35話 八つ首との戦い
前回盾の性能を書き忘れたので、公開後に一度書き直しています。
盾は『魔法軽減・衝撃緩和・シールドバッシュ』が付与されています。
あと今回少し長くなりました。
八つの蛇の口から魔法が飛んできたのを見て、俺はすぐさま『高速思考』と『視界拡張』を使った。
途端、世界がわずかに遅くなる。
思考が速くなったことにより周りがスローに見える中で、俺は広い視界で蛇の魔法を冷静に観察する。
(...八つ全部対処するのは無理だな。)
瞬時にそう判断した。
魔法は一斉に放たれたように見えたが、そうではない。
よく見るとわずかな時間差をつけて放たれ、扇状に広がるように迫ってきている。
つまり真正面から受けようとすると、一つ一つ防いでいく必要があるということだ。
なので正面突破は論外。
(...右だ!)
魔法の着弾の密度が最も薄いと予想できる場所。俺は地面を蹴りそこまで移動する。
狙い通り、ここなら三つの魔法しか当たらない。これなら対応できる。
(圧飛斬!)
魔法切断効果を乗せた斬撃を飛ばし、先頭の魔法を打ち消す。これで一つ。
そしてもう一度剣を振る。
剣で二つ目を斬り裂き、同時に放った圧飛斬で三つ目を断つ。
そのタイミングで、隣で爆発が起きた。無視した五つの魔法が、俺が最初にいた位置に当たり破壊を巻き起こす。
爆風と砂煙を浴びながら、それでも俺は正面から目を離さない。
やつもまた、八つの頭で俺を見ていた。
一瞬の静寂
次の瞬間、巨体が雄たけびを上げて動き出しこちらに向かってきた。
そして雄たけびを上げながら、一つの頭の鱗の色が白色から赤に変わった。
(来るか)
赤くなった頭の口の奥で炎が渦を巻く。
この蛇は、頭ごとに攻撃の性質が違う。
そして攻撃の直前、その頭の性質に合わせて鱗の色が変わる。
今のは赤。つまり炎だ。
巨大な顎が開き、燃え上がる口が俺に迫る。
(前と同じく、好戦的なやつが真っ先に来たな)
八つの頭はそれぞれ性格も違う。積極的に向かってくる頭もいれば、遠くから攻撃するものもいる。
今飛び出してきたのは頭の中でも特に攻撃的なやつだ。
迫る蛇の口を、俺は剣を持ち替えながらギリギリのところでかわす。
そして炎の熱気を感じながらも瞬迅斬で斬りつけた。
(浅いか。もう一発...)
だがさすがに一発で首を落とすことはできない。追撃を仕掛けようとしたところで、拡張された視界の端でもう一つの首が近づいてくるのが見えた。
その鱗の色は黒に変わっている。黒色は、物理特化だ。
近接を仕掛けてくるのは、大体この黒と赤と黄色だ。
(シールドバッシュ!)
俺は素早く盾を構え、黒色の頭がぶつかるのに合わせて盾技を発動する。この技はタイミングが大事だが、『高速思考』により完璧なタイミングで弾くことに成功した。
黒色の頭はシールドバッシュにより大きく弾かれる。しかし完璧に成功したはずなのに、あまりの衝撃の強さに俺も少しよろめいてしまう。
(衝撃緩和の盾で、シールドバッシュを決めてもこの威力か...!)
そう考えていたところで、残りの六本の頭のうち二本の色が変わるのが見えた。
色は黄色と水色。
その二つの口から、水の弾と雷の弾が飛んでくる。
その場から飛び退くと、さきほどまで俺がいた場所に二つの魔法が着弾した。
土が舞い視界が悪くなるが、俺はその中を駆け抜ける。
飛び出してきた俺を見て赤の頭が炎を吐き、黒の頭が噛みついてくる。
その攻撃は俺に直撃...したように見えたが、それは『幻影』で作り出したものだ。
本物の俺は黒の頭の横までいき、『極鋭刃』のタメに入る。
だがさすがに最大までためることはできない。ボスが本物の俺に気づき動き出す瞬間、7割ほどの威力で極鋭刃を放つ。
斬撃は命中。しかし、半分ほど切れ込みを入れたが切断まではできなかった。
(マジかよ...!?極鋭刃でダメなのか?)
