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(12)マツラ国

 ワヒ国はマサの提言により、西のマツラ国に使者を送ることになった。使者には当然のことにマサが選ばれた。わの国の西の入り崎から逃れてきた拝み人たちが、マツラ国の言葉が解るだろうということで同行することになった。マサは二人の従者に弓矢や兜、ヒスイ等の贈り物を持たせて、多くの人に見送られて、ワヒ国を出立した。


 一日目は泥の浜が続く入り江の海を北に迂回していき、わ人のいる村で宿泊した。村人の話では、マツラ国の人達とあったことはあるが争いが起きたことはないという。二日目、浜辺を南に向かっていくと、往く手に大きな山が見えてきた。三日目、その山を南に見ながら進んで行くと、再び海が見えはじめ、大きな入り江の浜辺に土地が開けてきた。その入り江の高台の高い柵に囲まれた家々にマツラ国の人々が暮らしていた。


 高床式の家には板張りの屋根があり、前後に大きく梁がせり出している。マツラ国の男達はわ人の男達よりも大きく、ヤマタイの細い男達よりも頑丈な体をしている。マツラ国の人々はヤマタイと似ているところもあったが、凶暴な感じはなく、わ人とも似た感じがあった。マサ達が名乗ると、案内の者がひときわ大きな構えの家に丁重に迎えてくれた。

 マツラ国の長は、ヒメという名の優しい顔をした美女だった。マサ達は心の中で「海の女神様」を思い起こしたほどだった。


「私たちは東の入り江の向こうに国を作ったワヒ国の者です。マツラ国の人々と仲良く暮らしていきたい。よろしくお願いする」と、拝み人達に伝えさせた。

 優しい顔をしたマツラ国の女王は、

「私たちは、西の向こうの大陸から南の海を渡って、数百年前にこの地に住むようになりました。こちらこそよろしくお願いする」と返答した。


 マサ達は、十五年前、北の浜辺にあったわの国にヤマタイが来てからの事を伝えた。

それを聞いたマツラ国の女王は、

「ヤマタイは私達とは違って、西の大陸の北方にあるカラ国の半島から来たと聞いています。その半島は大変寒い地で稲が育ちにくいそうです。ヤマタイの住む半島の土地は強い敵に囲まれていて、南の暖かい地に行けなくなっているそうです。だから海を渡って、わ国を襲ってその地を奪ったのでしょう。わ人にとっては迷惑なことです」

 マツラ国の女王の話では、昔、西の大陸では呉と越という国が並んであった。呉と越は激しい戦いの末に、呉が越に勝った。呉王は越王を殺さず臣下として受け入れた。しかし越王はそれを恨みに思い、呉が大陸の中心まで遠征したすきを狙って呉に攻め込んだ。越王は呉王を殺し、呉の国は滅んだ。マツラ国は呉人の子孫であり、ヤマタイは越人の子孫であるらしい。戦いのときに白い旗を立てるのは越人の証拠だという。マサはヤマタイの兵が白い旗を持っていたのを思い出した。

「ヤマタイはさらに南の地を目指すかもしれません。もしかするとワヒ国を攻めてくるか、このマツラ国を攻めてくる事も考えられます。ぜひ皆さんと協力して、ヤマタイと戦いましょう」といった。


 マツラ国の女王が小さく手を打つと、女たちが料理と酒を運んできた。料理はマサ達が知らないものばかりだった。酒も、ワヒとの酒とは違い香りが強い白く澄んだ酒だった。宴が開かれた板敷の家の外で、色とりどりの長い服を着た女人たちが優雅に踊り、笛と太鼓と板を並べたものを叩く音楽が始まった。マサ達は大いに食べ、酒を飲み、舞と音楽を楽しんだ。宴が終わり、拝み人たちや従者の宿とは別に、マサは高床式の立派な建物に案内され泊まることになった。


一日目の夜、マサが住居に入ると、落ち着いた年齢の女がひとり座って待っていた。

「この国では、他の国から客人が来られたら、私たちがお世話をする事になっています」

女はそう言ったが、マサは「これは試されているのだ」と気づき、礼を言ってすぐに女を返した。

二日目の夜、マサが住居に入ると、若い女がひとり座って待っていた。

「この国では、他の国から客人が来られたら、私たちがお世話をする事になっています」

若い女はそう言ったが、マサは今度も礼を言ってすぐに女を返した。

三日目の夜、マサが住居に入ると、美しいマツラ国の女王が座って待っていた。

「この国では、他の国から大切な方が来られたら、それに相応しい者がお世話をする事に

なっています」そう言って、女王は優しく微笑んだ。マサはこれは返すべきではないと考え、女王と一夜を共にすることにした。


 滞在中に、マサ達はマツラ国のいろいろな場所に案内された。海では大きな船が何艘も浮かんで大きな網を広げ、浜で待ち受ける大勢の人々が網を引き、魚を浜に引き上げていた。山では山の斜面に水路が引かれ、山の裾野まで段々になった畑や田がつくられ雑穀や米などを育てていた。村の要所には、高い柵で囲まれた砦がある。砦の中には大きな弓が並んでおり、たくさんの石が積み上げられていた。弓で石を飛ばす仕掛けらしい。


 あっという間に十日が過ぎ去り、マサ達はワヒ国に帰る事になった。マサはマツラ国の人々に女王の婿として迎えられたが、特に役職があるわけでもない。一旦ワヒ国に戻り、ワヒ国の長にマツラ国との友好協力を報告することになった。

 マサ達と同行して、マツラ国の使者がワヒ国に向かう事になった。マツラ国の使者となったのは女王の弟でヒカという名の陽気な男だった。ヒカは屈託のない笑顔でマサを「兄者」と呼んだ。ヒカは「兄者のような道理がわかる人が、女王の婿に来てくれて良かった」と笑う。

 実は他の国からも使者が来たが、女王以外の女と一夜を共にしたため、女王の婿になれなかったらしい。マツラ国では、ヤマタイやクマ国の使者は笑いものになっているらしい。

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