36話 圧倒
12時にもう一話更新します。
「過剰駆動」
その瞬間、全身の魔力が暴れ出す。
体にとてつもない力が満ちる。
血も、筋肉も、内臓も、すべてが限界を超えて動き出すような感覚。
魔力が全身を高速で駆け巡り、体の奥から熱を生み出していく。
体が軽い。視界が冴える。
呼吸は浅く、速く。それでも苦しくはない。
むしろ、あらゆる感覚が研ぎ澄まされていく。
(……いける)
高速思考を使わずとも、敵の動きがはっきり見える。
さっきまでの俺なら、六つの頭をすべて捌き切ることは難しかっただろう。
だが今は違う。
迫りくる六つの頭。俺はその中でも最も距離が近い、緑の頭に向かって駆け出した。
これまでは相手の攻撃を待っていて、来たところを対処していた。しかし過剰駆動状態なら、そんなことをする必要はない。
俺は緑の頭を、全力で盾で殴り飛ばした。踏み込んだ衝撃で地面が割れ、緑の頭は白目を剥いて倒れ伏す。
そこで横から黒の頭が噛みついてきた。駆け出した俺の動きに、他の頭よりも一歩早く反応していたようだ。
その噛みつきを、回転しながら半歩移動してかわし、そのまま回し蹴りをくらわす。
それを食らい黒の頭は大きく吹き飛んだ。
...いや、黒の頭だけではない。その衝撃は蛇の全身を揺らし、体ごとのけぞらせた。
当然、他の頭もそれにつられて大きく揺れる。
俺はその隙に跳躍と『空中歩行』を使い、一番乗りやすい位置にいた茶色い頭の上に乗り、剣を振るう。
(瞬迅斬)
上からの斬りつけによって、茶色の頭が宙を舞った。
だが白い光が断面から溢れ、すぐさま再生を始める。
再生したければすればいい。またすぐに落としてやる。
そう思っていると、後ろから魔法を放つ音が聞こえた。
わずかに首を動かし『視界拡張』で確認すると、風の刃が飛んできていた。
今、俺は茶色の頭の上にのっている。そこに魔法を放ってくるとはな。
俺がその場から飛び退くと、案の定風の刃は茶色の頭に当たっていた。暴走状態なので、自分に当たるなんてことを考えていなかったのかもしれない。
だが頭から飛び退いた俺に向かって、四つの頭が四方向から至近距離で口を開けてきた。
水の弾と状態異常の霧。さらに回復と物理の頭も魔力弾を放つ。
(...避けきれないな)
着地に合わせて距離を詰められた。
この距離、この角度で回避はできない。ならば、打ち消す。
放たれた四つの魔法に対し、俺は剣を持ち替えてその場で高速回転する。
斬撃の円が広がり、四方向からの魔法をまとめて打ち消した。
(最初みたいに少し時間差で撃てばよかったものの。)
時間差で撃たれればこの方法は使えなかった。とはいえ一つずつ撃てばわずかな隙で避けれただろうし、どっちにしても対処はできた。
俺はそのまま白の頭まで駆けていき、瞬迅斬で斬り落とす。この頭が近づいてきてくれたのはラッキーだ。
白の頭は即座に再生して距離を取ろうとするが、俺は走って追いかける。だがその途中で黒の頭が割り込んできた。先ほどの蹴りで鱗が剥がれて頭の一部が凹んでいるが、それを意に介することなく噛みついてくる。
「邪魔だ」
思わず声に出してそう言い、瞬迅斬で斬りつける。
鱗が剥がれた部分は柔らかくなっていて、他の頭と同じように瞬迅斬で斬り落とすことができた。
黒の頭も即座に再生。
だがこれで、残り六つの頭のうち半分は一度斬り落とした。先ほどまでの削り合いが嘘のように、一瞬で追い詰めていっている。
暴走状態とはいえ相手も追い詰められていると感じたのか、ボスは雄たけびを上げながら再び全身を動かした。
(またか)
回転攻撃だ。
俺は同じように跳んで躱すが、当然また八つの尻尾が襲ってくる。
(何度もくらうわけないだろ。)
しかし俺は跳んだと同時にタメていた『極鋭刃』を、尻尾が目の前に来たタイミングで振りぬく。
一閃
その一振りで、近くに来ていた尻尾四本を斬り落とした。
残りの四本の尻尾は、驚いたように引っ込んでいった。
(さっき当たったからって全く同じことをされるとは。舐められたもんだな。)
一回転して再び正面に来た頭を、俺は着地しながら睨みつけた。
ここに来て、初めてボスがひるんだように動きを止める。
そしてわずかな静寂のあと、残っている六つの頭のうち、緑以外の五つが同時に天を向いた。
空気が震え、大地が揺れる。
魔力の奔流が可視化したかのように、五つの口元で光が膨れ上がっていく。
(...来るか。)
五つの頭を使って放つ、ボスの大技だ。
挙動や原理は85階層の中ボスと同じだが、威力は段違い。周囲一帯が消し飛ぶほどの魔力の嵐を放ってくる。
初めてこの技をくらった時、大ダメージを負って逃げ帰ったくらいだ。まともに食らえば、まず立ってはいられない。
瞬時にボスから離れようとしたが、その動きは後ろから吹いてきた風によって妨害される。
残った緑の頭の風魔法だ。俺を逃がすつもりはないらしい。
風魔法は後方の複数方向から放たれているため、圧飛斬ですべてを打ち消す時間はない。
(それなら、突き進むまでだ。)
魔法切断の剣に持ち替え、正面へ駆け出す。
次の瞬間、ボスの口から混ざり合った魔力が解き放たれた。
「っ……!」
あらゆるものを破壊しながら迫ってくる衝撃波。俺はそれに向かって自ら踏み込む。
まずは圧飛斬
魔法切断を乗せた飛ぶ斬撃で、正面の奔流をわずかに裂く。
当然完全には切れない。だが、密度が落ちる。
その裂け目へ、盾を構えて剣を振りながら突っ込んだ。
直後、衝撃が全身を叩く。
「ぐっ……!」
剣で直接切ったことにより裂け目はさらに大きくなったが、それでも体がバラバラになりそうなほどの威力だ。
盾の上から押し潰されそうになる。足元の土が抉れ、靴が地面に沈む。
それでも止まらない。
過剰駆動で強化された足に、さらに魔力を込める。
受け止めるんじゃない。突破するんだ。
魔力の嵐の中、俺は一歩、また一歩と進む。
そして
嵐が止んだ。
(抜けた...!)