いくら7割程度の威力とはいえ、極鋭刃で切断できなかったことに少し驚く。この技は以前戦った時には持っていなかった技で、今の俺の主力とも言っていい技だ。
狙う頭を間違えた。おそらく赤の頭なら切断できたはずだ。実際前回はこれよりも弱い技で赤の頭は切断できた。
黒は物理特化故に防御力も高いので、最大までタメなければ切断できないのだろう。
黒の頭は痛みに首をうねらせながら少し距離を取る。そしてその傷口に小さな光が纏い出した。
よく見ると赤の頭の傷口にも光が纏っている。
ボスの全体を見てみると、一番奥の頭が白く輝いていた。
あいつは回復担当の頭だ。傷をつけても、あいつのせいで回復されてしまう。
回復速度が遅いのがまだ救いだが、それでも長期戦の削り合いになるとこちらが明確に不利になる。均等に傷つけるのではなく、狙う頭を絞らなければいけない。
ボスは次々と各頭で襲ってくるが、俺は『高速思考』を使い防いでいく。これのおかげで対応できているが、このスキルも使い過ぎは注意だ。
高速思考は脳に負荷がかかるため、使いすぎると頭が痛くなり集中力が落ちて判断力も鈍くなる。
『状態異常耐性』のおかげで軽減はできるが、それでもずっと使っていると症状は出てくる。
(長引けば不利。過剰駆動を使うタイミングが重要だな。)
切り札を温存しすぎて負けてしまえば意味が無いので、どこで切るか。
俺は紫の頭が放ってきた状態異常の霧を圧飛斬で霧散させながら、これからの動きを考えていた。
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とある建物の一室。
そこで三人の女性が、90階層の戦いの様子を視聴していた。
「...とんでもないわね。」
そのうちの一人、三羽つばきがぽつりとつぶやいた。
同じく映像を見ていた花歌さんぽと風雅れんげも、返事はしなかったが同じ気持ちだ。
彩風三花は、この日たまたま今後のスケジュールについて話し合うために集まっていた。
だが話し合いの最中で、突然事務所のマネージャーから『90階層の攻略が始まった』という連絡が入った。
そこで三人は一度話を切り上げて配信を見ることにしたのだが...。
その内容が衝撃すぎて、しばらく言葉が出なかった。
以前に80階層の映像を見たときも衝撃ではあったし、映像越しでも圧を感じていた。
だが90階層は、それの比ではない。まるで御伽話を映像化したような光景が広がっている。
自分たちの進む先にこの生き物がいるなどとは到底考えられない。どこか他人事のように思ってしまう。それほど現実離れしている存在であった。
:動きが多すぎてどこを見たらいいのかわからん
:分身?みたいな技使ってるよね
:なんで食らいつけているんだ??ほんとに人間か???
コメントの言う通り八つの頭が繰り出す攻撃は多彩で、どこに注目すればいいのかわからなくなる。この巨体でこれだけの攻撃をしてくる相手。もし戦うとしたら、と想像するだけで恐ろしくなる。
だが真に恐ろしいのは、その相手と戦うことができている一人の探索者だ。
複数の噛みつきと魔法攻撃、時には状態異常までしてくるボスを相手に、その探索者は剣で、盾で、身のこなしで戦うことができている。
対峙しただけで戦意を失いそうな怪物。それを相手に、あの探索者はまともに動けている。
そのことが恐ろしく感じてしまった。
「噛みついてきてる頭、色が決まってるよね?」
「うん。今のところは黄、赤、黒しか噛みついてきてない。」
「...頭ごとに役割があるのかもしれないわね。」
だが驚いてばかりではいられない。現実味はなくとも、これは現実だ。このまま探索者を続けるならばいつかは出会うことになる存在。ならば今のうちにしっかりと見ておくべきだろう。
戦闘を見ていくうちに、頭ごとの役割が見えてきた。
火、水、土、雷、風、状態異常、回復。
七つまでは判別できる。
黒の頭だけは分からないが、動きからして物理担当なのかもしれない。八つすべてが違う特性を持っている。
その中でも特に厄介なのが...
