの意味はない! 連れて行け!」

「はっ!」

「えぇぇ?!」


(助かったんじゃないの?!)


『王の祝福』とやら言う訳のわからないものでこの場を切り抜けたと思っていたルルに、またごつい男の手が伸びる。

しかしその男の手はルルの元まで行き着くことはない。

ルルは急いで頭の中で、円形の壁を想い浮かべると、魔力を込めて言葉を放つ。


「かぜのたちぇー!」

「何?!」


突如、窓も開いていない部屋に風が吹き、ルルと兵の間に円形の盾が浮かび上がる。

盾に兵の手が触れると、風がその手をはじき返してしまった。


「……魔法?」

「まさか、まだ魔法学なんて学ぶ年じゃないだろう。」


うろたえる兵たちを余所に、ルルは呆然と宙に浮かぶ半透明の盾を見る。


(…出来るものなのねぇ。)


灯りを付けたり、飲み水を出したり。

そんな日常的な事にしか魔法を使ったことの無かったルルには防御魔法なんて初めてのことだった。

騒ぐ兵士と、まじまじと興味深げに宙に浮かぶ盾を見ている3歳児。

その奇妙な空間に匙を投げたのは、無口で何にも興味を示さないと有名な王子様だ。


「ルルは何もしていないよ。」

「…は?」


一番偉い人らしい兵が、エドワードを見下ろす。


「さっきまで走り回ってたから、それで頬が赤いんだと思う。」

「いや、しかし…。」


運動したための赤みと、叩かれての赤みを間違えるわけがない。

反論しようとした兵士だったが、見つめたエドワードの瞳に言葉を失う。


「っ……!」


----冷たい。

冷酷な鋭さを秘めた瞳。

外見は6歳児なのに、射殺されるかと錯覚するほど、恐怖を覚えた。

思わず1歩、後ずさってしまう。


(何だこれは! ぼんやりした王子だと聞いていたのにっ…。)


「……まだ何かあるのか?」


これ以上の追及を許さない支配者の声に、兵は視線を泳がせる。


「いえ、お騒がせして申し訳ありませんでした! 我々は失礼します!」


物差しでも入っているのか疑いたくなるほどに姿勢を正した男たちは、礼をし後ずさった後、慌てたな足取りで去って言った。

乱暴に閉ざされる扉が閉じるのを見送って、ルルは扉とエドワードを交互に見比べながら、首をひねる。


(何…?)


エドワードは丁度ルルに背中を向けていた。

だから彼がどれほど6歳児に不釣り合いな表情をしたか、ルルからは一切見えていなかったのだ。

ルルはただ、エドワードが普通に話していることにひたすら驚いていただけだった。


「エドワードおうじ…?」


ルルがラグにペタリと座り込んだまま、立っているエドワードを恐る恐る呼んでみる。

振り向いたエドワードは、ルルと目が合うと何度か瞬きをして…笑った。

ふわっと幼児らしく緩む表情の愛らしさに、ルルもつられて口元を緩めた。


(駄目だ…この子の癒し系笑顔!)


小動物を愛でる感覚でときめくルルだった。

しかしまた半分瞼が落ちた眠そうなぼんやりした表情に変わったエドワードは、今度こそ本当に眠いのか小さな手で目元をこすりながら言うのだ。


「……ルル。」

「はい?」

「…また……きて、くれ…る?」


(話し方戻ってるし。どんだけ面倒なのよ! …でも片言で小首かしげる美少年王子も可愛いな!)


とろりとした紫の瞳にふわふわの髪。

度の過ぎた面倒臭がりはちょっと許せないけれど。

それでものんびり癒し系美少年に可愛らしくお願いされて、可愛い物好きの元女子高生が断れるはずはない。


「はい! またあしょんでくだたいね。」



**************************



----レース素材のカーテンの隙間から柔らかな朝日が指す。



「……あそこで…あそこで頷かなければっ…。」


寝室の中央に置かれた天蓋つきのベッドでは、目覚めたばかりの少女が薄いワンピース型の夜着で枕に突っ伏して唸っていた。

今まで見ていた夢を頭の中で反芻しているらしく、彼女は苦悩した様子で白い足を時折ばたつかせる。


子供から大人へと変わる成長期。

柔らかく丸みを帯び始めた身体が白いシーツを漂う光景は見る者が見れば扇情的に映るのだろう。

そんな魅惑を秘めた少女は、先ほどまで突っ伏していた枕を放って身体を起こす。

ひとしきり夢に対する文句は終わったらしい。

すらりと伸びた手を挙げて伸びをして、深呼吸を繰り返した。

子供の頃より緩くなったくせ毛の、艶やかな金髪を耳の後ろに掻き上げると露わになったのは、青い瞳の可憐な少女。


ルル・シュトレーン  14歳


史上最年少で国家中級魔法師の資格を得た、魔法分野で天才と称えられる公爵令嬢。


彼女との出会いから11年経った幼馴染の王子様は、現在も相変わらず面倒くさがり過ぎる、良いのは見た目だけの癒し系だ。






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