7 80階層ボスとその先の階層
次の日、俺は53階層に来ていた。深層に向かうための準備運動と試運転のためだ。
「ほっ、ほっ」
魔物から繰り出される攻撃を躱し、盾で受け流し、剣で受け止める。動きは問題なし、むしろいつもより軽いくらいだ。
そして次は魔物の攻撃をあえて受けてみる。ガキンっ、と音がするが、衝撃も傷もほとんどない。
「想像以上かもな」
予想以上の防具の性能に自分で関心をしながら、魔物を斬り捨てる。
何も知らない人からすれば、深層まで潜っている俺が41階層の付与素材を使うのは不思議に見えるかもしれない。だが付与素材は階層ごとに特徴があり、防御に関しては40階層台が優れている。
それが変異体ともなればなおさらだ。これまでより防御面はかなり優秀になった。
その後何度か戦い、ついでにドロップアイテムでこの階層の転移石も手に入れたところで、深層へ向かう準備をする。
「本格的な性能を見るのなら、やっぱりあいつが一番だろ。」
試運転で能力が向上しているのはわかった。じゃあ次は、それによって一体どれくらい戦いが楽になるのか。
それを確かめてみるために、最近よく戦っていたあいつのところにいくための転移石を取り出す。
「そういえば1週間ぶりくらいか?それまでは週に2、3回戦ってたのにな。」
他の探索者を調べたり変異体を倒したりしていたから、少し間があいてしまった気がする。だがされど1週間、あいつとの戦いの感覚は鈍っていないだろう。
そう考えながら俺は、80階層へと転移をした。
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80階層の最奥、石でできた広い空間。
そこに80階層主である、3メートルは越そうかという巨体であるブルーオーガの特異個体は佇んでいる。
「ふーーーーーーーーーっ」
ブルーオーガのいる空間に入る前に、大きく深呼吸を一つする。
こいつとの戦いはヒリつき、緊張があり、そして楽しくもある。
別に俺は戦闘狂でもなければ、死を恐れぬ特攻野郎でもない。むしろ死を過剰に恐れているほどの小心者だ。
そんな俺でも戦っていて闘争本能が刺激されるほどに、こいつには不思議な、引力のように引き付けられるなにかがある。
「さあ、1週間ぶりにやろうか。」
そうつぶやきブルーオーガの範囲に踏み出すと、ブルーオーガは組んでいた四本の腕をほどき装備を構える。
右上腕に剣、左上腕に盾、そして左右下腕にナックル。
ブルーオーガは派手に動くことはなく、俺と同じく少しずつ前に出てくる。
そしてお互いの距離が、射程範囲に入るというところで。
ヒュッ!と風切り音が聞こえ、お互いの剣が交差をする。
一瞬遅れてガキィン!と金属がぶつかり合う音がし、ギリギリとお互いが剣を押し付け合う。
3メートルの巨体、それに押し負けずに拮抗させるほどの力を入れる。
キリがないと判断したブルーオーガは、剣を引っ込めさらに別角度から斬りつけてくる。盾でその剣を防ぎ、俺も別角度から剣を繰り出す、が、ブルーオーガも盾で防いでくる。
そして剣を繰り出すために一歩踏み込んだことで、ブルーオーガの拳の範囲内に入ってしまった。すかさずブルーオーガは正拳を繰り出してくるが、俺は身を捻りそれを躱す。しかし体勢が崩れたところにすかさずもう一本の腕から正拳が飛んできて、さらに盾からずれた剣も振り下ろされる。
俺はそのまま体勢を完全に崩し地面に横になり、転がりながら回避をして距離を取る。
...やはり真正面からでは突破できないな。攻撃の早さは互角だが、手数はあちらが上だ。
ならばいつも通りの戦法を取ろう。
ブルーオーガに突進する、と見せかけ寸前で横に移動する。そしてそのままブルーオーガの周りをぐるぐる回り、剣をもつ右腕側から近づいていく。
「ゴアッ!」
ブルーオーガは剣で斬りつけてくるが、俺はそれを盾で防ぎ、ジャストタイミングで盾についている技である『シールドバッシュ』を使用し相手の剣を弾く。
剣を弾かれ少しだけ隙ができたブルーオーガ。そこを狙い俺は剣で斬りつける。
右側から襲ったため、左側の盾と拳は間に合わない。そして右下腕から拳が繰り出されるが、俺は体を捻りそれを躱しながらブルーオーガに切り込みを入れた。
「まずは一太刀」
強靭な肉体を持つブルーオーガなので、一太刀入れた程度では致命傷にはならない。そしてもちろん、何度も同じ戦法を使うと対応されていく。
なので武器を変え、技を変え、いわゆる初見殺しを繰り返していく必要がある。当然だが80階層主であるので、初見とはいえ生半可な攻撃は通用しない。先ほどの一撃も、半分はレベルやスキルによる身体能力や早さを利用したゴリ押しだ。
上手く行かずに相手の反撃を食らうこともある。だがそれでも押し切れるだけの準備と積み重ねを俺はしてきた。
「次はこいつだ。」
今度は盾ではなく剣についている技を使い、ブルーオーガに傷をつける。そして武器を長剣に取り換え、また別の技を使用していく。
────そして数十分後
「しまっ...!」
ほんの少し技のタイミングがずれたことにより、ブルーオーガの拳が胴体に直撃をする。
そのまま吹き飛ばされ地面を転がり、血を吐きながら急いでポーションを飲む...というのがこれまでの動きだったのだが...
