45 過剰駆動、過剰発動
少し長いです
何故ここに?
目の前に現れた花歌さんぽを見て、真っ先に浮かんだのはその言葉だった。
:ぽぽちゃん!?
:間に合ったああああああ!
:ダンジョンから出たんじゃないの?
:一回出たけど、この配信見て急いでまた戻って来たんだよ!
「ぽぽ!」
「ぜーぜー...間に合った...?」
横から残り二人のメンバーである、三羽つばき、風雅れんげも走ってくる。
彩風三花
烈煌四雅との合同でこのチームが80階層まで到達したことは、コメントで知っている。
だが何故今ここにいるのか分からなかった。
「全く、助けに行きたいだなんて無茶言ってくれるわね。」
花歌さんぽの隣に立った三羽つばきが、呆れたような、諦めたような声色でそう言う。
「ごめんねつば姉、付き合わせちゃって。」
「ついてきたのは私の意思だからいいのよ。もうあんたを一人にしないって決めたからね。」
...話を聞くに、俺の配信を見てピンチを知って、急いで助けに来てくれたと言うことか?
その気持ちはありがたい。ありがたいが...。
「グオオオオオッ!」
叫び声と共に、変異体が動き出す。
新たな人手が来たことにより一瞬様子見をしていたようだが、『敵』と認識したようだ。
花歌さんぽと三羽つばきが剣を構えて応戦しようとする。それを見て俺も前に出ようとするが、その動きは風雅れんげに手で止められた。
「ハイヒール...。はあ...はあ...あなたは少し休んで。...体は大丈夫?」
回復魔法を俺に使いながらそう言ってくる。
...なんかやけに息が上がってないか?
「大丈夫...とも言えないな。それより君こそ大丈夫か?」
「うち...体力ないから...。ここに来るまでの全力疾走で...もうきつい...。ぽぽちゃんとつば姉はなんで平気なのか不思議。」
...それだけ急いで来てくれたってことか。
「そうか...。まずはありがとう。傷は大丈夫だけど、俺の全力がそろそろ時間制限だ。」
「わかった。じゃあ倒すのはあきらめて、離脱を目標にする。」
「というか、なんでここに?」
「助けに来た以外に理由ないのはわかると思うけど。」
変異体から目をそらさずに、端的な会話を済ます。
離脱が目的...倒すよりはまだ現実的だが、それでもできるだろうか。
戦っている二人は回避を優先し、ひたすらに動き回っている。
花歌さんぽは『空中歩行』で立体的な動きをして相手を翻弄させ、三羽つばきは相手の攻撃をギリギリのところでかわしている。そして時には花歌さんぽに当たりそうな攻撃を、剣で軌道をズラし当たらないようにサポートしている。
(...無理じゃないか?)
戦いが成立しているように見えるが、それは回避に全力を注いでいるからだ。ここから転移石を使う30秒間を捻りだせるとは思えない。
そもそもこの三人は少し前まで60階層だったはずなので、レベルも70くらいのはず。それなのにどうしてこんな死地に...。
そんな俺の考えを察知したのか、風雅れんげが声をかけてきた。
「ちょっとした賭けではあるけど、離脱のための手段はある。」
「賭け?」
「うん。もうすぐ来るはず。」
...来る?何が?
そう思ったところで、後方から複数の足音が聞こえてきた。
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例の探索者が危機に陥っている。
それを聞いた瞬間、私は動き出していた。
80階層は、烈煌四雅と手を組んで勢いのまま到達した階層だ。自分だけでは力不足な階層だとわかってはいる。
それでも、ジッとしていることはできなかった。
つば姉とふーちゃんには一度止められたが、私の意志が固いことを知ると二人ともついてきてくれた。
...正直、命を落とす危険は高い。それを理解したうえで私のわがままに付き合ってくれた。だから失敗することはできない。
『このまま行っても、うちたちごと全滅すると思う。』
道中、ふーちゃんは冷静な口調でそう言った。その口ぶり的に、このまま行くだけではない選択肢があるの?
