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(2)吉と凶

 わ人たちは、昔々海が陸地に囲まれた湖だったころからこの地に暮らして来た。わの村に住むわ人たちのなかには、西の海の向こうから渡ってきた者たちもいる。ずっと昔に渡ってきた者たちもいるし、少し前に渡ってきた者たちもいる。西の海の向こうは争いが多く、暮らしにくい土地だと伝えられている。海を渡るときに舟が沈んで遺体となって浜に流れ着く者もいた。


 わの村の西の入り崎には村人の冠婚葬祭の相談にのる拝み人達がいる。その拝み人達の中にも西の海の向こうから渡ってきた者たちの子孫がいる。入り崎の西にはわの村とは別の大きな村があり、そこの人たちは美しい着物を着ており、その村の長たちは黒い冠を被っている。拝み人たちの話では、西の大陸の呉という国の子孫で数百年前にこの地に来て暮らしているらしい。呉の国の子孫の多くは北の内海を東に行った土地に向かい、その地で幾つもの国を造っているらしい。わの村とその呉の国の子孫の村とはほとんど行き来がなくいが、年に数回入り崎で拝み人の仲介を通して村と村の話し合いが行われている。


 ある日、マサの家族とイミの家族はそろって、西の入り崎の拝み人たちのところに出かけた。マサとイミの結婚の吉凶を教えてもらうためだ。さっそく拝み人たちは、火を焚いて鈴を鳴らし白い布をつけた棒を振り回し、拝みの舞を踊りはじめた。それから暫くして、声を張り上げて「マサとイミの結婚は大吉だ、十日後に結婚しなさい」と教えた。マサの家族とイミの家族は喜び、拝み人達に干物や毛皮などを差し出して、礼を言って帰って行った。


 十日後、マサとイミの結婚式が盛大に行われた。イミの両親の家はわの村の西から二つ目の集落にあった。その近くにつくられたマサとイミの新しい家の周りに、村中の人々が集まってお祝いが始まった。マサとイミは花で飾られ、村人たちには猪の肉と甘い酒が振舞われた。子供たちがはしゃぎまわり、花婿と花嫁に抱きつく。大人たちは歌を歌い踊って二人の幸せを称える。

   はあーーー、いちばんの嫁、いちばんの婿、

   はあーーー、たくさんの幸せ、たくさんの子供、

   はあーーー、にぎやかになる、村が栄える・・・

 明るい月夜の下、村人たちの歌と踊りが続いてその日の夜が更けていった。そして夜が明け、朝が来ていつものわの村の暮らしが始まった。


 わの村の拝み人たちには、こういう話が言い伝えられている。

「遠い昔、今よりもずっと雪や氷が多く寒い時代が続いていた。西の海は干上がっていて、西の陸地は、川のような狭い海を隔てた近くにあった。その西の陸地には多くのわ人が住み、大きな国を作って暮らしていた。西の陸地のわ人達と東の陸地のわ人たちは、小さな舟で行き来し、同じ国の人として暮らしていた。

 長い年月が過ぎ、風が暖かくなり雪や氷が消え、海の水が増え西の陸地と東の陸地の間に大きな海が出来た。そして、西の陸地の人たちと東の陸地の人たちの行き来は途絶えてしまった。

 そして、西の海の向こうのわ人たちの国には恐ろしい鬼どもが攻めて来るようになった。その鬼どもは身体に入れ墨があり、ひげが少なく仮面のような顔をしている。西の海の向こうのわ人たちは懸命に戦ったが、鬼たちは数が多く、残忍で防ぎきれない。鬼たちは、たくさんのわ人たちを殺し、村を破壊し焼き尽くした。

 西の国の生き残ったわ人たちは舟で沖に逃れ、海を渡ってこの東の地へたどり着くようになった。東の国のわ人たちは、西の国から逃れてきたわ人達たちを温かく迎え、西の国のわ人と東の国のわ人は、ひとつのわの国として助け合って暮らすようになった。

