30 2人の救助隊
12時にもう1話更新します。
時は少し遡る───
87階層でオーブを回収し、1階層へと転移をして配信を切り、外に出る魔法陣を使いダンジョンの外に出たところだった。
(...ん?コメント?)
ドローンの電源を切ろうとした時に、ドローンについている小さな画面のコメント欄が動いたことに気づいた。
配信をしていなくても、コメントをすることはできるらしい。だが配信を切った後に何をコメントしたのだろうと気になりそのコメントを見てみると、こんなことが書いてあった。
:ダンジョン11階層で探索者に何かあったかもしれない。もしこれを見ていたら行ってあげてほしい
...なんのことだ?と思っていると、続けてコメントが入力される
:配信切ったばかりなのでまだ見ていることを願って。11階層の探索者の配信が、少し不自然に切れた。未知の魔物か、探索者狩りかもしれない。
11階層で不自然に音信不通か。その階層なら奇襲をしかけてくる魔物もいないし、たしかに怪しいかもしれない。だが何故わざわざ俺に言ってきたのだろう?
そう考えていたところ、次のコメントでその理由がわかった。
:探索者は、以前主を助けた二人組。春野湊と若葉結。もしかしたら配信を切るタイミングを間違えただけかもしれないけど、嫌な予感がする。様子を見てきてあげてほしい。
それを見た途端、胸がざわついた。
あの二人...
助けてくれた恩人でもあり、後輩でもある二人組。
この人は二人の視聴者だろうか?その二人のことを心配して、関わりがある俺に頼んできたのか。
もし二人が何かしら事件に巻き込まれているなら、助けるべきだ。助けてあげたい。
真偽はわからないが、嘘だと疑って手遅れになってしまえば後悔してしまうだろう。ここは動く場面だ。
俺は振り返り、急いでダンジョンに戻ろうとする。
だが途中で気づく。もし二人が分断されたり、事件にあってバラバラに逃げていたら?
片方は助けられても、もう片方は助けられないという事態になりかねない。
そう考え、咄嗟に『千里眼』や『透視』を創り辺りを見渡す。
...いた、見つけた。
俺は目的の人物を見つけ、ズカズカと近づく。もし見つからなければ一人で行くつもりだったが、丁度いてくれた。
「東雲」
「ん?おお、あんさんか。どうした?一緒に潜ってくれるんか?」
何やら職員と話していた東雲に声をかける。こいつはいつもダンジョンの周りをうろついているな。だが今回はそれがありがたい。
「30分後にまたダンジョン省の人と話があるからな。それ終わってからなら一緒に行けるで」
30分か。それだけ時間があれば、行って戻ってきてからでも間に合うだろう。
「とりあえず一緒に来てくれ。前回急な手合わせ受けたんだから、今回は俺の急な頼みを聞いてもらう。」
「来てくれって、今か?」
「今だ。事情は後で言うからとにかく来てくれ。30分経つまでに終わらせるから。」
「...わかった、ほんなら行こか。」
俺の真剣な顔を見て緊急事態だとわかってくれたのか、東雲は素直に付いてきてくれた。
そのまま2人でダンジョンに入る魔法陣の前まで来る。
「なんやダンジョン潜るんかいな。ほんまに30分で戻るんか?何階層行くんや?」
「11階層だ」
「11?中途半端やな。そんなところの転移石あるんか?」
そう言われマジックバッグを漁るが、当然ピンポイントでそんな低階層の転移石があるわけない。
しかし、俺には一つ手段があった。
「なんやそれ?オーブ?」
マジックバッグから取り出したのは、適当な転移石と、87階層で見つけたオーブ。
このオーブの効力はこうだ。
『転移石に使うことで、その転移石より低い数字の転移石に変化させることができる』
つまりたとえば80階層の転移石に使えば、1~79階層の転移石に変えることができる、ということだ。
そのオーブを使い、転移石を11階層のものへと変化させて東雲に渡す。
「これを使ってくれ」
「...今、変な事せんかったか?まあええわ。それも後で聞かせてくれな。」
「ああ」
そう言って東雲と俺は転移石の起動準備に入る。
そして30秒の間に素早く事情を説明する。
「ほーん。未知の魔物か、探索者狩りか、どちらにせよ異常事態かも、ってことかいな。」
「ああ。コメントがただのイタズラならその時はその時だ。本当だった時が一番マズイ。」
