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(5)ヒタ国

 弓矢づくりの村の長ナロに率いられた一行は、東のヒタ国目指して険しい山道を進んで行く。

 わ人達は他の村へ行くときには、歌いながら行く事になっている。それは熊よけでもあるし、自分たちがあやしい者ではない、村人を襲って危害を与える事はないというしるしだ。

  イエーーーー、イエーーーー

  南風が吹いて暖かい日だ、  お日様も出て花が咲く

  こんな日にあなたと一緒なら、幸せ幸せ、笑いだす

  イエーーーー、イエーーーー

  北風が吹く寒い日だ、  お日様が隠れて雪が降る

  こんな日にあなたと一緒なら、幸せ幸せ、笑いだす

  イエーーーー、イエーーーー


 一行は両側を崖に囲まれた山道を進み峠を越え、二日後にようやく海の見える地にあるヒタ国に到着した。

 到着したヒタ族の集落には、大小様々な家が百以上集まっていて、集落の中心には大きな家と四本の大木で組まれた(やぐら)がある。西の山から現れた一行を見て、集落には多くの人が集まってきた。女、子供たちも多い。

 一行は集落の中心に案内され、大きな家の中で集落の長たちとわ国の言葉で話した。

 弓矢づくりの村の長が名のると、集落の長たちは一様に歓迎の様子を見せた。知らせを受けたヒタ国の族長も到着し、弓矢づくりの村の長以下の一行に歓迎の意を表した。マサ達は数年前の春、わの村に一艘の舟が来た時から、わの村の戦いまでのあらましを伝えた。ヒタ国の族長と集落の長たちは「なるほど、そういう事情か」と深刻な表情を浮かべた。

「わの村に来たそと人達は数が多くて凶悪だ。しかも、毎年海の向こうからそと人がやって来て、人数を増やして近隣の村への支配を強めている」

 「そと人達は強力な弓矢、木製の盾、鎧、青銅の剣、そしてウマと言う大きな獣に乗って攻めてくる。このヒタ国にもヤマタイの兵が近づいてくるかもしれない。出来るだけの用心をしてもらいたい」

 弓矢づくりの村の長が、マサの持ってきた大きな矢の説明をし、その弓がこれまでの弓の倍の大きさで、矢の届く距離も、わ人の弓の倍以上だという事を伝えた。

「わ人はシカやイノシシ相手に弓矢を使ってきたが、そと人は、人を殺すために弓矢を使う。そして、相手からの矢を防ぐために盾や鎧を使う」

 弓矢づくりの村の長やマサ達の話をしっかり聞いていたヒタの国の族長はこう言った。

「ヤマタイのそと人達に備える事が大切なのがわかった。すぐヒタの国として何ができるか決めよう。大きな矢も盾も鎧も作ろう。青銅の刀は見た事がないが調べさせよう、すぐにだ!」


 翌日からヒタの国の村人達は木を石斧で切り倒し、石鑿で削って取っ手をつけて木のを作りはじめた。集落中に木を割り削る音が鳴り響いている。弓も、マサの持ってきた大きな弓をまねて、マキの木の枝や桜の木の皮で大きな弓を作ることになり、弓矢づくりの村の長が中心となって試作が始まった。鎧も、マサ達が見たというそと人の鎧を聞き取って、木の板をひもで繋いで作り始めた。こうしてヒタの国の戦いの備えは着々と進んでいった。


 数か月が経ち、大きな弓を扱いかねていたヒタ国の男達も遠くの的をすばやく過たずに射る事が出来る様になった。矢じりを平たい木に変えて布で包み当たっても死なないようにして、矢を放ち、それを盾や鎧で防ぐ摸擬戦が毎日行われた。

 これで一応そと人達と同じ武器で戦える事になったが、ウマがどういう働きをするのかが不明だという事にマサ達は気付いた。鹿が大きくなっただけだから矢で射れば逃げだすのではないか。しかし馬も鎧を着ていた。これはイノシシやシカを捕るのと同じく、落とし穴や罠を仕掛ける事も考えるべきだ。山道で崖の上から岩や丸太を落とすのも有力な方法だという事で、ヒタ国の人達はヤマタイの軍勢が来そうな山道に落とし穴や、崖から岩や丸太を落とす仕掛けを用意する事になった。こういった仕事でその年は過ぎた。弓矢づくりの村の長ナロと五人の弟子は、雪が降る前に、村へと帰って行った。


 マサ達六人はヒタの国に留まって、食事、衣服など不自由のない暮らしをしていた。ヒタ国には熱い湯が出る温泉があり、そこで料理をしたり湯に入ったりする。温泉近くに建てられた住居は冬でも暖かく最上の住居とされている。マサ達は客人扱いでその温泉近くの住居を与えられたが、丁重に断って、わの村に似た浜辺のある海沿いの土地に住居を建て、ヒタ国の人達と同じように丸木舟で海に出て、突き棒や網で漁をする暮らしを始めた。


 その翌年も、その次の年も同じような暮らしが続いていた。ハラの妻ヒキにはカラ、タラという二人の男の子が生まれ、ヤカの妻イリにはリミという女の子が生まれた。マサの妻イミは女の子を産んですぐ亡くなってしまった。チミと名付けられた女の子はイリが自分の娘リミと姉妹のように大切に見守り育てた。

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