4 異変解決の作戦会議
41階層の異変が解決する少し前──
ダンジョン近くの施設の一部屋に、複数の探索者チームの代表、そしてダンジョン省の担当者が集まっていた。
探索者は皆、目立った怪我はないものの疲労は隠しきれずにいる。
彼らは40階層台の探索に慣れているので、ゴーレムとの戦いにも慣れている。だがさすがに何十、何百匹と戦い続けた経験はない。そもそもそんなに大量のゴーレムが現れることがなかったので、この現象は異常だと誰もがわかっていた。
「さて、それではこれより41階層の異変のまとめ、および対策についての会議を行わせていただきます。進行はわたくし、ダンジョン省の佐藤が担当させていただきます。」
全員が集まったところで、一人の人物が口を開いた。
「結論から言います。今回の異変は、変異体の可能性が極めて高いと判断しています」
その一言で、室内の空気が変わった。
40階層まで探索を進めたものであれば、変異体の存在は当然知っている。だが実際に遭遇するのはほとんどの者が初めてだ。
ダンジョン省の見解は以下の通りであった。
・通常の増加とは明らかに数と速度が異なる
・討伐数に対して収束の兆しがない
・過去の変異体事例と酷似している
何より3つ目の理由が決定的であった。
昨年海外で起きた同様の異常増加。その際はトップチームがゴリ押しで階層中を回り、通常とは違う魔物を討伐したところで事態は収束。それにより変異体の仕業だと決定づけられた。
探索者たちも、その説明に異論はなかった。
あの数と勢いは、通常の増加では説明がつかない。
「すみません。トップチームと言えば、日本のトップの天譚九曜は加わらないんですかね?」
ふと思い出したように、烈煌四雅の代表の緋村玲炎がそういう。あのチームが加われば楽に解決できると思うのだが。
「すでに連絡は取りましたが、現在は最新階層を攻略中とのことです。『帰還してまだ収束していなければ加わる』といった旨を預かっております。」
「あの野郎...」
それを聞き、緋村は天譚九曜のリーダーの顔を思い浮かべる。
佐藤は要約しているが、きっと本当はニヤニヤしながら「お前らならそれくらいできるだろ?できないならしょうがねーから手伝ってやるよ」と挑発的なことを言ってきたのだろう。となれば、できればあいつらに頼らずに解決したい。
「では、過去の事例も参考にしてどのようにして動くか提案をしていきます。」
そうして会議は続いていった。ダンジョン内で何が起こっているかなど、当然知る由もなく...。
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一方その頃。
会議室から少し離れた休憩スペースで、烈煌四雅の霧島斗真は、ドローンの映像を見返していた。
「...くそ、はっきり移ってないな」
転移寸前のあの光景。距離もあり広角モードにしたのもあって、人影とゴーレムが戦っている、というのははっきりと映っていなかった。だが遠くでゴーレムが吹き飛んでいる様子は見ることができる。
:なになに、なんの話?
:さっきの転移直前にゴーレムが吹き飛んでたのが気になるんだって
:あー、急に上昇して広角になったやつね。びっくりしたわ
ダンジョンから出た後、枠を切ってもう一度配信をつけた。そして視聴者と一緒に今回の異変やさっきの光景について話をしている。
「...俺には人影が見えた気がしたんだ。ゴーレムを次々と吹き飛ばしてる人影が。」
:たしかに吹き飛んでるけど
:さすがにこの数は無理じゃね?複数人で技連打とかしないと
:取り残されたチームがいるの?
「いや、把握しているチームは全員戻ってきている。それに見えた人影は一つだけ、だったと思うんだよな...。」
:一人でこれは無理だろ。技連打するにしても魔力と体力がもたない
:技使わずに通常攻撃でやってる可能性は?
:どんな化け物だよw
:でもじゃあこの吹き飛んでるゴーレムはなんだって話になるぞ
:ボムゴーレムが連鎖爆発したんじゃないの?
「連鎖爆発...うーん...」
無理やり理由を出すならそれが無難だが、やはり誰かが戦っていたという記憶が抜けない。普通に考えればあり得ないし、疲労状態で見間違えたと言われてしまうだろうが...。
「……見間違い、かもしれないけどな」
みんなの前では、そう言っておく、
だが斗真は先日噂になっていた56階層の救助事態を思い出した。あれもまた、説明のつかない出来事だった。
ここまで進んできた自分の目を、考えを信じるならば、ダンジョンにはまだ俺が、俺たちが知らない未知の実力を持った探索者がいる。
その未知が面白くて興味深いんだよな、と斗真が笑っていたところで、会議室の扉が開き緋村がやってきた。
「お疲れ。どうだった?」
「話はまとまった。少し休憩して、3時間後にまたダンジョンに向かう。」
緋村が言うには、
・今回は変異体が原因。そいつを倒せば事態がおさまる。
・変異体と戦うのは烈煌四雅、それまでの道のりは他の探索者チームが作る。
・探索者がまとまって変異体へと突き進む、一点突破の短期決戦
ということらしい。
「短期決戦、俺たち向きだな。」
「ああ、俺たちが戦っている間、周りのゴーレムも他のチームにおさえてもらうことになる。俺たちがさっさと倒さないと他のチームがどんどん苦しくなっていくからな。」
「責任重大だな。緊張感のある死闘になりそうだ。」
そうしてメンバー同士で笑い合い、休憩や装備のメンテナンス、道具の補充を済ませた3時間後、ダンジョンの入り口に作戦メンバー全員が集まった。
「いいかみんな、今回は死線を潜り抜けることになる。だが決してあきらめずに、自分を、チームを、俺たちを信じてほしい。それが攻略を切り開く力となる。」
緋村のその言葉を聞き、全員が真剣な顔で頷く。そして合図とともに全員が転移石を起動する。
転移石は密集して使えば全員が同じ場所へと転移される。転移された直後、索敵係が感知でゴーレム密集地帯を探し、一斉にその方角へ向かう。
その計画を何度も頭の中でシミュレーションしながら、全員が姿を消し41階層へ転移したところで...
「な、なんだこりゃ!?」
転移したものたちが見たのは、大量のゴーレムはどこにもいなくなり、通常となった41階層。
そして、地面や岩が削られた、明らかに自分たちがやったものではない戦闘の跡だった。
その後、どこを探しても大量のゴーレムも変異体も存在せず。
最終的に41階層の異変は「原因不明の自然鎮静」として処理された。
少なくとも、公式記録上では。
だが、対応に向かった探索者たちはこれが“自然”ではないということを、誰もが感じ取っていた。
そしてその日を境に、56階層の救助と合わせて、41階層の異変と“正体不明の探索者”の噂は、
探索者たちの間で静かに広がっていくことになる。




