34 90階層の準備と始まり
【ダンジョンニュース】
【彩風三花・烈煌四雅の合同チーム。怪我人を出しながらも60階層突破】
【ダンジョン省雇用探索者の東雲迅。単独で3階層を一気に突破し、66階層まで到達】
【天譚九曜、怒涛の階層更新で69階層を突破。70階層攻略も目前か】
ダンジョンアプリを開いてトップニュースを見ると、階層更新の記事が大量に並んでいた。
(東雲、66階層まで来たのか。他のチームも60階層台だし...。いい調子だな。そのまま深層に来て情報集めを手伝ってくれよ。)
89階層で帰還の宝玉を見つけてから1週間。大学も休みに入り時間もできたことで、こうやって世間のダンジョン事情を調べる時間もできた。
多くのチームの階層更新が進んだようだが、もし自分の解説の影響だとしたら素直に嬉しいものである。
(俺も解説ばかりしてるわけにもいかないし、さっさと80階層あたりまで来てもらいたいな。)
深層へ来る手伝いも大事だが、一番は自分の探索である。
この一週間、再び86~89階層の遺跡を見てみたが、無事にアイテムはリポップしていた。正確なリポップ周期はまだわからないが、おそらく3日程度だろうか。
この周回により2つ目の帰還の宝玉を手に入れたし、時間をかければ複数確保できることもわかった。
つまり条件はそろったということだ。
撤退手段が定期的に手に入るなら、以前考えていたように90階層主と再び戦ってもいいだろう。危なくなったら即座に逃げればいいだけなのだから。
90階層に潜るということで、念入りにダンジョンに入る前の最終確認をする。今日はいつも以上に準備をしておく必要があるからな。
まずは『創造』で創れる10個のスキル構成の確認。
『身体強化・瞬間装備・剣技発動短縮・状態異常耐性・属性耐性・視界拡張・高速思考・スタミナ増加・幻影・過剰駆動』
ひとまずはこれでいいだろう。
90階層主は、広範囲に色々な属性の攻撃をしてくるので、この構成で行く。
この10個は昨日のうちに創っていたので、変更のクールダウンはすでに終わっている。
戦闘中に別のスキルがほしくなれば、幻影あたりと入れ替えればいい。
次は防具の確認。鎧は
『属性耐性・頑丈・要塞・衝撃緩和』
が付与されたもの。
盾は
『魔法軽減・衝撃緩和・シールドバッシュ』
が付与されている。
以前よりも防御力が増し、生存力も上がっている。
多少攻撃を食らったとしてもすぐにやられることはないだろう。
そして武器の確認。今回は二本の剣をメインで使うつもりだ。
一本は
『切れ味上昇・重量軽減・不壊・瞬迅斬・極鋭刃』
が付与されている。
そしてもう一本は
『切れ味上昇・魔法切断・圧飛斬・踏破斬』
の付与だ。
一本は普段から使っている、俺が持っている中で唯一付与が五つできる剣だ。
もう一本は、それが手に入る前にメインで使っていたもの。斬撃を飛ばす圧飛斬が便利で重宝していた。
この武器を使った戦闘を頭の中でイメージする。
相手の属性攻撃を魔法切断の剣で斬って対処し、接近して『瞬間装備』で武器を持ち替え、瞬迅斬で斬りつける。
できそうならば『幻影』で隙を作り、極鋭刃で大ダメージを与える。
もちろんそう上手くいくとは限らないが、この動きができれば理想だ。
場合によっては魔法も使うだろうから、この2本の剣以外もすぐに取り出せるようにマジックバッグの中は整理しておこう。
その整理の際に、ヒールポーションやマジックポーションが入っているのも確認する。そしてもちろん、帰還の宝玉も忘れない。
「よし」
準備完了だ。
荷物を持ちダンジョンまで行き、入り口の魔法陣へと向かう。
ドローンを取り出し配信を開始して、転移石を画面に映して階層を口にした。
「90階層」
そして転移石が起動し、俺は光に包まれて90階層へと転移した。
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:こんにちは
:90階層の転移石持ってたんか
:もしかしてボスと戦ったことある?今日戦う?
90階層についたところで配信のコメントを投影させ、それを眺めてからコメントに答えていく。
「察しの通り、90階層主とは戦ったことあるよ。だからこの階層の転移石も持ってた。それで、今日また戦うつもりだ。」
:おおおおお
:90階層主お披露目だ!!
:やっぱ強化アイテムたくさん手に入れたから?
「そうだな。特にあの帰還アイテムの存在がでかい。あれがあれば少しのリスクも選択肢に入るくらいだ。」
この一週間の間に、帰還の宝玉や身体能力向上の薬については話してある。
帰還の宝玉については当然最初は大盛り上がりだったが、89階層以降でないと使えないというのを聞いて一気に騒ぎはおさまった。現状では俺以外使えず、誰かに譲渡しても意味がないからな。
逆に、魔力増幅草や身体強化向上の薬は売ったりしないのか、売ってほしいという声が多かった。
だが現状はまだそんなに持っていないし、自分で使う分を確保したいため、しばらく売るつもりはない。
:90階層主ってどんな奴なん?
:強化アイテムないときつい?
:倒したことあるの?ここで詰まってる?
