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魔法世界に生まれて  作者: おきょう
第三章
20/21

20


リリックは王城の敷地内の、いくつもある庭園のひとつを見回りをしていた。

かつて特殊部隊『(フラム)』に属していた彼だけど、家族第一で生きると決めて希望降格し一般兵になってからは気楽なものだ。

たまに国王から極秘裏の特殊な命を受ける以外は、こうして決めれた時間に決められた場所を見回ればいいだけなのだから。

緑の多い庭園を歩いていたリリックは、木の側で何やらこそこそとしている小さな少女の存在に気付く。


「不審者?…にしては子供すぎるか」


こちらへお尻を向けて、つま先立ちで王城の窓を覗いている小さな子供。

腰まで流れる柔らかそうな髪は、珍しい桃色で、毛先にいくにつれ濃い色へとグラデーションしている。


「6歳か7歳くらいだよなー」


相手がこちらへ気づいていなさそうなので、リリックはこっそりと少女の背後に立つ。

腰を落としてしゃがみ込んでから、彼女の肩を2度軽くたたいた。


「っ……!?!?」

「おじょーさん、何をしてらっしゃるんです?」

「なななな何もしていませんわ!」


振り向いた少女の目は、気性の強さを表しているような、くりっと丸くて少し釣り上がり気味な形だ。

めったに見られない美少女に、リリックは驚く。

きっと将来は男を惑わす魔性の女になるのだ。なんて、本人からすれば余計なお世話な将来を思い描くくらいはきれいな子供だった。


「いやいや、こそこそと城の中を覗いていたでしょう。どうしました?お父様かお母様と一緒に入城したのですか?迷子とか」

「わ、私が幼子(おさなご)のように迷子になどなるはずがありませんでしょう!」

「そうですか……」


(困ったな…)


眉を下げてリリックは苦笑した。


「えーっと、名前は?」

「名前…パテカと呼ばれていますわ」

「パテカ…?」


王城に子供連れで入ることを許されるくらいだから、余程の身分なのだと思った。

けれど名だたる高位貴族の家族構成を頭の中でいくら思い出しても、パテカなどと言う少女の名前は思い浮かばない。


(珍しい名だし、忘れるはずないんだけどな。あだ名か?しかも桃色の髪…)


桃色なんて、どう考えても人間には有り得ない髪色だ。


(こんな小さな子の髪をこんな奇抜な色に染めるくらいの変わり者…)


「ねぇ、あなた」

「はい?」


やけに上から物を言う子供だ。

この子はよほど甘やかされて育てられたんだろうなと、高い地位にいながらも偉ぶることなく育ってくれたルルとエドワードを思い描いた。


「エドワード王子とやらをご存じ?」

「もちろん存じておりますが…」

「親しいのかしら」

「そうですね…ほかの者と比べるとわりと」


うなずくリリックを、なぜかパテカは目を細めて睨みつける。


「あの?」


自分の腰ほどの身長もない小さな少女に睨まれても、いつものリリックならば苦笑出来るはずだった。

けれど並みの少女とはどこか違う。

どこか現実味のない、圧倒されるような畏怖が肌を撫でる。


「……気を付けてみていることですわ」

「どういう意味でしょうか」


パテカは上を向いて、高い城を仰ぐ。

彼女の視線をめぐるように、リリックも城を見上げた。


「禍々しい気配が王城に取り巻いてますもの。特にエドワード王子の居室が最も濃い。放って置いては呑まれますわよ」

「っ………。君は…」


パテカの言うことは、魔法にうといリリックにはいまいち理解できないものだった。

それでもこの城に…エドワードに何かが起こっていることは分かる。

リリックがパテカへと視線を移すと、彼女は顎をつんと上げて胸を張って見せた。


「あなたが(わたくし)(あるじ)から信を得ているようだから教えてあげましたの。感謝しなさい」


どこまでも高飛車で堂々たる態度だ。



疑問はいくつも沸いてきたものの、リリックの更なる追求をパテカは許さなかった。

さらに親を探すという申し出も断り、引き留める間もなく身をひるがえして立ち去ってしまった不思議な少女。

後を追ってみたものの、飛び去る桃色の小鳥が視界の端を掠めただけ。


(探しても無駄か…。彼女を追うより、陛下への報告を優先しよう)



*****************


「なるほどねぇ」


レアは玉座に座っていた。

目の前で片肘ついて報告を済ませたばかりのリリックを見下ろし、息をつく。


「ここ数日、確かにエドワードがうわの空なのよね。まぁあの子はいつもぼんやりだけど」


一応母親なのだ。息子がただ呆けているのか、何か悩みがあって呆けているのかの差くらいさすがに分かる。


「それより、その少女の言う(あるじ)という者に心当たりは?貴方と関わりのある人物だと言っていたのでしょう?」

「パテカと名乗っておりましたが、聞き覚えのない名前です」


レアはふと思い出す。


「ルルちゃんがそう言う名前の小鳥を飼い始めたって聞いたわねぇ」


思わず顔を上げたリリックとレアの視線が噛みあい、2人そろってため息を吐いた。


「ただの鳥では無かったと…」

「本当、面白い子ね」


レアは含み笑いを浮かべつつ、艶を放つ赤い唇へと指先を当てて思案した。


(おそらくパテカと言う小鳥は魔に属すものね。人型になれるなんてどれだけ高位の魔物なのか…。でもエドワードの危機だという有益な情報を与えてくれたのだし)


王城に出入りする力のある魔物。

本当ならすぐにでも討伐に乗り出すべきだ。


「…何が起こっているか探るための餌として置いておくべきね」

「はっ。では…」

「えぇ、しばらくは見回り番はお休みなさい。私のもとで少し働いてもらうわ」

「…家に帰る時間はくださいね」





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