『さっき転移石を手に入れるために80階層の魔物と戦った時、おかしいところがあった。』
『...傷ついた魔物が多かった?』
『うん。何かと戦ったような、そんな感じだった。つまり...』
『変異体は、魔物であろうと敵と認識して攻撃を仕掛けるってこと?』
少し前に烈煌四雅と共に80階層に到達した際、この階層の異様なプレッシャーに押されて、喜ぶのもほどほどにすぐに撤退をした。
その際に転移石を手に入れるために魔物を探して戦ったが、どの魔物も傷つき疲弊した様子だった。
あの時は謎だったが、今考えるとたしかにあれは変異体の仕業だったのかもしれない。
『道中で魔物を攻撃して、それをひきつけて変異体のところまで行って争わせる。』
『その乱戦の間に逃げるってこと?』
『...不安だけど、このまま行くよりはそれに賭けたほうがいいかな。』
本当に魔物と変異体が争うのかもわからないし、争うにしても、探索者がいる場合は探索者を優先して狙ってくる可能性もある。
それでもやってみる価値はあると思った。
道中の魔物を攻撃しながら、異様な気配がする方向にひたすら走っていく。
そしてギリギリのところでなんとか駆けつけることができた。
例の探索者と話したい気持ちはあったが、変異体がそんな時間をくれるわけもない。すぐに戦闘は始まった。
目の前の変異体の攻撃をしばらく必死に躱しているところで、後ろのふーちゃんから声がかかってくる。
「ぽぽちゃん、つば姉、来たよ。」
その後聞こえてくる複数の足音と鳴き声。道中にひきつれてきた十体ほどの鬼の魔物が、私たちと変異体のそばまでやってきた。
「グオオオ...」
変異体は少し動きを止め、鬼の魔物たちを睨みつける。
その隙に私とつば姉は少しさがり、ふーちゃんと例の探索者の元に寄る。
一瞬の静寂の後。
「「グオオオオ!」」
変異体と鬼の魔物たちが、叫び声をあげてぶつかり始めた。
:魔物同士が戦ってる!?
:すげえ、初めてみた
:まさに変異体じゃん。全然他と違う行動だ
「うまくいった?」
「うん。今のうちに急いで離れよう。」
「動ける?」
「あ、ああ。」
例の探索者は少し驚いた顔で頷く。そのまま動き出そうとしたところで...
「ガアアアアア!」
鬼の魔物が三体、こちらに向かってきた。鬼の魔物からすれば、変異体も私たちも等しく敵だ。そう都合よく魔物たちだけで争ってはくれないらしい。
「ひきながら戦うわよ!」
つば姉の掛け声とともに、私たちは後退を開始する。だが少し移動したところで、異変が起きた。
「くっ...!」
例の探索者がふらつき、膝をつく。全力の反動が、よりによって今来てしまったのか。
:どうした!?
:大事なところでコケちゃった!
:うわああああやばい
「危ない!」
そこに向かってくる鬼の魔物。あわてて私は駆け寄り、その攻撃を剣で受ける。
ふーちゃんも魔法で一体を吹き飛ばしてくれて、つば姉も急いで駆け寄ってくる。
「わ、悪い。なんとか動ける。」
例の探索者は立ち上がり、体を引きずるようにして歩く。
「そのまま下がっていってください。少し食い止めたら、私たちも急いで下がります。」
その言葉を聞き例の探索者は複雑そうな顔をしたが、そのまま後ろへ歩いていく。
そして私たち三人で三匹の鬼の魔物と戦っていたところで...
再び、強烈な気配を感じた。
「また来る...!」
変異体。
他の魔物を倒したのか、ターゲットがこちらに向いてしまったのか。とにかく、向かってきている。
...いや、私たちに向かってきているわけじゃない。狙いは、あの人だ!