:また回復してる!
:やっぱ回復だよなあれ
:無理ゲーすぎないか?どうやって勝つんだ?
「回復が一番厄介ね。」
「そうだね。しかも何が厄介かって、相手から一番離れた位置をキープしてる。」
「回復を倒すのが定石だけど、あれだけ引っ込まれると倒せない。」
多少の傷は白く輝く頭によって回復されてしまっている。回復能力自体はそれほど高くないようだが、それでも厄介極まりない。
「このままじゃジリ貧ね。」
「ちょっとずつ傷つけてるけど、どこかで崩れそう。」
「たしかにこのままじゃ無理そうに見えるね。でも...」
さんぽが一度言葉を区切り、続ける。
「あの人、まだ本気じゃない。」
その言葉と同時に、戦いに動きがあった。
赤の頭を弾き飛ばした後に斬りつけたことによって、とうとう赤の頭が切断される。
回復されてはいたがさきほどから赤を集中狙いしていたため、回復よりダメージが上回ったのだろう。
:おおおおおおおお!
:斬り落としたぞ!!!
:一点集中が攻略法か!!
「...よし!」
コメントが盛り上がるのと同じタイミングで、思わずさんぽも小さくガッツポーズを取る。少しだが勝機が見えた。そう思っていたが...。
:は??????
:えええええええええええええ
:また生えてきた!!??
赤の頭は、切断されて数秒後に再生した。その光景に三人は思わず唖然とする。
「なによそれ...」
「斬り落としたら即時回復?」
「回復から倒さないとダメ...?」
:待て。道中の蛇の魔物も、一度は再生した。でも二度目は再生しなかった。こいつもそうじゃないか?
:こんなんどうやって勝つんだよ!!
:一度きりの再生だとしても絶望だろ!
コメントも阿鼻叫喚ではあるが、その中でも冷静に分析しているコメントはある。
三人もあまりの出来事に呆然としていたが、気を取り直して映像に集中する。
「動じている様子はないわね」
「コメントの様子だと、一回勝ったことあるらしいよ。」
「ということは、再生についても知っていたということ。」
彩風三花は途中から配信を見始めたので、この探索者が以前90階層に挑んだ時の話は聞けていない。
だがどうやら一度突破しているらしいので、ボスの特性については知っているだろう。
ならば頭を斬り落としたことにも意味があるはず。コメントの言う通り、再生には限りがあるのかもしれない。
探索者は再生を見ても表情一つ変えずに戦いを続けている。それどころか戦いに慣れてきたのか、魔法を飛ばそうとしてきた頭に斬撃を飛ばして、攻撃をキャンセルさせることまでしている。
「タイミングをつかんだのかしら?」
「それか、実は何か予兆があるとか?」
「なんにせよ、回復を上回ってきている。」
その言葉通り探索者の動きはどんどんと冴えてきて、攻撃の頻度も増えてきた。狙う頭は赤と黄に絞ったようで、その二つの首に傷が増えていく。
そしてとうとう、赤の首が二度目の切断をされた。
再生は...しなかった。
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(ようやく頭一つ斬り落とせたか...。)
赤の首を二度切断したところで、俺はほんの少し息を整える。
こいつらは各頭につき一回、再生能力を持っている。なので斬り落としても一度はすぐに再生されてしまう。
だが逆に言えば、二回斬り落とせばその頭はすぐに再生はしなくなる。回復の頭がいる場合は長時間経てばまた再生してしまうが、再生するまでにさらに頭を斬り落としていけばいい。
(まあそう上手くはいかないけど...!)