「ゲホっげほっ...」
吹き飛ばされはしたし、地面を転がりもした。
だが少し血の味がし、腹に鈍い痛みが残る程度で、血の塊を吐くこともなければ破裂するような胴体の痛みもなかった。
明らかにこれまでとダメージ量が違う。こんなにも変わるものだとは...53階層ではわからなかったことだ。
これは頼もしい装備ができた思い、にやつきながらポーションを口に含む。
これなら、少しの被弾は許容範囲で攻撃を仕掛けられるかもしれないな。
そうして今度は被弾覚悟でブルーオーガへと近づき、剣は防ぎ、拳の攻撃を受けながら技を繰り出す。
拳が来るとわかっているならば、吹き飛ばされないように踏ん張ることができる。
「おおおおおおおおっ!!!!」
拳を受けながらもその場にとどまり、お返しとばかりに俺もナックルを装備して技を繰り出す。
力を込め胴体に直撃したその攻撃は、ブルーオーガの体を浮かし、吹き飛ばし、地面に転がせた。
「ゲホっ...おえ...。はは、吹き飛ばしたのは初めてだな。」
踏ん張ったため先ほどより強い衝撃を受けてダメージもでかいが、その分ブルーオーガにも大打撃を与えた。
これまではじわじわと削るような戦法だっただけに、これだけ大きな一撃が決まると爽快感がある。
これができるなら、討伐時間を早めることもできるかもな。
そうして何度目かわからないブルーオーガとの交差を繰り返し───
「おらああああああああ!!」
最も威力の高い両手斧をブルーオーガの胸に突き刺したところで、動きが止まる。
そしてそのまま倒れると、粒子化して消えていった。
「...ふーーーーーー」
大きく息を吐きその場に座り込む。何度か被弾はしたが、それでも依然やり合っていた時よりもダメージは少ない。
ポーションを飲み、少し休めばほぼ万全な状態に戻るほどだ。
「...........」
前までなら、ここで引き返していた。
ここより先にも進んではいる。だが、安定して探索できるのはここまでだったし、無理をして探索をする必要もなかったからだ。
だが、今日は違う。装備を整えた、以前よりレベルも上がっている。準備は、できているつもりだ。
俺は、81階層へと続く魔法陣を見つめた。
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81階層
石でできた建造物らしきものが各所にあり、岩や地面に鱗状の模様がある。
以前は、ここに降り立った瞬間に異様な雰囲気を感じていた。だが今はずいぶんとマシに感じる。
我ながらよくここから先に進んでいたものだ。毎日切り札を使い、ボロボロになってなんとか階層更新していたのを思い出す。
...正直、もうあんな目に合いたくはない。俺の思う「安定した探索」は、「切り札を使わずに探索できること」をあらわす。
今ならそれができるだろうか。
少し進んだところで、一匹のヘビの魔物と遭遇する。巨大で鱗が硬く、口からは属性攻撃を出してくるやつだ。
俺は口からの攻撃をよけ、振り回すしっぽを盾で防ぎ、ヘビの首を何度か斬りつけて落とす。
しかし斬り落とした場所からすぐさま首が再生し、毒霧を吐き出してくる。
そして霧に紛れて、斬り落としたはずの首が動き出し電気を吐き出してくる。
以前の探索で一度見た動きだ。俺は跳躍で回避し、そのまま落下攻撃をする。その攻撃でヘビを真っ二つに切り裂き、ようやく粒子化していった。
「...やっぱり手ごわいな」
当然さっきのブルーオーガよりは弱い。だが1匹倒すのに苦労するレベルの手ごわさではある。
しかしそれでも、以前は切り札を使わなければいけなかったことを考えると、安定性は増してると言えるのではないだろうか。
その後も何匹か魔物を倒したところで、とあるドロップアイテムを拾った。
それは見慣れない色の鱗で、触れた指先に魔力がまとわりついてきた。
「...レアドロップか?」
明らかに他よりも異質だと思わせる素材だ。なかなか手に入るものではないだろう。現に以前この階層を攻略した時には手に入らなかったものだ。
ちょうどこの階層の転移石も拾ったし、戻っていい頃合いだろう。
気配感知で周りに魔物がいないことを確認した俺は、転移石を起動し1階層へと戻った。
「付与素材か。」
1階層へ転移した俺は、スキルを『鑑定』に変更し先ほどのドロップアイテムを鑑定していた。
これは付与素材で、なおかつ魔力濃度が高いので普通よりも高い効果が期待できるようだ。
どんどん装備が強化されることに浮かれた俺は、さっそく付与することにした。
今日もいくつかスキル変更をしているから、まだ変更できるスキルを付与用のスキルに切り替え、また昨日と同じようにゴブリンと戦闘しながら付与をする。
だが、付与のために『気配感知』を切った俺は気づいていなかった。
「...何してるんだ?あの人」
「付与してるように見えるけど...なんでここで?」
初心者探索者で1階層を探索していた男女のチームが、遠くから俺を見ていたことに。
「ていうかあの素材やばくないか?初心者の俺達でもわかるくらい魔力があふれてる」
「あの人...何階層の人?」
ましてやそれが、配信にのっていたということに。
ストーリー重視なので、戦闘で何話も使うことはしません。
多少長くなってもできる限り1話で戦闘は終わらせるつもりです。




