39 意外な対策?
ドローンは佐藤から新しいのをもらいました。
前回の90階層主戦から1週間後。俺は再びヤマタノオロチに挑んでいた。
だが...
「チッ...!」
:うわ、今回きつそうじゃね?
:前より押されてない?
:やっぱ毎回同じようにはいかんか
戦闘開始からしばらく経っても、まだ一度も首を斬り落とせないでいた。
ボスは、当然ながら毎回同じ行動をしてくるわけではない。個体差があり、体の大きさや攻撃の仕方も変わってくる。
それが今回は悪い方向に働いていた。
前回が上手く噛み合ったのだとすれば、今回は全くといいほど噛み合っていない。
剣を振る瞬間に風魔法や地形変化を使われて体勢を崩され、首を斬り落とせない。
圧飛斬で魔法を打ち消そうとすれば、他の頭が間に入ってきて当たってしまい、魔法がそのまま放たれる。
魔法を避けている間に傷は回復されるし、逆にこちらの疲労はたまっていく。
そして紫の霧を剣で切り裂いたその直後、ボスの五つの頭が同時に天を向いた。
(もう来るのか...!)
前回よりも明らかに早い。
まだ首を一つも落とせていない段階でこの大技。
逃げようとしたところで、後ろに火の壁と土の壁が出現する。しかも火の壁は風に吹かれて酸素を浴びて、どんどんと大きくなっていく。
土の壁を魔法切断で斬るが、すぐさまその後ろにもう一枚壁が作られる。どうしても逃がさないつもりか。
そして、衝撃波が放たれた。
もう逃げるのは間に合わないので、前回と同じく剣で裂け目を作り盾を構える。
だが、裂け目の形がよくない。体の大部分に当たってしまう。さらに、前回は過剰駆動のおかげで踏ん張れたのもあったが、今回は素の状態だ。とても耐えきれない。
「がっ...!」
防ぎきれず、吹き飛ばされる。
地面を削りながら何度か転がって、ようやく止まることができた。
軋む体を動かしてなんとか立ち上がる。ボスは反動で動きが鈍くなっているが、俺も攻撃にいける状態ではない。
それに、今の攻撃によって右足に違和感がある。折れてはいないと思うが、万全に動くことは難しい。
ヒールポーションを飲めば多少は動けるだろう。
過剰駆動を使えば、押し返せるかもしれない。
だが、リスクが高すぎる。この状態から勝ちを拾いに行くのは、無謀とまでは言わないが現実的ではない。
(...ここまでだな)
どうしても勝たなければいけないというのなら、後先考えずに無理をする選択もある。だが今回は別にそうではない。
俺は冷静にそう判断して、帰還の宝玉を取り出した。
赤の頭が炎を吐き、黒の頭が地を這うように迫ってくる。
その攻撃が届く前に、俺は帰還の宝玉を握りつぶした。
光がに包まれ、視界が白く染まる。
そして次の瞬間、俺はダンジョンの外に立っていた。
──────────────────────
:おお?ダンジョン外か
:帰還アイテム使ったのね
:ほんとにすぐ脱出できるんだな
:お疲れ様。きつかったね
ダンジョンから出た後、ヒールポーションを飲みながらそんなコメントを眺めていく。
「ああ、きつかった。今回はダメだったな。というか、前回が上手くいきすぎた。」
:そういうときもある
:本気で戦った?
:全力出してないよね。あれ出せば勝てたんじゃ?
「薄々分かってると思うけど、あれは反動あるんだよ。簡単には使えない。みんなも、徹夜明けにフルマラソンするみたいな感覚を何度も味わいたくないだろ?」
:それは嫌だわ
:そんなきついの!?
:学校の持久走でも嫌なのに、そんなんしたら死んでしまう
「もちろん例えだけどな。そういうわけだから、あれはある程度相手を削ってから使いたいんだ。でも今回は上手くいかなかったし、ちょっと色々考えるよ。ひとまず今日はもう終わりだ。」
:切り札は気軽に使うもんじゃないからな
:はーい。お疲れ様でした
:勝てなかったけど、生きててよかったよほんとに
:死にさえしなければ何度でも挑戦できる
「ああ、まずは死なないことが大事だからな。ってことでお疲れさん。」
そう言って俺は配信を切った。
そして次の日
(どうしたもんかね。)
俺は外に出て、今後のことを考えていた。
昨日の傷は、ポーションを飲んでスキルを回復系にすることで大方治りはした。足も異常はないし、若干体の節々が痛むくらいだ。普通に動く分には問題ない。
ただ、深層に潜れるほどのコンディションではない。なので今のうちに大学のことをやっておこうと思い、大学の図書室に向かうことにした。長期休みとは言っても、ゼミくらいはあるからな。
だが道中、いや、図書室に着いても考えてしまうのはダンジョンのことだ。
やはりヤマタノオロチは強い。過剰駆動を使うのが前提だし、そもそも使って勝てるところまでもっていくのも難しい。
何かが足りないのか?強化アイテムはあるが、80階層以降の装備はまだ少ない。まずは装備集めをするべきか?それともレベル上げ?