「ほんなら、最悪を想定するならドローンで撮影か配信した方がええな。探索者狩りなら、映像撮ってれば一発でアウトや。」
...たしかにその通りだ。東雲の言葉に納得したところで、転移石が起動し俺たちは11階層へと転移をした。
ダンジョン11階層
「さて、急いだほうがええけど、どうする?とにかく走り回るか?」
いつの間にか東雲もドローンを用意しながらそう聞いてくる。配信始めたのか?知らなかったな。
「いや、少し待ってくれ。」
しかしそこに興味を持っている場合ではないので、俺は先ほどの千里眼に加えて、『鷹の目』『望遠』を創りひたすら遠くまで見渡す。それに加え『気配感知』も、魔力を最大まで込めて範囲を広げる。
...いた。人に襲われて二手に分かれている。やはり東雲を連れてきていてよかった。
若葉の方は逃げ回っているようなので、位置を把握できる俺が行った方がいいだろう。
東雲には、留まって戦っている春野のところに行ってもらおう。
俺は春野がいる方角を指さして言う。
「こっちの方角、1キロくらい先に、3人相手に戦っている男の子がいる。その子を助けてあげてくれ。」
「あんさんそんなんもわかるんかいな。わかった。任せとき。」
そういうや否や、東雲は猛スピードで駆け出して行った。
そしてそれを確認した俺は、配信開始ボタンを押した後に急いで若葉の方へと走り出す。
若葉も、それを追っている男もなかなか早い。速度系のスキル持ちか?
追いつくためには、俺も速度系を創る必要があるな。
87階層で『鑑定』を創り、先ほど視界系のスキルも大量に創った。ここで速度系を創るとスキル構成は補助用ばかりになってしまい、戦闘スキルはほとんどなくなる。
だが、こんな階層で探索者狩りをしているようなやつらだ。戦闘スキルがなくとも、『孤高の戦士』とレベルによる身体能力だけで充分だろう。
:え、また配信?
:そこどこ?深層じゃないよな?
:10階層台っぽい見た目だけど
:行ってくれたのか!ありがとう!!どんな状況だ!?
コメント投影のボタンは押していないので、コメントが流れているのは小さな画面でわかるが、どんなコメントが流れているかまではわからない。
だが今回は証拠のために配信をつけているだけだ。コメントを見る必要はない。
そして、若葉がコケて斬られようとした瞬間。ギリギリのところで間に合った。
「な、んだ……お前……いつ」
「...」
目の前の驚いた男と、涙目の若葉を見て、なんだか不思議な感情が湧いてきた。
その感情のまま、力任せに相手の剣を弾く。
「じっとしててくれ。すぐに終わる。」
そう若葉に言って相手と対峙したところで、ようやくこの感情が何か分かった。
俺は今、怒っている。
「だ、誰だ...。いや、どこかで見た気が...」
男が言い終わる前に、俺は全速力で男に接近する。
そして怒りをぶつけるように盾を顔にぶつけ、剣の柄で腹を殴り、顔を膝で蹴り上げた。
気絶した男を見て、少し怒りがおさまった俺は若葉の方を振り返る。
土や泥はついているが、コケたときのものか。切り傷はなさそうだ。
「大丈夫...そうだな。」
そう言ったところで、若葉は必死に春野の助けを求めてきた。
「大丈夫だ。」
だが俺は、スキルで見て、感じ取った結果を伝える。
「春野の方には、もう一人が向かっている。」
東雲も、間に合ったようだ。
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東雲は、例の探索者が指さした方向へ全力で走っていた。
『1キロほど先、3人相手に戦っている男の子がいる』
了承して走り出したのはいいものの、正直半信半疑だった。
だがしばらく走り出したところで、本当に戦っているところが見えてくる。
(……ほんまにおる。それも……)
3人相手に戦っている男の子は、もうボロボロだ。
血を吐き、ふらつきながら立っている少年。
その周囲を囲む三人の探索者。
楽しそうに笑いながら、剣を構えている。
「クソが」
東雲は低く吐き捨てる。なんて胸糞悪い光景だ。
男の子の正面の男が、剣を大きく振り上げた。
ギリギリ間に合うか。いや、このまま走っているだけじゃ間に合わない。
そう判断した東雲は、脚に魔力を流し込み地面を蹴った。
走って間に合わないなら、跳べばいい。
そして剣が振り下ろされる、その直前で。
「邪魔すんで」
東雲は跳んだ勢いのまま、男の剣を横から打ち払った。
ガァンッ!!
