アイドル声優とだって付き合いがある
——しぶとい。
「いやしぶといって何だよ! お前は、夢に出てきた女神か!?」
自分でもおかしいと思う。
頭の中で響く声と会話を試みようとするなど、正気の沙汰ではない。
しかし、思いとは裏腹に回答があった。
——2階から飛び降りるとは、さすがは私の見込んだ勇者様です。勇敢! めっちゃ世界救いそう!
「救いそうって、なんだよ」
——だって、すごくないですか! 危機察知能力の薄れた現代日本人が、あの短時間で殺意を察知して2階から飛び降りたんですよ! 間違いない、ルイ。あなたは伝説の勇者になる雰囲気、充分です!
雰囲気充分って煮え切らない表現だな。
「そうはいくか! 俺は絶対に異世界なんて行かないからな!」
——なんでですか! ちょっと、そんなのおかしいですよ! 現代日本の若者はたいてい絶望していて、異世界転生願望がむんむんだって聞いてます。
異世界転生願望がむんむんってなんだよ。
「いや結構。俺は陽キャなパリピなんで、今の人生を手放したくないんでね」
——な! あなた、想像力が欠如してます。異世界は楽しいですよ! もし来れば、あなたの冒険譚がラノベ作家によって記され、その勇気は世界中、主にアジア圏で翻訳されて大人気間違いなし! 連載一年でアニメ化が決まり、映画化も決定。キャストを決める権限もあなたに与えられ、声優と結婚できること請け合いです!
ずいぶん飛躍してるな。それに、妙にこっちの世界の文化に詳しい気がするが、そんなことよりも。
「残念ながら間に合ってるんだ。すでにアイドル声優と付き合いはあるんでね」
——な ん だ と !
さすがに女神の声にも動揺が浮かぶ。
たまたま大学の知り合いの後輩がアイドル声優で、合コンで知り合い持ち帰り済みだ。
「わかったらもう話しかけないでくれ。俺はこの世界が好きなんだよ!」
——いやはや。これだから読書をしない若者っていうのは。何度も言いますがあなた、想像力の欠如が著しいですね。
なんだこいつ鬱陶しいな。
——ルイ。あなたはただ異世界転生するんじゃないんですよ。それはもう、私の全力をもってしてあなたにチート能力を授けるでしょう。その能力で活躍する様はめちゃめちゃ格好良くて、それはもう異世界のありとあらゆる美女を虜にするに違いありません。異世界チートハーレムの扉は、今ここに開いているのです!
「いや、いいっす」
——な ん で だ よ !
「残念ながら俺、美女に困ってないんで、ダイジョブっす」
女神の絶望の音がした。
さて、諦めてくれたかな。
声が聞こえなくなったことで俺は、勝ったな、と思い意気揚々と歩き始めた。
那月の部屋には戻れないし、どうしたものかと考えたが、どうしようもないので自分のマンションに帰るとしよう。
「あなた……変態ですね。通報します」
唐突に、見知らぬ少女に話しかけられた。
ふと視線を落とす。
そこにはイチモツがある。
俺は、裸だ。