まあ一度と言わず二度突破はしているので、何も今無理に戦い続ける必要はない。だが、ドロップ品集めのためにいつかは何度も戦う必要が出てくるだろう。そのために対策などは考えておきたい。
そう考えていたところで、横から声をかけられた。
「あ、先輩。」
聞き覚えのある声。そちらを見てみると、そこには春野と若葉がいた。
「こんにちは。」
「ああ、春野と若葉か。どうしたんだ?追試か?」
「いえ、僕らはサークル活動ですね。先輩こそ何を?」
「俺はゼミのことで少し調べ物をな。というか、傷はもう大丈夫なのか?」
春野は探索者狩りに襲われた時に結構な傷を負っていたはずだ。それから全然会っていなかったが、治ったのだろうか。
「さすがにもう大丈夫ですよ。ポーションも使いましたからね。」
「改めて先輩、あの時は私たちを助けてくれてありがとうございました。」
そう言って二人は頭を下げてきた。
「それを言うなら最初に助けてもらったのは俺のほうだからな。こちらこそありがとうと言わせてくれ。」
「じゃあお互いありがとうってことですね。」
「そういうことになるな。それより、サークルなんて入っていたんだな。」
このままだとお礼を言い続ける流れになりそうだったので、話を少し変えてサークルの話題に持っていく。
「ええ。事件の後に、ダンジョンサークルの人に声をかけられて入ったんです。」
「一緒に探索したり、装備の交換をしたり、結構助けてもらってるんですよ。」
「そうか。探索者同士の繋がりは大事だからな。」
まあ他とほとんど繋がりがない俺が言っても説得力はないかもしれないけど。
「あ、そういえば...」
そこで、若葉が思い出したように言う。
「サークルの先輩が、もしよかったら先輩と話したいって言ってたんです。90階層について気づいたことがあって、もしかしたら力になれるかもって。」
「気づいたこと?」
「はい。よければこの後来ませんか?もちろん先輩さえよければですが。」
そう言われ、少し考える。
よく知らない人からの誘いであれば普通に断るが、相手は春野たちの知り合いだ。気づいたことというのも気になるし、会ってもいいかもしれない。
ただ、人と会ったのが知れ渡ると、他のチームや企業からも「会ってくれ」と言われてしまうかもしれない。
「...そうだな。会ってみるか。ただ、俺と会ったことはできるだけ秘密にしておいてくれ。それが知られて他の探索者が『会ってくれ』って押し寄せてくると、時間を取られて探索に影響が出てしまうからな。」
なので、できるだけ口外しないでもらうことにしよう。別に同じ大学の人と会うくらいは大丈夫だと思うが、念のためだ。
「わかりました!じゃあサークルの人に連絡入れておきますね!」
そう言って春野は携帯でメッセージを打ちはじめた。
その後俺のやることが終わったところで、二人にサークルのメンバーの場所まで案内してもらう。
「普段は探索以外だとダンジョン横の訓練場とか、キャンパス裏の空いてる場所に集まって訓練したりしてるんですよ。あとは、空き教室に集まって情報共有とか、ダンジョンについての雑談をしたりもしてますね。」
道中、春野からサークル活動についての話を聞く。こういうのを聞くと、やはりチームの利点は多いと感じるな。
そうしているうちに、一つの空き教室までやってきた。
扉を開け入ると、中にいた数人の視線が一斉にこちらへ向く。
「黒瀬先輩、来てもらいましたよ。」
「あ、ああ。ありがとう。ほんとに来てくれるとは思わなかったから、ちょっとびっくりだ。」
春野に声をかけられた男が、驚いた顔でこちらに歩いてくる。
「初めまして。このサークルのリーダーを務めている黒瀬だ。湊達が例の探索者と知り合いってことだから軽い気持ちで頼んだんだけど。会えて嬉しいよ。」
そう言って黒瀬は手を差し出してきた。俺はその手を取り握手をしながら、黒瀬を見てみる。
サークルのリーダーということは、つまりチームリーダーということだろうか。
身長は180センチ近くあり、細身だが力強さを感じる。たしかに、人をまとめる立場にいるのが似合う見た目だった。
「さて、早速だけど本題に入ろうか。湊達から聞いていると思うけど、90階層主についてだ。」
「何か気づいたことがあるって?というか他のメンバーはいいのか?」
「他のみんなは...。まあこれからまた関わるようなことがあれば紹介するよ。みんな緊張しているみたいだしな。」
それを聞き他のメンバーを見てみると、みんな固まったりソワソワしたりしていた。身内以外だと人見知りするタイプが多いんだろうか?