「グオオオオ!!」
後退する例の探索者の元に、変異体が突撃する。
「二人ともここはお願い!!」
つば姉とふーちゃんに鬼の魔物の相手は任せて、私はあの人に向かって全力で走る。
「くっ...!」
あの人も変異体に気づいて剣と盾を構えるが、その姿はいつもより弱々しい。なんとか足止めをして、また魔物とぶつけて離れる時間を稼がないと。
際どいタイミングだが、なんとか間に入れる。そう思っていたところで。
グルっと。
変異体が突然、体の向きをこちらに変えてきた。
「!?」
そのまま剣が振るわれる。
私を真っ二つにするような、強力な斬撃。
咄嗟に横へ避ける。だが、踏み込みがあと半拍遅かった。
完全に避けきることはできずに。
その剣は、私の腕を吹き飛ばした。
────────────────────────────────────
:え?
:!?
:嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
目の前で花歌さんぽの腕が地におちる。
ほんの少し、時が止まったように全員の動きが止まる。
そして。
誰かの叫び声が聞こえた。
それは花歌さんぽのものなのか、チームメイトのものなのか。はたまた、俺のものだったのか。
そのまま状況は一気に動いた。
変異体は花歌さんぽに追撃をしようと、一歩踏み出す。その踏み込みは地に落ちた花歌さんぽの腕を踏み砕き、辺りに血が舞った。
「あああああ!!」
離れた場所から、風雅れんげが悲痛な叫び声を上げながら魔法を放ってくる。だがその魔法は変異体のナックルで弾かれてしまい、当たることはなかった。
魔法を撃った隙を狙われ、鬼の魔物が風雅れんげを殴りつける。その攻撃は頭部に直撃し、風雅れんげはその場に倒れた。
慌てて三羽つばきが鬼を斬りつけるが、後ろから二体目の鬼が襲いかかる。
「はあ...はあ...!!」
花歌さんぽは滝のような汗を流し、腕からあふれ出る血を抑えながら、後ろに下がる。
そこに迫る変異体。俺は変異体を後ろから斬りつけようとするが、横からまた別の鬼の魔物が数体現れる。
「邪魔だ...!」
そのほとんどは変異体に向かっていったが、一体は俺に向かってきた。
万全の状態なら一瞬で倒せる魔物。
だが過剰駆動が切れた状態では、一体を相手にするのが精いっぱいだった。
相手の攻撃を盾で受け止め、重い体を動かしてなんとか剣で斬りつける。そうしている間にも変異体は暴れていて、花歌さんぽに危険が迫る。
三羽つばきは俺と同様、鬼の魔物に手を取られていて、風雅れんげは地面に倒れたまま動かない。
:あ、これダメですね
:あきらめるな!!!
:もう見れません。明日結果だけ聞かせてください。
(俺のせいで...)
助けが来た段階で過剰駆動を止めていれば、途中で膝をつくこともなくそのまま撤退できたのに。
油断せずにこの階層の雰囲気に気づいていれば、無理な戦いをせずにすんだのに。
(全滅...)
その言葉が浮かんでくる。
俺が死ぬことを恐れるようになった原因。
探索者が魔物に殺される光景が脳裏をよぎる。
(...させるかよ!死なないし、死なせるものか!)
目の前で誰かが死ぬなんて許せない。俺も死ぬつもりなど全くない。
(もっと力を...!ここを切り抜けられるだけの力を!!)
目の前の鬼をなんとか切り伏せ、魔物は粒子となって消えていく。これで邪魔者は消えた。
「おおおおおおおっ!!!」
叫び声を上げながら、そのまま変異体に向かっていこうとしたところで。
ドクンッ
と、体の中で何かが跳ねるような音がした。
(...なんだ?)
視界の端に、半透明なウィンドウが出現する。
『レベルが100になりました。100階層への挑戦権を得ました。』
レベル100を知らせるメッセージ。
まさか今倒した鬼の魔物で、レベルが100になったのか。
ボスを倒すまでもなく、あとほんの少しでレベルが上がるところだったのか。
今の、体が跳ねるような感覚。明らかにこれまでのレベルアップとは違った。
ただ数値が上がっただけの変化じゃない。体の奥に、今までなかった余白が生まれたような感覚だった。
自分の中で何かが変わっている。その何かをじっくりと確かめることもなく、俺は即座に行動に移る。
(過剰駆動だけ残す...!)
