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魔法世界に生まれて  作者: おきょう
第一章
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ピンクの壁紙に白のアンティーク家具。

床にはテディベアや絵本がちらばる、幼い子供に似合いの愛らしい部屋の片隅。

少女は床にペタリとお尻をつけた格好で、目の前の姿見に映る自分をまじまじと見つめていた。

年は3歳。乳児期を終え、幼児期も後半に入る年になり、肉体的にも精神的にも自我が芽生え始めた時期。


生まれて3年の月日を経て、やっと自分の置かれた状況を理解するようになっていた。


(つまり…前世の記憶を持ったまま、生まれ変わっちゃったってことかぁ。)


ぼんやりと思いながら、ふっくらとした幼い手の指先で、そうっと自分が映った鏡に触れてみる。

純和風だった黒髪黒瞳は、艶やかなくりくりとくせ毛がかった金髪と長いまつ毛に縁取られた碧眼と言う派手な容姿に変わっていて、どこからどう見ても西洋風の可愛らしいお人形と言った容貌だ。


(それで、やっぱりここって…。)


3年かけてやっと言葉を理解し、大人たちの会話から状況を察することができた。

生まれたころから感じていた、違和感の正体も理解した。


(前世の私が生きていた所とは、まったく違う世界なのね。)


前世の最後の記憶は、17歳になったばかりの日本の女子高生。

名前は鈴木亜子。

生まれ変わったということは鈴木亜子は死んだと言うことだろうけれど、死の前後の記憶はさっぱり無い。

気が付いたらルル・シュトレーンとしてこの世界で赤ん坊をしていた。 


何の変哲もない普通の女子高生だったから、もちろん亜子は携帯もパソコンも使いこなしていて、世界中の情報を簡単に得ることが出来ていた。


(…ネットでもTVでも、こんな文化のある国は聞いたことが無いし。)


ルルは鏡に触れていた指を離すと、手のひらを上向きにして神経を集中させる。

頭の中で、部屋の中に差し込んでいる日の光を集めるイメージを作り出す。


「あかりだま…。」


そっと呟く、と…言葉と脳内イメージに反応して、手のひらに柔らかい光を放つ球体が浮かび始めた。

ルルは幼い子供に不似合いな難しい表情で眉を寄せる。

手のひらの上にぷかぷか浮かぶ光の玉を見つめながら、思わず唸るように不満げな声がでる。


「『まほう』なんて…ありえないんだけどお」


この世界には、魔法がある。


発達した魔法文化こそが、ここが異世界だと知るに至った決定的な理由だ。



(ほんっと意味がわかんない。魔法なんて非現実的なものがどうして可能になるのよー。)


3年たってもまだ信じがたい。

でもさすがにもう信じるしかないだろうか。

うんうん唸りながら考え込んでいると、部屋の扉をたたく音が聞こえた。

光の玉を消して、音の方を振り向く。


「ルル。入っていいかな?」


聞き覚えのある、男の人の声。


「にいしゃま?!」


その声の主に当たりをつけるとルルは表情を明るく一転させて、一目散に扉へと走って行った。

走ったとは言っても、3歳児の頼りない足取りでは、そこそこの時間がかかったが。

背伸びをしてドアノブを回し、廊下にたたずむ兄を見上げてにっこりと笑う。

子供の柔らかなふくふくの頬が幸せそうに緩む様に、見ている方も幸せな気分になってしまうのか、対面した兄も満面の笑みでルルの頭を撫でるのだった。


「エディにいしゃま、おかえりなしゃっ!」

「ただいま。ルル、いい子にしてた?」

「はいっ!」


外出先から帰ったばかりの兄エディの腰に、勢いを付けて抱きついてみせる。

するとエディは、軽々と彼女を抱き上げて頬にキスをしてくれて、そしてもう一度優しく抱きしめてくれた。


(はー、幸せ。鼻血出そう。堂々と美少年に抱きつける立場と年齢で本当良かった!)


目の前に金髪の超絶美少年が居て、しかも堂々と甘えに甘えられる妹と言う立場。

我慢なんて出来るはずもする必要もない。

この世界に生まれて3年。

文化の違いに戸惑いながらも、ルルは兄にべったべたに甘える充実のブラコンライフを送っている。



「エディにいしゃま、きょうのお出かけはおしまいでつか?」


(うー…やっぱり舌ったらずになっちゃうなぁ。年齢的には当たり前なんだろうけど、17歳のつもりの私としては恥ずかしい…。)


内心で地味な精神的ダメージを受けながらも、ルルは期待を込めて自分を抱き上げているエディを見つめた。


就学前な上、一人で外にも出られない3歳児の遊び相手なんて家族と使用人くらいなのだ。

両親は仕事で外出中。 使用人は夕食前で一番忙しい時間帯。 乳母は10日に1度の休暇日。

暇を持て余していた幼児に格好の遊び相手が現れた。

逃がすわけがない。

じっと上目遣いに見つめていると、エディのエメラルド色の瞳をもつ()れ目気味の目元が、更にとろけるように下がる。


「あぁ、終わりだよ。ルルと遊ぶために急いで帰ってきたんだ。」

「わぁ!にいしゃま、だいすきー!」

「ルル…、あぁ…可愛いなぁ。」


(エディ兄様もたいがいシスコンよねー。)


少し行きすぎのシスコン具合だとも思うが、美少年にちやほやされるのは幸せなのでルル的に問題はない。




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