37 伝説の霊薬、その手がかり
本日2話目です。前話をまだ見ていない方はそちらから先にご覧ください。
ヤマタノオロチが粒子化したのを確認して、俺は過剰駆動を解除する。
「...くっ」
途端に襲ってくる疲労感。
体が痛み、足は重く、思わずその場に膝をついてしまう。
(やっぱりきついな、この反動は...。まあ85階層の時に比べれば大分マシだ。)
腰に下げているマジックバッグからヒールポーションとマジックポーションを取り出し、一気に飲み干す。
今回はかなり被弾が少なく、最後も一気に押し切れたので使用時間もそれほど長くなかった。なのでその場で倒れて動けなくなるほどではない。
とはいえ、気持ち的には横になって休みたいくらいだ。
(くらったのは尻尾の一撃と、大技を突破するときに衝撃波が掠ったくらいか。上手くいきすぎだな。)
正直、出来すぎなくらいの戦闘内容だった。自分でも驚くほどだ。毎回こんな上手く勝てるとは思わない方がいいだろう。
(さて、装備の点検...は、あとでいいか。ひとまずドロップアイテムの確認...。いや、まずはドローンか。)
戦闘終わりに何から手をつけようかと考えていたが、そういえばドローンがあることを思い出した。戦いに集中していて忘れていた。
「おーい。ドローン。もう離れなくていいぞ。」
動き回って探すのも面倒なので、声を出して呼び寄せようとする。ドローンはAI搭載で自律的に動くので、俺の声を聞けば寄ってくるはずだ。
だが、少し待ってもドローンは近寄ってこない。どうしたのかと思って周りを見てみると、地面の近くにコメント投影のウィンドウが見えた。
「あー、羽が壊れてるのか。」
重い体を動かしてなんとか近寄ってみると、ドローンは羽が壊れて飛べなくなっていた。羽というか、プロペラか?
一体どのタイミングで壊れたのかわからないが、おそらく大技のせいかな。
とはいえ壊れているのは羽だけで、カメラや配信機能は生きているようだ。
:やっと気づいたか!!!!
:お疲れ様ーーーーー!!!
:後半の動きなんですか!?あれが本気!?
:最後の方はうまく見えなかったぞ!悔しい!
俺が近寄ったあたりで、コメントが一気に加速しはじめた。そういえば過剰駆動を見せたのは初めてだったか。驚くのも無理はない。
「最後のほうってことは、中盤あたりまでは見えてたってことかな。なら少しは戦いの参考になるか。」
過剰駆動を使うあたりまでだとしても、いい戦いを見せられていたはずだ。かなり先にはなるだろうが、他の探索者がこの階層に来て戦う時の役に立てばいいが。
:いや参考にならないが???
:あれを参考にして戦えるやつがどこにいるというんですかね
:まあボスの特徴は少し見れたから、参考になる...のか?
「あー...すまん。たしかにソロだと参考にならんか。チームだと動きも変わってくるだろうからな。チームで戦うと考えれば、まずは各頭の対処法を共有しておいて...」
:ちがう、そうじゃない
:そういうことじゃないんだよなあ
:ソロとチームの違いとかではなくてですね
「...何がどう違うんだ?」
:まずその速度が参考にならん
:各頭の同時攻撃を捌ける前提で話してるのがおかしい
:最後なんて胴体真っ二つだぞ???
「...速度はともかく、攻撃捌いたり胴体斬るのはチームで協力すればできるんじゃないか?」
てっきりソロの戦い方だと参考にしにくいということかと思ったが、そういうことではないらしい。
とはいえコメントを見ても何が違うのかはよくわからないので、首を捻りながらも次はドロップアイテムの確認に行く。
もちろんドローンは飛べないので手に持ったままだ。
:おお、画面が揺れる揺れる
:酔いそう。優しく運んでくれ
:ドロップアイテムの確認じゃーーー!!
:そういえばほしい素材ってなんなんですか?
「ほしい素材は...まあ、調合素材と言っておこうかな。あればいいんだけど。」
そう言ってドロップアイテムを見てみると、三つのドロップ品があった。
一つは、おなじみの魔石。
ただしでかい。両手サイズだ。これだけデカいと逆に使い道がなさそうな気がする。
:でっっっか
:でかすぎんだろ...