ボスの間に向かってる最中はそんなコメントが多かった。俺は蛇やリザードマン、ワニや亀の魔物と戦いながら、移動中に少しずつ答えていく。
さすがにこの階層まで来ると魔物も少し手こずるが、それでも脅威というほどではない。気を抜けば怪我をしてしまうが、その程度だ。
だが、今日の本命の相手はそんなものじゃない。
「90階層主はこのあと見ることになるけど、ヘビだよ。首がいっぱいあるデカいヘビだ。一回突破してるけど、正直ギリギリ...というか、勝てたのが不思議なくらいだったな。その時よりレベルも高いし装備も強くなってるけど、それでも強化アイテムがないと不安なくらいにはきつい。」
:突破してるの!?!?
:突破してるのに80階層台探索してたんだ
:90階層より深層の転移石はあるの?これまで行ってないよね?
「91階層以降の転移石もあるから、行こうと思えば行ける。でもちょっと難易度が高すぎるし、80階層台もしっかり探索できてなかったからな。レベル上げと探索もかねてずっと80階層台を潜ってたんだよ。そのおかげで強化アイテムを見つけられたから、それで正解だったな。」
:主が難易度高すぎるって言うとか、どれだけきついんだ...
:魔物倒して進むだけじゃダメなのね。探索もしないとダメか。
:なんでまた90階層主に挑もうと思ったの?
「90階層主のドロップアイテム目当てだな。一度突破した時に、ボスから素材が出たんだよ。それが毎回出るのかどうか確かめたいって感じ。」
:よく聞く話ではあるな。ボスのドロップ目当ては。
:動機はあるあるだけど、その階層がとんでもねえよ。90階層って。
:どんな素材だったの?
「それは...あー、ボスが見えてきたな。それは終わってから話すよ。」
そうこう話している間にボスの間に到着することができた。
これまでは遺跡が点在している森であったが、ボスの間の周辺は草原になっていて見晴らしがよく動きやすい。
そして見晴らしがいいということは、ボスの確認もしやすいということだ。
「あれが90階層主だよ。」
そう言って俺はドローンをボスに向けた。
草原、ボスの間の中央。
そこに巨大な塊があった。
その塊は白色で、鱗がついており、よく見ると複数の頭と尾がひとかたまりになっているものだというのがわかる。
そしてその頭たちが、ゆっくりと動き出す。
近くに来た獲物を確認するように、ひとつひとつ起き上がっていった。
一つ、二つ、三つ...。起き上がる頭は止まらない。
五つ、六つ、七つ...。そして最後の八つ目が起き上がったところで、その全貌が明らかになる。
八つの頭と、八つの尻尾。目は赤く光っており、それぞれの頭には角が生えている。
頭一つだけでも10メートルはあろうかという長さで、それが八つ。
尻尾まで含めると、全体でどれほどの大きさになるのか計測するのすら難しいほどだ。
「俺はヤマタノオロチって呼んでる。色は白いけど、見た目はそのまんまっぽいから。伝説では緑色とか、腹が赤いとか言われているんだっけ?」
初めてこいつを見た後、軽く調べたことがある。色以外はヤマタノオロチの特徴そのまんまだった。
むしろ何で色だけ違うのか不思議だと思ったくらいだ。
軽く映し終えてからドローンを戻してコメント欄を見てみると、みんな大騒ぎしていた。
:いやいやいやいやいやいや、なんだこいつ
:これと戦うの?無理じゃね?
:神話の生き物じゃん
:予想の1つには上げられてたけど、マジかよ。無理だろ
そうなるよな。俺だって最初は「こいつと戦うとかマジかよ」って思ったし。
実は体が大きいだけで強さはそこまでなんじゃないかと思ったりもしたが、当然そんなことはなく普通にむちゃくちゃ強い。
最初に逃げ帰った時は、この辺り一帯が原形をとどめないくらいになってた。
「まあ今回は強化アイテムもあるし、帰還アイテムもある。気持ち的にはちょっと楽だよ。」
:こいつを前にして気持ち楽にはならんだろ
:これに勝ったことあるってマジ?
:大きさだけでも半端ない。50階層のゴーレムよりでかいだろ
コメント欄はずっと騒いでいるが、俺の気持ちの準備はもう済んでいる。
コメントが落ち着くまで待っていたら気持ちが途切れるかもしれないし、今のうちにいってしまうか。
俺は魔力増幅草を入れたポーションと身体能力向上の薬を飲み、軽く剣を素振りする。
「よし、大丈夫だな。」
力が湧いてくる。身体能力向上の薬も、魔力増幅草と同じく上昇率は3割ほどだ。
魔法威力と身体能力が3割増しというのは心強い。
でもおそらく、強化アイテムを使ったとしてもこいつには届かないだろう。倒すには過剰駆動が必要になると思う。
だがあれは使用時間が長いほど反動がきつくなるので、過剰駆動を使うまでにできるだけ追い込んでおきたいところだ。
:え、もういくの
:待て、俺たちはまだ混乱している
:ほんとにほんとに戦うの?
さすがにこいつとの戦い中にコメントは見れないし、なんならドローンが近くにあると気が散るので、ドローンは少し遠くから映しておくように指示をする。
そしてひとつ深呼吸をし、ボスの間に足を踏み入れたところで。
八つの口から、光線のような魔法が一斉に飛んできた。
次回は3月9日(月)更新です




