(8)クマ族の国
新しいわの国には、それからもヤマタイの支配を嫌った多くのわ人達が逃げ出し避難してきた。それを追って、度々ヤマタイの兵が北の砦付近に現れた。ヤマタイの兵は砦に向かって矢を射かけてくる時もあったが、多くのわ国の兵が待ち構え砦の上から矢を射かけてくるているのを見て、諦めて引き返していった。年々、北の砦は増強され石垣も積まれて城のようになっていった。
新しいわの国の南にはクマ族の国があった。わの国の人々とクマ族の人々はときおり出会うこともあったが争いは起こらず、食べ物などを交換し互いに笑顔を見せ言葉を交わしていた。土地は広く人は少ない。土地をめぐって争う必要などなかった。
新しいわの国の長となったマサは、クマ族と友好を深めるための使節として、南の地のクマ族の長のところへ出かけていく事にした。この地で新しくわの国を作った事や、その原因となったヤマタイについて知らせておくべきだとも考えたからだ。わの国の長マサとその従者たちはクマ族の人々を驚かせないように、ヤマタイの弓矢や盾や鎧を布で包んで背負い、途中のクマ族の集落の人々や長たちと言葉を交わし贈り物を渡しながら、南へと進んでいく。クマ族の人々は多少気が荒いが、わ人の顔でわ人の言葉を使い、時々わからない言葉があったものの不都合な事はほとんど無かった。
クマ族の人々の話によれば、クマ国では五千人以上の人々が西に広がるクマ海という波の穏やかな内海沿いに暮らしている。クマ海の向かい側の島々には、外海の向こうから来たそと人達が住んでいる。そのそと人達は攻めて来る事はなく、ヤマタイほど凶悪ではないという。クマ族の中にも外海の向こうからきたそと人達が多くいて、一緒に暮らしているという。
南に行くにつれて気候は温暖になり、ここは冬になると雪が降るのかと聞いてみたくなるほどだった。クマ族の人達によると、やはり膝ぐらいの高さの雪は降り積もるらしい。わの国の冬は人の腰の高さほどの雪が降り積もり、狩りや収穫ができない日が続いていた。それに比べると、一年中狩りや収穫ができる土地は羨ましかった。
数日かけて、クマ海を望む小高い山の麓にある、クマ族の長のいる集落についた。マサ達はクマ族の長に丁重に挨拶をし、ヒスイなどの贈り物を差し出した。クマ族の長とその一族は西の海の向こうから来たそと人で、体中に入れ墨をしていた。クマ族の長マカルは、
「良く来てくれた。我々クマ族とわの国の人達とは、昔から仲良く行き来し、品物を交換してきた。これからも仲良く暮らしていこう」と述べた。
マサはクマ族の長の言葉に感謝を述べた後、新しい土地でわの国を作る事になった原因のヤマタイの来寇、わの村での戦い、ヒタ国での戦いの様子を伝えた。おおよそを聞いたクマ族の長は、
「なるほど、ヤマタイはひどい事をする。クマ海の向こうの島にいるそと人達は悪い事はしないがなあ、違うところから来たそと人かも知れん」と言う。
マサ達は、ヤマタイのそと人達が使う弓矢と鎧の入った包みをクマ族の長に差し出した。その包みの中を見た長はやはり驚いたようで、この大きな弓はどのぐらい飛ぶのかと聞いてくる。マサ達は、ヤマタイの矢がシカやイノシシなどの動物相手ではなく、人を殺すために作られている事、そしてヤマタイには矢を防ぐために鎧や盾がある。兜をかぶっている者もいた事を伝えた。鎧を着けた馬を先頭に攻めて来る事なども伝えた。クマ族の人達も馬を知っていると言ったが、どうやら馬の大きさはかなり違うらしく、人が乗ることで武器になるとは考えにくいらしい。その後、マサ達の話を聞いたクマ族の人々は、ヒタ国と同様に、長の命令で各集落に弓矢を大きくする事、盾と鎧を作る事を始める事になった。マサ達の持ってきた弓矢は各集落に見本として回される事になった。こうして、クマ族の国も大きな弓矢と盾や鎧をもつ国となっていった。
マサ達がクマ族の国からわの国に戻って数か月経った秋の日、ヒタ国から知らせが届いた。ヒタ国の使者がわの国に駆け込んできて、こう伝えた。
「百艘の舟に乗ったヤマタイの兵がヒタ国の北の浜に上がって来て集落を襲った。ヒタ国の兵士たちが敗れた」という、驚きの知らせだった。