茶色の頭が使ってくる地形変化の土魔法に足を取られそうになりながら、迫ってくる黄色の頭の電撃を剣で打ち消す。
頭が一つ減ったとは言え、相手の攻撃の手数はまだまだ多い。
対する俺もそろそろ『高速思考』の脳負荷が出てくるかもしれないので、そちらの使用を控えないといけない。
つまりはお互い手札が一つずつ減ったということだ。決して有利になったわけではない。
別のスキルを創造して高速思考と入れ替えればいい話だが、高速思考はいざというときのために残しておきたい。全く使えないというわけではないからな。
だが『幻影』スキルはそろそろ入れ替えてもいいかもしれない。さすがに見破られてきたらしく、ほとんど時間は稼げなくなってしまっている。
幻影スキルで作り出したわずかな時間でマジックポーションを飲み、魔力を補給する。安定した戦況に見えて、実はかなりギリギリだ。
(でも、まだいける)
カウンター気味の『極鋭刃』で黄の頭を斬り落とす。その頭は即座に再生して噛みつこうとしてきて、同じタイミングで緑の頭から強烈な風が飛んでくる。
風によりバランスが崩れそうになるが、俺はあえてその風に逆らわずに風が吹く方向に跳んだ。
風に乗った跳躍は通常の何倍も飛距離を出し、ボスから離れていく。
一旦距離が取れる、と思ったが、茶色の頭の土魔法により着地地点に尖った岩が複数生成される。このままでは着地と同時に串刺しだ。
(幻影はここまでだな。)
俺は『空中歩行』を創造し、幻影スキルと入れ替えた。そして着地の寸前に空中を蹴って移動することで、平地に着地をする。
ボスはまた魔法を放ってこようとするが、圧飛斬でそれを妨害する。すると痺れを切らしたように、黄と黒の頭が噛みつきをしてくる。
(よし、少しパターンは読めてきた。このまま半分くらい首を斬り落とせれば理想だが...。)
黒の頭の噛みつきは避け、再び出そうとしてきた魔法は圧飛斬で打ち消し、黄の頭は盾で弾く。そして『瞬間装備』で剣を持ち替え、また『極鋭刃』で首を斬り落とす。
これで黄色も二回目の切断。さらに手数を減らせた。
この調子ならいける。そう思っていたところで、ボスに変化があった。
残りの頭が同時に咆哮する。
次の瞬間、全ての頭が一斉に色を変えた。
黒、水色、紫、茶、緑、白...
それぞれの色が激しく明滅する。
(!?)
さっきまでとは明らかに違う。空気が変わった。
そう感じた時、ボスが動き出した。
尻尾を最大に伸ばしての、回転。
点ではなく面の攻撃。10メートルをこえる巨体の回転攻撃は、さすがに盾では防げない。
身体強化を引き上げ、足に魔力を集中させて跳ぶ。
跳躍による回避。ギリギリ躱せた...と思っていると、ボスの八つの尻尾が空中で枝分かれするように広がり、襲い掛かって来た。
咄嗟に空中歩行を使うが、八つの尻尾は不規則に動き回っており軌道が読めない。
(避けきれない!)
そして尻尾の1つが俺に直撃する。寸前で高速思考を使いシールドバッシュを成功させたが、完全に弾くことはできなかった。
空中歩行は一度の滞空で使える回数が限られている。なので俺はその衝撃を逃がすことができずに、そのまま吹き飛ばされて地面にたたきつけられた。
「ガハっ...!くそ...!」
体を痛めながらも素早く起き上がり、ボスの状態を見る。
すべての頭が色を変え、目は赤色に光っていて、禍々しい魔力を放出していた。
(暴走状態...なんで今!?)
俺はこの状態を『暴走』と呼んでいる。各頭が役割を忘れたように暴れまわり、周囲を見境なく攻撃し始める。
だがタイミングが予想外すぎた。前回は四本目に水色の首を落としたときに暴走したので、条件は『四本目』もしくは『水色の頭』のどちらかを斬り落とすのだと思っていた。
(まさか完全ランダムか...?いや、考えている暇はない。)
突然の出来事に混乱するが、その間にもボスは迫ってくる。
先ほどまでの役割など関係なしに、残る六本の頭すべてが一斉に噛みついてきた。
(...使うしかないか。)
本当は四本落としたあたりで使いたかったが、こうなってしまっては仕方ない。
温存と出し惜しみは違う。
襲い来る六本の頭を前に、俺は迷わずスキルを発動させた。
「過剰駆動」
その瞬間、世界が変わる。
久しぶりに使う俺の切り札が、産声を上げた。
次回は3月12日(木)更新です。
7話のあとがきで「できる限り1話で戦闘は終わらせる」と書いたのに、今回終わりませんでした。申し訳ありません。




