29.
さて、別にこの国の味方と言うわけではないけど、今のところ雇用主はこの国だし、敵は捕まえておかないとね。
私は木々の影に隠れながら、素早く移動した。
一番近い木の後ろにいるけど、気づかれている様子はない。
よし、魔法、使っちゃえ!
純度の高い透明な水を、地面に這わせて近づける。
さながら透明な蛇のように見える水は、足元から這い上がり、二人の男を顔まで拘束した。
口が塞がれている二人は、声を上げることもできずにその場で倒れ込む。
さらに力を加え、そのまま男たちの意識を刈り取った。
制圧完了!
今日は特に予定がなかったし、今の時間帯なら、第一騎士団長は執務室にいるはず。
男たちを廃棄武具倉庫の影に隠し、亜空間から書類を出して抱え、第一騎士団長の執務室まで急いで駆けた。
「カーライル団長!急ぎ、報告したいことが。」
「どうしたんだい?」
「怪しい動きをしている人間を拘束しました。先の戦争のこと、ワイバーンや竜のことを秘密裏に話していました。」
「何?と、言うことは、プリオーネ帝国か?」
「はい、おそらく。」
「案内を頼む。」
「はい!」
一旦執務室に書類を置いて、第一騎士団長を連れて現場に急いだ。
途中、巡回中の騎士に声をかけて、応援を頼んでいた。
第一騎士団長と騎士数名と共に廃棄武具倉庫裏に行くと、二人の男は、制圧したままの状態で気絶していた。
「これは……水?」
触れた第一騎士団長の手が、水で濡れる。
「あ、はい。水で拘束しています。」
「わかった。解いてくれる?」
「はい。」
私が魔法を解除すると、騎士たちが男たちに手枷をつけて縄で拘束した。
そのまま第一騎士団長の指示で、男たちは地下牢へ、私と第一騎士団長は執務室へ戻ることになった。
「さて、詳細を聞こう。」
執務室の椅子に座った第一騎士団長は、そう切り出した。
私は、騎士でない者が騎士の制服を着ていたこと、跡をつけたら怪しい会話をしていたこと、水魔法で拘束したことを順に話した。
「もしかして、騎士を全員覚えている?」
「いえ、名前はわかりません。顔と所属だけです。」
「それでも十分だよ。それと、水魔法……そう言えば、少し使えると、紹介状に書いてあったっけ。」
「はい。こう、水を透明にして、見えなくして、拘束しました。」
「へぇ〜。うまい使い方だね。」
「ありがとうございます。」
「この件はこちらで対処する。ご苦労様。」
「はい。では、書類の配達に戻ります。」
第一騎士団長に挨拶をして、途中だった配達の仕事に取り掛かるのだった。