という、金属同士がぶつかる音。
剣は弾かれ、地面に突き刺さる。
「なっ!?」
驚いた声と表情の男。
東雲は着地と同時に姿勢を低くし、そのまま膝のバネを使い体当たりをぶちかます。
「ごっ!?」
男は吹き飛び、何メートルも地面を跳ねたあと動かなくなった。
「……っ!?」
残り二人が一瞬たじろぐ。
その隙に東雲は片方に接近し、足を払って転倒させ、思いっきり踏みつける。
「があっ!?」
口から血を吐き、踏まれた部位を抑えて悶える男。
「あ、すまん。やりすぎたか?アバラ何本か折れてもうたかもしれん」
「な、なめやがって...!」
そんな呑気なことを言う東雲を見て、残った一人が剣を構えて走ってくる。
「んー?...はぁ...」
東雲はそれを見て、呆れたようにため息をつく。
あまりにも遅い。50階層台や60階層台の魔物と比べたら、あの探索者の動きと比べたら。
遅すぎてあくびが出てしまいそうだった。
「おらあああ!」
「ほいっと」
男が剣を振り下ろしてきたのに合わせて、東雲も剣を振る。
『渾身』、『重撃』、東雲の攻撃スキルを合わせたその剣とぶつかった瞬間...
ポキッと、男の剣は半ばから折れて飛んで行った。
「...は?」
「あー...。まあ装備差考えたら当たり前やわな。」
呆然とする男を前に、東雲は当然の結果だと頷く。
「装備差あるのはよくないな。サービスで素手で行ったるわ。殺すつもりもないしな。」
東雲はそう言い、剣と盾を放り投げて無手で男と対峙する。
なんなら、殺すつもりはないので剣がある方が戦いにくい。
「いや、ちょっと...」
「来ーへんなら、こっちから行くで?」
そういうや否や東雲は『俊足』で男に近づき、腹に、顔面に、拳を入れていく。
「ぶっ!?ぼっ!?もう、やめ」
「あーすまん。よう聞こえへんわ。」
そのまま何度も殴り続けて、男は倒れて動かなくなった。
終わった後に、東雲は自分の拳を見つめてぽつりとつぶやく。
「思いっきり殴るってこんな感じなんやな。何も楽しくないわ。」
そして背後を見る。
そこにいたのは全身血だらけで、それでも立っている少年──春野湊。
意識を保とうと必死だ。
(……よう耐えた)
東雲は静かに近づき、声をかける。
「もう大丈夫や、終わったで。」
「……結……は……」
湊はかすれた声で言う。
それに対し東雲は即答する。
「無事や。」
直接確認したわけではない。
「あっちも、間に合っとる」
だが、自分が間に合ったのにあの探索者が失敗するわけがない、という確信が東雲にはあった。
その言葉を聞いた瞬間。
湊の身体から、ふっと力が抜けた。
倒れ込むのを、東雲はすぐに支える。
「おっと……」
少年を地面に寝かせ、ポーションを与える。
そして東雲は自分のドローンを一瞥する。
(全部映っとるな。)
証拠としての配信。これだけ映せば逃げ道はない。
「……ほんま、ギリギリやったな」
そう呟いた東雲の背後で。
11階層の森は、何事もなかったかのように静まり返っていた。
:やりすぎじゃね?
:最後のは明らか殴りすぎだろ
:おい迷惑系、ここぞとばかりに暴力で気持ちよくなるなよ
「そんなんしとらんわアホ!あと誰が迷惑系じゃ!」
なお、コメントは大騒ぎで荒れ気味だった。
前書きにもありますが、12時にもう1話更新します。
掲示板回です。




