3 ダンジョンの異変・変異体
【ダンジョン41階層でゴーレム型魔物が増加。チーム烈煌四雅が対応するも苦戦】
何気なく開いた探索者向けアプリのダンジョンニュースに、そんな見出しがあった。
烈煌四雅。以前、彩風三花を調べたときに名前を見た気がする。日本でも50階層台に到達している数少ないチームだったはずだ。つまり、彩風三花と同力のチーム。
(そのチームが苦戦か...。)
50階層台に到達しているチームが、それより10階層低い41階層でそれほど苦戦するとは思えない。そうなると、これはただの魔物の増加ではない可能性が出てくる。
魔物が増加するというのは、ダンジョンにおいて時々あることだ。魔物の出現はランダムだがその出現タイミングが一気に被ったり、探索者が長い間訪れずに魔物を倒さなかった結果、少しずつ増えていったりなどだ。
だが41層は頻繁に探索者が訪れるため、後者ではないだろう。
そして前者の場合は、ある程度の数の魔物を倒せば解決する。
(数が多すぎる...というか、増える早さが異常だ)
41階層の様子の動画もあげられていたので見てみたが、烈煌四雅は充分といえるほど魔物を倒している。しかしそれでも魔物の勢いは変わらない。
そうなると考えられる原因は───
(増殖・繁殖型の変異体か)
稀に現れる、魔物の変異体。そう考えればすべて辻褄が合う。だったら増える魔物をいくら倒してもキリがなく、大元の変異体をたたく必要がある。
【烈煌四雅、並びに41階層攻略中の探索者、撤退の判断。一度対策を立てなおし再び対応の予定か】
続いてもう一つニュース記事が流れてきた。彼らは大量のゴーレムを倒していたが、それ相応に体力も魔力も消耗しているし、武器のメンテナンスも必要だろう。撤退は懸命な判断だと思う。
だが撤退するということはつまり、今変異体を倒せばそいつの素材は俺のものになるということだ。
他の探索者が狙っている魔物を倒すのは、横取り扱いされることも多いのでやらないのが通常となっている。
しかし撤退するような状況であれば俺が倒して素材を手に入れても問題ないだろう。
(変異体ゴーレムの素材はできればほしいと思っていたからな。防具の防御力を上げるのに使える。)
ソロの俺にとって、防御は攻撃以上に重要視する部分だ。それを強化するための素材が手に入るのならば行くしかないだろう。
そう考えた俺は、41層の転移石を握りしめてダンジョンへと向かった。
ダンジョンの周辺はいつも通り探索者やそれ関係の施設、お店などで賑わっている。
いつも通りの賑わい、つまりまだ41階層の出来事が変異体だとは思われていないようだな。さすがにそろそろ気づくやつが出てくるだろうが、もし他に変異体の素材目当てのやつがいたとしても、先に入ってしまえば俺のものだ。
入口に立ち転移石を起動し、30秒後に41階層へと転移する。
転移は周辺に魔物がいない場所にされるので、毎回少し位置がずれる。場合によっては崖下や、足場が不安定な場所にとばされることもあるが、今回はありがたいことに平地だった。
「多いな...」
平地なので遠くまで見まわせるが、すぐ近くに魔物がいないとはいえあちらこちらにゴーレムがいるのがわかる。この密度はやはりおかしい。
「さて、やるか。」
だがゴーレムが何体いたところで問題はない。大元の変異体を倒せばおさまるわけだしな。
マジックバッグからハンマーを取り出し、スキルも『衝撃強化』『破壊特攻』など打撃用のスキルに変更する。様々な場面に対応できるのが俺のスキルの強みだ。
さすがに『気配感知』を使ったところで、階層全体から変異体を見つけ出すことはできない。だがゴーレムは様々な場所にいるように見えて、大元である変異体の方角は密度が高くなっている。
つまりゴーレムが密集している場所へどんどん向かっていけば変異体は見つかるということだ。
ゴーレムがひときわ集まってる場所を見つけた俺は、その集団に突っ込んでいきハンマーを振りぬいた。
