(14)ワヒ国での戦い2
ヤマタイの兵はワヒ国の家々に陣取り、川や海で魚を獲り山へ入り獲物を追いはじめる者もいた。ワヒ国の城を攻める気配もなく、ヤマタイの三千の兵はただ休養しているように見えた。
その後、ワヒ国とヒタ国の兵達は城から出てヤマタイの陣営に夜襲をかけたが、待ち受けたヤマタイ兵の矢に射られるだけだった。
ワヒ国とヒタ国の兵は、村の家々で居座るヤマタイの兵に手の出しようもない事に、歯ぎしりをする思いだった。城の周りの山にもヤマタイの兵が出没し、山から城への補給が滞る様になっていた。ワヒ国の兵と人々は打つ手がなくなり、窮地に追い込まれた。
その状況は七日後に大きく変化した。
ワヒ国の入り江に、マツラ国の三十艘の赤い旗を立てた大船が大弓を並べて来援したのだ。
マツラ国の兵が敲く太鼓が大音量でワヒ国の浜辺から山々に迄響き渡った。そして大船に並んだ大弓から無数の大石が放たれ、ヤマタイの兵達が陣取る集落に豪雨のように落下し、家々やヤマタイの兵を粉砕しはじめた。
マツラ国が救援に来た事に驚愕したヤマタイの兵達は、マツラ国の兵が浜に上陸する前に急いで退却を始めた。「ドスン、ドスン」と容赦なく降り注ぐ大石の雨から逃れようとするヤマタイの兵は、慌てふためいき、集落から離れ城に近づいてきた。そこへ、待ち構えていた城の大弓から、一抱えもある石が次々とヤマタイの兵馬に向かって飛んでくる。ヤマタイの兵達は大混乱となり、来た時と逆の道を通り、北の峠を目指し先を争って逃げ出していく。
この時、ワヒ国とヒタ国の兵は機を逃さず城から打って出て、逃げ遅れたヤマタイの兵達を仕留めていく。多くの死体を残したまま、ヤマタイの兵達は、ワヒ国とヒタ国の兵の追撃をかわし、峠を越え北の地に逃げ去っていった。
こうして、ワヒ国はヒタ国とマツラ国の来援によって救われた。ワヒ国の浜に漕ぎ寄せてきた船から降りてきたのは、五百を超える体格の良いマツラ国の兵士達、そして、いまやマツラ国の兵の隊長となったマサだった。マサ隊長を、ワヒ国の長タルサ、ヒタ国の隊長が笑顔で迎える。
ワヒ国の長タルサが「マツラ国の来援に感謝する。おかげでヤマタイを追い返す事ができた」と、礼を述べた。マツラ国の女王の弟で、いまやワヒ国の長の補佐役であるヒカも「ありがとう兄者よ!」と手を取らんばかりに、マサとマツラ国の兵士達に感謝した。
マサが兵達を代表して「女王がワヒ国を救えなければ、マツラ国の将来も危うい。マツラ国の大船すべてを集め、ワヒ国に向かえ!と言われたので、我々は従った迄。女王の命に背くものはマツラ国にはいない!」と答える。
「私も、ワヒ国の長の命に背くことは決してない!」とヒカが胸を張って言う。
「特に、妻のニキのいう事には頭が上がらないらしい」とワヒ国の長のタルサが冗談を言う。
「そのとおり!」とヒカが答えて、皆が大笑いする。
そこへ当のニキとマサの娘チミ、ヤカの娘リミが三人そろってやって来る。
「何の話ですか?」とニキが笑顔で尋ねる。
「いや、マツラ国の方々にお礼を申していただけです」とヒカが慌ててうろたえながら、話を引き取ろうとする。これを見て皆がまたもや笑い出す。
マサの友のヤカとハラとその妻たちもやってくる。歩けないヤカは、ハラの二人の息子、カラとタラに肩を貸されてやってきた。
「マツラ国の皆さんありがとう!マサ、お前は大した男だ。俺たちはお前の友というだけで自慢ができる!」とハラが言う。
するとハラの妻のヒキが
「何言ってんだい!いつもへっぴり腰で!昔私がヤマタイに連れて行かれた時助けに来なかったくせに!」と言う。
「ずいぶん昔のことをよく覚えているものだな」と皆が感心する。初めてこの話を聞くマツラ国の兵士達には、マサがどんないきさつかを説明したので、マツラ国の兵士達もニヤニヤしはじめる。
「いや、俺もあの時、お前を助けようとしてたんだ。なあヤカ!」
ヤカは笑って「そうだな、あの時、ハラと一緒に行くべきだったな」と言う。ハラは顔を赤くして「そうだよ!そうなんだよ!」と力を込めて言った。そこにいる女達は皆、呆れたようにそれを見、男達は皆ハラに同情した。
「二十年も前の事らしいぜ、どこの国でも女は怖いな・・・」
その夜ワヒ国ヒタ国マツラ国の兵達のために、ありったけの食べ物と酒が並べられ、宴がはじまった。ワヒ国の女達が声をそろえて歌い出す。
大漁だよ、大漁だよ、海の女神様ありがとう、たくさんの魚をありがとう
大漁だよ、大漁だよ、達者な男達ありがとう、今日も無事でありがとう
その日、ワヒ国とマツラ国、ヒタ国の人々の話は尽きず、夜遅くまで宴は続いた。
その数日後、マツラ国の兵達は「ヤマタイが再びワヒ国に侵攻してくる事があれば、いつでも大船で駆けつける」という約束をして出航していった。マサも親しい人たちに別れを告げて去って行った。
すっかり馴染んでしまったヒタ国の兵も去り難く、ワヒ国の人々に引き留められていたが、いつまでも居続ける事はできず、十日ぽどたった後で「今度ヤマタイが来たときは、もっと人数を増やして駆けつける」と約束してヒタ国へ帰って行った。
そしてワヒ国にいつもの男達は漁に励み、女達は畑仕事に励み、子供たちが元気に走り回る、穏やかな日常が戻った。




