1.
次に意識を取り戻したのは、温かい水の中だった。
囲まれている壁を叩いても、びくともしない。
思ったより硬そうだ。
お腹の中ではないのか?
ってことは、卵生……
ここは卵の中?
瞼の裏で目を凝らして見えるのは、光の濃淡だけ。
耳をすませてみるけど、知らない音の羅列と水の音が聞こえるだけ。
異世界と言っていたから、これから新しく言葉や文字を覚えないといけない。
少し楽しみになってきた。
異世界、どんな場所だろう。
何があるのだろう。
危なくないといいけど。
でも、危なくない異世界って、あまり聞いたことがない。
不安と期待が胸の中を渦巻く。
守られている卵の中を出たくない気持ちと、早く世界を見てみたい気持ちがせめぎ合う。
卵の外からは、温かい音が聞こえる。
とても安心する音。
何の音だろうか。
家族の音なら嬉しい。
こんな温かな音を出す家族なら、きっと幸せな家族だと思う。
温かな音へ返事をするように、卵の中からコツコツと叩く。
そうしたらまた、温かな音を返してくれる。
幸せな音を聞きながら、私はうつらうつらと微睡んだ。
起きて、音を聞いて、また寝る。
何回も、何十回もそれを繰り返していると、次第に起きる時間が長くなっていった。
温かな音を聞いていると、音の変化がわかり、言語化できるようになってきた。
「早く出てきてよ!遊ぼうよ!」
これは兄さんの声。
子ども特有の高い声。
「お寝坊さんね。この子はちょっと、のんびり屋さんみたいね。」
これは母さんの声。
一番よく聞こえる、柔らかくて安心する声。
「無事に生まれてくれれば、何でもいいさ。」
これはお父さんの声。
力強くて、勇気が出てくる声。
きっと家族は三人、幸せな家族だ。
私を待ってくれている。
愛情がたくさん伝わってくる。
彼らの声に、私もコツコツと叩いて返す。
そうしたらすごく喜んでくれる。
あぁ、楽しみだなぁ〜
早く外に出たいなぁ。
きっともう少しで出られる。
そんな気がしている。
そうしてまた、温かな声と水に包まれながら、うつらうつらと微睡む。
起きて、声を聞いて、返事をして、また寝る。
ついに、その時が来た。
今回の目覚めは、やけに意識がはっきりしている。
身体中に力が漲り、万能感を感じる。
あぁ、今だと、そう思った。
私は力を込めて、卵を叩いた。
叩いて、叩いて、休んで、また叩く。
卵のヒビの隙間から、陽の光が差してくる。
もう少しだ!
全力を込めた一撃を入れると、ついに卵が割れた。
割れた隙間から、頭、手、足を順番に出していく。
「きゅぴーーーー!!!(出たーーーー!!!)」
…………ん?
「「「おはよう!」」」
母を見る。
続いて、父を見る。
最後に、兄を見る。
…………
「きゅぃーー!?(竜かよーー!?)」
私の鳴き声と共に、口から光線が飛び出たのだった。