:とんでもなくエネルギーありそう。
:いつか魔石で動くロケットとか作られたら、それの動力になるかもね
二つ目。これがお目当ての素材だ。
『白蛇の鱗』。以前鑑定した時は、こんな結果が出ていた。
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【白蛇の鱗】
白き蛇から得られる素材。
極めて高い生命力と魔力を内包しており、伝説の霊薬、エリクサーの素材となる。
単体では効力を発揮しない。
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そう、エリクサーだ。ポーションとは違う。
これまでエリクサーというアイテムは見つかっていなかった。
なので初めて手に入れたときに、気になってわざわざ『鑑定文を鑑定するスキル』というものを創造して、エリクサーについて調べてみた。その結果がこれだ。
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【エリクサー】
伝説の霊薬。
あらゆる傷と万病を癒やし、死亡していない限り、いかなる状態からでも使用者を回復させる。
さらに、寿命を数年延ばす。
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これの最後の文。『寿命を数年延ばす』。
つまりこのエリクサーこそが、俺の追い求めていたアイテムだ。
残念ながら他の素材まで調べることはできなかった。『鑑定文のアイテムを作るための素材を調べるスキル』とかを創造しようとしても、さすがに複雑すぎるようで無理だった。
だが、寿命を延ばすアイテムが存在しているというのがわかっただけで、当時の俺の気持ちは一気に落ち着いた。とはいえ、その後もエリクサーの素材を求めて91階層以降も探索しにいったんだけどな。
:白い鱗だ
:それが素材?
「ああ。これが欲しかったやつだ。いつかこれを使ったアイテムが作れたら、その時また言うよ。何ができるかは...まあ、お楽しみってことで。もしくはみんながこの階層に来て手に入れて調べてみてくれ。」
:気になる――――
:深層の情報提供チャンネルだろ!教えてくれよ!
:そんな階層までいけねえよ!
「全部教えるとみんなの探索の楽しみもなくなるだろ。ちゃんとここまで来れるように情報提供していくからさ。」
そう言いながら、俺は最後のドロップアイテムを確認する。
三つ目は、手のひらサイズの丸い玉だった。
中にゆっくりとうごめく光が入っていて、見る角度によっては蛇の瞳のようにも見える。
色は、紫色。
:なんだそれ?
:また丸い玉か。スキルオーブじゃないよな?
:なんか毒々しい色だな。
「これは付与素材だな。でも前は黒色のやつだったんだけど、今回は紫色だ。」
気になったので『鑑定』スキルを創造し、適当なスキルと入れ替える。今日はもう戦うつもりはないし、非戦闘系のスキルを創っても大丈夫だろう。
鑑定結果はこうなっていた。
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【呪蛇珠】
白き蛇が宿していた呪の力を結晶化した珠。
武器、防具、杖のいずれかに状態異常系の付与を与える素材。
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(なるほどな...)
前回は黒色の力、つまり物理の力だった。今回は紫の状態異常の力か。
ということは、おそらく八つの属性の付与素材があるのだろう。...全部集めようとすると、とんでもなく大変なことになるな。
:黒と紫ってことは、ボスの属性に対応してる?
:今回は状態異常付与ってこと?
:まさか八種類のドロップアイテムあんの?
色を言ったことにより、コメント欄も気づいたようだ。まあさすがにそんな特徴的な色をしていれば気づくよな。
「かもしれないな。使うかどうかはともかく、こういうの見ると全部集めたくなるな。」
:わかる
:コレクターの血が騒ぐよな
:最後の一種類だけ全然出なかったりするんよな
コメントのみんなも同意してくれたようだ。
とはいえ、現状で全てを集めるのはちょっときつい。今回は上手く勝てたとはいえ、そう頻繁に戦いたい相手ではない。気力も体力も相当使うからな。
ただ、白蛇の鱗が確定かどうかはまだわからないし、もう何回かは戦ってみるつもりだ。...月に2、3回ってところかな。それ以上はちょっとしんどい。
:このあとどうするの?
:91階層見る?
:次の階層見せてほしい!
「いや、今日はもう終わりかな。今は疲れて戦える状態じゃないし。階層転移は魔物が近くにいない場所にされるって言っても、感知にすぐれた魔物が遠くから走ってくる可能性もあるからな。戦える状態になってから行くってなるとここで数時間休むことになるし、それなら今日は終わってまた後日91階層に行くよ。」
実際最初に勝った時は今よりボロボロだったのもあって、このボスの間で数時間休憩、というか仮眠をしていた。探索者がボスの間から出なければボスは復活しないとは言え、通常の魔物が寄ってきていた可能性はあった。なので今思うと相当危険な事をしていたな。
:残念だけど、命大事だからね
:お楽しみは次回だな
:付与素材、どんな付与がされるかわかったら教えてほしい!
そんなコメントを見ながら、俺は一階層の転移石を起動させた。
次回は3月16日(月)更新です。
2話で「探索も一息ついた」「少しは目的の目途が立った」と言っていたのは、この白蛇の鱗のことです。