過剰駆動以外の創造したスキルを、すべて取り消す。
創造スキルは、スキルの数を絞るほど効力が増す。
それでも普段は複数を併用する方が強い。だが今は違う。過剰駆動だけにすべてを注ぎ込む。
そうすれば動けるという確信があった。
過剰駆動の効力を増し、反動状態でも動けるようにする。そもそもの反動を減少させる。
(過剰駆動!)
俺の予想通り、反動などものともせずに過剰駆動は発動し、再び俺の体に力がみなぎる。
そしてさらにもう一つ。
(過剰駆動を使っている時でも、スキルは使える...。)
90階層で過剰駆動中に空中歩行を使っていたように、過剰駆動を使っている最中でも、スキルは問題なく使える。
じゃあ、過剰駆動を2つ創造して、過剰駆動中に過剰駆動を使うとどうなる?
レベル100になった今なら、それができる気がした。というかできなければ勝てないので、無理でもやるしかない。
俺は過剰駆動をもう一つ創造し、迷いなく発動させる。
(過剰駆動、過剰発動!!)
その瞬間。
自分の体が爆発したかのような感覚が襲ってきた。
力があふれる、あふれだす、なんてものじゃない。
力が内側から自分の体を破裂させるんじゃないか。そう思うほどの圧倒的な力が、体の奥底から急激に湧き上がってきた。
:なんだ!?
:すげーーーーー迫力
:まだ逆転できる!?!?
:ここから入れる保険があるんですか!?
俺の気配に気づいたのか、変異体がこちらを振り向く。
「グオオオッ...オ...」
さきほどまでのように俺に向かって来ようとしたところで、困惑したように声を上げて動きが鈍くなった。
さっきまで虫の息だった人間が、異常なまでの力を発している。そのことが不可解で、変異体は初めて人間を不気味に感じた。
「ふっ」
俺は一つ息を吐き、変異体に近づく。
自分の体が消えたと錯覚するほどのスピード。一瞬で変異体の目の前までいき、剣を振るう。
「ゴアッ!?」
変異体は盾で防ぐが、その腕は圧倒的な力によってはじかれる。
そして腕がはじかれたと思った瞬間、ナックルを持っていた腕の1つが胴体から離れていた。
目にも止まらぬ切り返し。この状態なら瞬迅斬を使わずとも、それに近いスピードで剣を振るうことができる。
変異体はがむしゃらに剣を振り、もう一つのナックルで殴ってきて、盾もぶつけてこようとする。
だが、そのすべてが俺に届かない。防ぎ、避け、弾く。
変異体には、自分が何をされているのかすらわからなかった。
だが変異体の直感が働いたとでもいうべきか。目にも止まらぬ斬撃を、ほとんどたまたまシールドバッシュで弾かれてしまった。
剣が俺の手から離れてしまい、一瞬だけ変異体が笑ったような顔をする。
しかし、俺はすかさず拳で変異体を殴りつけた。
「ゴオッ!?」
拳を受け一歩下がる変異体。
「おおおおお...!!!」
短いうなり声をあげて、俺はそのまま拳を連打していく。
腹に、腕に、顔に拳を当て、どんどんと変異体は後ろに下がっていく。
「ゴアアアア!」
変異体が剣を振るうが、その手首を殴りつけることによって、変異体も剣を落とす。同じ要領で盾の手も使えなくしたところで、残りのナックルの腕が俺に向かってくる。
「ふっ!!」
俺はその拳に向かって、自分の拳をぶつけた。拳と拳のぶつかり合い。
その激突によって骨が折れる感覚が伝わってきて、変異体の腕がダランと下がった。
「ゴア...!」
続いて肘打ちを腹に食らわせたところで、変異体が膝をつく。
「終わりだ...!」
俺は腰を下げ大きく振りかぶり、全力で拳を振りぬいた。
その拳は変異体の顔に直撃し
変異体の頭部は吹き飛んだ
そして頭の無くなった変異体はその場に倒れこみ、粒子となって消えていった。
次回は4月9日(木)更新です