目の前には、揺らいでいるボスの頭。
あれだけの威力の技を放ったんだ。当然反動はある。動きが鈍っている。
(取った!)
俺はそのまま一番近くにいた茶色の頭に跳び込み、剣を振りぬいた。
宙を舞う頭。
これで茶色の頭も二度目だ。
直後に風魔法が飛んでくる。大技に加わってなかった緑の頭は動けるようだが、頭一つだけでは脅威にならない。
走るだけでその魔法は回避し、そのまま跳躍して緑の首に極鋭刃を振りぬく。
最大威力ではないが、黒の頭でなければ問題なく斬り落とせる。
即座に再生する頭。続けて斬ろうとしたところで、俺はあることに気づいた。
ボスの色が、白色に戻っている。
暴走状態で常に色が変わっていたものが、今はおさまっている。
つまり、暴走は収まった。
すでに荒々しい魔力は身を潜めている。それどころか、首を3つ斬り落としたことによってむしろ弱まっている。
(このまま押し切る!)
俺の過剰駆動は、長引くほど反動がきつくなる。ほどほどで抑えるためにも、ここで勝負を決めに行く。
即座に再生した頭に向かって、『空中歩行』を使いもう一度接近してまた斬り落とす。これで緑も再生しない。
そこでボスがようやく反動から回復し、動き出そうとする。
だが...
(させるか!)
身体強化を使い、俺はボスの体に体当たりをする。
すさまじい衝撃と共に、ボスが吹き飛んで転がっていく。
頭を半分失い弱っているのか、ボスはすぐに起き上がることができないでいる。
黒色の頭が鱗の色を変えて、力づくで起き上がろうとするが...
(極鋭刃)
すでに近づいていた俺は、黒色の頭を斬り飛ばした。
残りは、白と水と紫。
四本の尻尾を使い体勢を戻したボスは、端の頭を白く輝かせてさきほどのタックルの傷を回復させようとしていた。
俺はその頭に向かって走り出す。
水と紫が攻撃を仕掛けてくるが、水の弾は俺の速度に追い付けず、走った後の地面に当たっていく。
状態異常の霧は、走りながら圧飛斬で切り裂いた。
そして何度目かわからない跳躍をして、白の頭に近づく。
その瞬間、隣の頭が再生して噛みついてきた。
最初に切った赤の頭だ。
白の頭が時間をかけて回復させていたのが、このタイミングで間に合ったのか。
だが俺は、頭が生えたのを『視界拡張』で確認した瞬間に、『高速思考』で次の動きを考えていた。
『空中歩行』で噛みつきをかわし、そのまま赤の頭の上にのる。
(再生したばっかりだが、またお別れだ。)
そして剣を振りぬき、また切断した。
赤の頭が落ちるのを確認することなく、俺はすぐに白の頭に向かって跳ぶ。
水と紫が魔法を放ってくるが、一つは剣で打ち消し、一つは盾で防ぐ。
白の頭は避けようとするが、俺は『空中歩行』で白の頭を空中で追いかける。
(瞬迅斬)
そして、白の頭も切断した。
残る頭はたった二つ。
落下地点を確認すると、そこにはボスの体があった。
それを見て一つ思いつく。
(ここで決め切るつもりなら、こうしよう。)
このまま相手に攻撃させることなく決着をつける。
俺は『怪力』スキルを創造して、『属性耐性』と入れ替えた。
そして落下しながら、思い切り拳を振り落とす。
ドゴン!と、鈍い音がした。
怪力、身体強化、過剰駆動。それらの力がのった拳を食らったボスは、地面をのたうちまわる。
着地した俺は、その横で極鋭刃のタメに入った。
(...わざわざ頭を全部落とさなくても、今なら胴体ごといける。)
頭を落とすごとに感じていたが、このボスは頭が減るごとに体に纏う魔力が少なくなっていっている。
つまり、防御力も低くなっている。
頭が残り二つとなった今では、体ごと斬れるという思いがあった。
(さすがにこのままじゃ無理だな。)
だがいくら防御が低いとはいえ、もう少し威力が必要そうだ。なので俺は『切断特化』と『剣技強化』を創造し、『状態異常耐性』と『高速思考』の二つと入れ替える。
そして最大までタメて、スキルによって威力が増幅された極鋭刃は。
ボスの体を、真っ二つにした。
真っ二つになった体は、頭と違い再生することはなく。
そのまま粒子となって消えていった。
前書きにもありますが、12時にもう一話更新します。
最終的に主人公が創造で付けていたスキル10個
『身体強化・瞬間装備・剣技発動短縮・切断特化・怪力・視界拡張・剣技強化・スタミナ増加・空中歩行・過剰駆動』
今回は細かく書きましたが、多分スキル入れ替えのあたりは分かりにくかったと思うので、次回以降は省略したりするかもしれません。