「あ、でも一人だけ紹介させてくれ。今回のことは、俺じゃなくてそいつが気づいたんだ。丸山!来てくれ。」
黒瀬が名前を呼ぶと、一人の男がこちらに向かってきた。
「こいつが丸山だ。丸山は探索というより、どちらかといえばダンジョンの考察とかが好きなタイプでな。ダンジョンについては結構細かいことまで知っていて、腕っぷしというより知識で助けてくれるんだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
そう言って丸山は会釈する。
丸山は黒瀬とは対照的に、少し恰幅が良くて、身長もそれほど高くなく、丸眼鏡をかけた大人しそうな男だった。
たしかに、ぱっと見は腕が立つようには見えないな。
「よろしく。それで気づいたことって?」
「えっと、90階層主の配信を見ていて思ったんですけど、あのボスって、神話の生物みたいな見た目ですけど、おそらく80階層台の通常の魔物を考えると、蛇に分類されると思うんですよね。」
たしかに90階層までの道中は蛇の魔物が多かった。ボスは道中の魔物と関係がある生物のことが多いので、それを考えると蛇なのかもしれない。
「そうだな。多分蛇だろうな。」
「それで、蛇って爬虫類じゃないですか。だから、40階層主用の装備が効くんじゃないかと思って...」
「40階層?」
なんで急に40階層の話が出てくるんだ?
「あ、すみません。えーと、40階層主ってでかいワニじゃないですか。それで、30階層台の装備って、そのワニに対して通りがいいんですよ。ただ、実は『ワニに対して』じゃなくて、『巨大な爬虫類全般に対して』効きがいいんですよね。」
「...そうなのか?」
30階層台の装備は、そこまで詳しく調べたことがなかったから知らなかったな。ボスワニに対して効きがいいっていうのは知っていたけど。
「はい。付与とは別で、特殊効果として『巨大爬虫類特攻』があるんですよ。それが90階層主にも効くんじゃないかと思ってですね。」
丸山は丸眼鏡の位置を直しながら、少し早口で話を続ける。
「それに、87階層で転移石の数字を変えるオーブが出てきたじゃないですか。あれはただの便利アイテムじゃなくて、『前の階層に戻って装備を取ってこい』ってことなんじゃないかと思うんです。遺跡にいた守護者?小ボス?みたいなやつらも、見事に全部爬虫類がモチーフになっていました。それも、この『巨大爬虫類特攻』を思い出させるためなんじゃないかなって...」
丸山はそこまで一気にしゃべった後、ハッとして慌てたような顔をした。
「す、すみません。いきなり喋りすぎちゃって。」
「いや、大丈夫だ。かなり筋の通った話だと思う。」
もし『巨大爬虫類特攻』が本当なら、あり得る話だ。
普通は深層の攻略にわざわざ中層の装備を持ち出したりはしない。だからこそ見落としていた。
「もし効くのだとしたら、結構な効果があると思うんです。相手がでかければでかいほど特攻効果も強くなるらしいので。」
「そうなのか。」
「はい。ボスは個体によって大きさが変わってきますけど、大きい個体の時の方が武器の切れ味が良く感じた。っていう話が多いんですよ。」
なるほど...。そのあたりは、知らない話だったな。
色々と準備は必要になるが、試してみる価値はあるかもしれない。
「あ、でも、あくまで仮説ですからね。本当に効果があるのかどうかは...」
「何事もやってみるまでわからないもんさ。試してみて効果がなかったとしても、別に怒ったりはしないから大丈夫だ。その時はまた普通に戦うよ。」
実際俺も深層では思いついたことを試しては、何度も失敗してきた。開拓者がいない階層では、失敗なんてよくあることだ。
だから、この仮説も一度試してみよう。
ただ30階層台の装備だと付与は二つまでしかできない。なので何を付与するか考えなければいけないし、そのための付与素材も必要だ。
それらの準備が済んだら、もう一度ヤマタノオロチに挑んでみるかな。
その後は少しだけ雑談をして終わりとなった。
ちなみに黒瀬たちは現在30階層台で、40階層を突破できていないらしい。
自分たちがちょうどワニについて考えていたからこそ、今回の仮説が頭に浮かんだのかもな。
次回は3月16日(木)更新です
40階層主がワニという話は、32話でちらっと出てきています。