 この言い伝えから長い年月が過ぎた。このわの国の地はだんだんと寒くなり、冬には背丈ほどの雪が降り積もるようになり、洞穴で生活する様になった。そして、雪や氷が多く寒い時代が来て、海が干上がって西の陸地が近くなったら、鬼どもが渡ってくることがあるかも知れない」


 拝み人たちはこういう話の後で、そういう事が起こらないように、鈴を鳴らし白い布をつけた棒を振り回し「鬼は外、鬼は外」と叫んでお祓いをした。


 数年が経ったある年、春の嵐が続いたあと、わの村の沖にそと人を乗せた大きな舟が現れた。その舟は木を組み合わせ、へさきとともが高くせり出した形をしていた。その舟が鯛島へ近づいていった。次の日そと人の舟は鯛島から、南の沖にあるわの村へと漕ぎ出してきた。それを見た村人たちは、槍や弓矢を持って浜辺に出て待ち構えた。近づいてきた舟には、身体に入れ墨があり、ひげが少なく仮面のような顔をしたそと人たちが乗っていた。言い伝え通りの鬼たちが来たのではないかと、村人たちは警戒した。


 そと人の男たちは戦う気はないと示すように、両手を上げてそろそろと和の村の浜へ漕ぎ寄せてきた。武器を持たずに上がってきた背の高い二人の男が笑いながら意味不明のそと人の言葉を話し、水が飲みたい食べ物が欲しいという身振りをした。村人は、いくつかの水の入った甕と、木の実を焼いたものをその男たちに与えた。そと人の男たちは頭を下げて水と食べ物を受け取り、辺りを見まわしながら舟に乗りこ

み、舟は鯛島の方向へ去って行った。


 村人はこのそと人達の様子に不安を覚えた。入り崎の拝み人達は、

「そと人達は、かならず人数を増やして攻めてくる!これに備えよ!」

というお告げをした。わの村の長のワトも、そういう心配があると考え、そと人達に備えるため弓矢を増やし、近隣の村々から応援の男たちを呼ぶ事にした。


 海が荒れていな日は、鯛島から島人達がさかなの干物と木の実の交換に来る。しかし、そと人の舟が現れて以来、鯛島の島人は全く来なくなった。

 マサ達は舟を出し、鯛島の様子を見に行くことにした。鯛島の近くにこぎ寄せたが、いつもは出迎えるはずの島人の姿はなかった。そこはすでにそと人達の島になっていた。マサ達の舟は、すぐそと人達に見つかり、鯛島の岸から矢が放たれ、大きな矢が船べりに突き刺さった。マサ達は舟を返して東の栗島の方へ向かった。栗島の島人達がでてきて「鯛島から島人が逃げてきた。十人以上が殺され後は捕まっている」という。栗島の島人達は、わの村へ連れて行ってくれと、マサ達に頼んだ。マサ達は栗島の島人達を、舟に乗せてわ村に連れ帰った。


 そと人達が来たと聞いた近隣の村々から応援の男たちが五十人、槍と弓矢をもってわの村に到着していた。

 村の長のワトは、戦いに備えて女子供を山へ逃がす手立てを考え、さらに浜辺近くの丘の石塁で、そと人達を迎え撃つ相談を始めた。浜を見下ろす丘には、かなり前に作られた石塁があった。その石塁にさらに石を積み上げて矢を防ぎ、こちらから弓矢や投げ槍が放てるほどの間隔をあける。そこに石槍や矢を三百本蓄え、見張りを二十人つけた。石塁の周りに幾つもの深い穴を掘り、中にとがった棒を仕掛けて落とし穴とする。普段は猪を取るために仕掛けているので、これはそと人には見つけられない。落とし穴の前

後には、二股になった木の枝を立てて目印とした。


 わの村はそと人の来襲を防ぐために出来る限りの備えをした。しかしその後半月以上が何事もなく過ぎ、近隣の村々から来た応援の男たちは「何かあったらすぐわの村に駆けつける」という約束をして、近隣の村へ帰って行った。



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