起きたらたいてい裸の女が隣にいる
妙な夢を見た。
めちゃめちゃ綺麗な女神様が俺に声をかけた。
曰く、俺が勇者であると。
アクアグラスという世界を救え、と。
俺はベッドで上半身を起こした。
「妙にリアルな夢だったな……」
「ん……。おはよう累。どうかした?」
隣に寝ていた那月が眠そうに目を擦っている。
やってそのままシャワーも浴びずに寝たので、俺も那月も裸だ。
「いや、別に……」
「ふふ。変なの」
那月は俺に絡めつくように腕を回した。体重を預けられ、俺はベッドに倒れた。彼女の唇が、俺に頬に重なり、胸の柔らかな感触から温かさが伝わった。
那月は彼女ではない。
一月ほど前から仲良くしている女性の一人で、最近はよく彼女の家に泊まり夜をともにする。
ただ、セックスフレンドではない……つもりだ。那月と一緒にいると楽しいし、彼女もきっとそう思ってくれているだろう。
「那月、なんかさぁ……、俺楽しいよ」
「ホントに変な累」
彼女に愛撫されながらも、俺は夢のことを思い出す。
「異世界なんて行きたくないよなぁ」
「異世界、なにそれ?」
だって、この世界が楽しいんだから、得体のしれない世界を救う義理なんてない。
——駄目です! 異世界転生してください! てゆーか、させます!
「うわっ!」
「……ちょっと累。今日本当におかしいよ? こっちも小さくなってきたし。本当にどうしちゃったの?」
「あれ? 今の声、聞こえなかった?」
「声? はぁ?」
いやまて、冷静になれ。
確かに、今の声は耳に届いたような感じではなかった。まるで心の中に直接響いたかのような感触だった。
まさか、夢の女神?
いや、そんなファンタジーは起こり得ない。
「どうしたんだろう、俺。頭おかしくなっちゃったのかな」
那月は怪訝な表情で俺を見つめている。
いや、きっと何かの間違いだ。気を取り直し那月に組み付こうとした。そのとき、不意にスマホが震えた。
手にとり、ロックを解除したところで那月に奪われた。
「様子がおかしい累にはどんなメッセージが届いたのかな?」
「おい、やめろ」
言う間もなく、那月は読み上げた。
「『この間は楽しかったね。ねぇ、今度会うのはいつ? また、いっぱい気持ちぃことしようね』。……なにこれ?」
迂闊だった。
変な声が聞こえ、寝起きで混乱していたとはいえ、那月にスマホを奪われてしまうなんて。
「……さぁ。スパムじゃねぇの?」
「いやいやいや、おかしくない? だってその前に、累のメッセージあるじゃん。場所の確認してるじゃん。会ってるじゃん。ねぇなんであたしっていう彼女がいるのに知らない女とあってんの、ねぇなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
詰問してきたと思った那月は、声だけヒステリックになり無表情で涙を流し始めた。なんだこれは、やばい。
それにしても、彼女?
「彼女? 那月が彼女だなんて、俺、言ったっけ?」
彼女の血の気が引くのがわかった。
彼女は立ち上がり、そしてドアの方に後退った。「最低」言って、裸のままの彼女は部屋から出ていった。
「ふぅ」
月曜の朝から面倒なことになってしまった。今日も大学の講義があるのだが、休もうかなぁなんて気になってくる。
それにしても、那月にはなんて言って弁解すればいいのか。悩ましいものだ。
さて、シャワーでも浴びようかと立ち上がったとのときだった。
那月が再び部屋にやってきた。両手で包丁を握っていた。
「殺す」
「いや待ってくれ那月。意味がわからないんだけど」
「殺す」
目が逝っちゃってる!
「うわぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
包丁を俺に向けて走ってくる那月に気圧された俺は、彼女に背を向けベランダから飛び降りた。
下はコンクリート。転がるように受け身を取ったが全身に痛みが走る。しかしここで止まってはいられないだろう。
「待て累! 殺す殺す殺す殺す!」
「悪かったよ那月、また落ち着いたら話し合おうな! 愛してる」
「……え? あ……え?」
俺の言葉に動揺してくれたようだが、まだ油断は禁物だ。
流石に那月が飛び降りて追ってくるようなことはなかったが、またいつ殺意が戻るかわからないので今は逃げることが懸命だろう。
——しぶとい。
心の中で、例の女神の声が響いた。