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同時刻、41階層。
「他のPTは退避完了! 残ってるのは俺たちだけだ!」
烈煌四雅のメンバーの一人が、他のメンバーに大声でそう伝える。
「了解、これ以上無理する必要ないな。みんな撤退するぞ!斗真、デカいのを一発頼む!」
それを聞いたリーダーの緋村は、すぐさま撤退の指示をメンバーに出す。そして名前を呼ばれた一人が前に出て、技を撃つ準備に入る。
「よしきた!みんな離れて転移石の準備をしてろよ!いくぞー、烈波崩砕!!」
そして技を放つと轟音とともに衝撃波が地面を走り、押し寄せていたゴーレムの群れが一斉に弾き飛ばされる。
「ヒュー!さすが!いまだ、全員転移石を起動しろ!」
「こんだけぶっ飛ばせば時間は充分だ!」
それを見ていたメンバーは称賛を送りながら、一斉に転移石を起動する。そして技を撃った斗真も、息を切らしながら数秒遅れて起動させる。
「はぁ...はぁ...ん?待て...」
起動の時間を待ってる間、メンバーよりも前に出ていた斗真は、何か奇妙なものを見つけたように眉を顰める。
「うまく見えないな...ドローンを上昇させよう。」
ドローンが上昇し、広角映像に切り替わる。その端、遠くの瓦礫地帯で——
複数のゴーレムが、まるで紙細工のように砕け散っていく異様な光景が映った。
その中心に立つのは一人の人影。その人物が武器をふるうたびにゴーレムは玩具のように吹き飛んでいく。
それを見た瞬間、斗真は理解した。
ゴーレムの波が引いたのは自分の技だけが理由じゃない。より危険なあの人物の排除に多数のゴーレムが向かったのも原因だったのだと。
「なんだよあれ...」
他のメンバーが転移した後、斗真は呆然とその光景を眺め、そのまま1階層へと転移をした。
「どうした斗真?やっぱりあの技はきつかったか?」
転移した先で、呆然としていた斗真に対してメンバーの一人が声をかけてくる。
「...なぁ、最後見たか?誰かが一人でゴーレムと戦っていたのを。」
「ん? 事前に把握してたPTは全員戻ってるはずだぞ」
「見間違いだろ。今の状況でソロなんて——」
それを聞き、斗真は口を紡ぐ。あの光景を言ったところできっと信じてもらえないだろう。
「どっちにしろ、今から戻るのは無理だ。戻っても俺たちがやられちまう。」
「この後一度対策を立て直すぞ。」
「いや...戻ろうとまでは思ってないけどよ。」
もし自分の見た光景が真実なら、あんな軽々とゴーレムを吹き飛ばす人間の元に駆けつけても意味はないだろう。
幸い数秒間はドローンがうつしていたはずだ。あれが本当だったのかどうか、あとで確認をすればいいだろう。そう考えた斗真はメンバーと共にダンジョン外に出ていった。
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ゴーレムの群れを突破していった先に、一つの赤黒い巨大な岩があった。
その岩は定期的に自身の体を切り離しゴーレムを作り出し、減った体の部分は内側から盛り上がり再生されていく。
「やっぱり変異体だったな。」
通常の茶色のゴーレムよりもデカく、禍々しい色。こいつが41層の異変を生み出している本体だ。
その周りには数えるにも億劫になるほどのゴーレムがいる。
「さっさと終わらせよう。長引くと面倒だ。」
体を少しずつ破壊していく手段もあるが、そうすると生み出されたゴーレムがどんどん群がって再生・妨害をしてくる。そうなるよりも、一気にコアを破壊した方がいいだろう。それ相応の危険があるが、どうにでもできる自信はある。
「さて...コアの位置は...」
スキルを『鑑定』『看破』に変更し、変異体を眺める。コアは...額の真ん中だな。
コアの位置を確認した俺は、猛スピードで走りだし変異体ゴーレムの腕に飛び乗り、そのまま駆け上がる。
「ゴオオオオオオッ」
ゴーレムは低い声を上げながら腕を駆け上がる俺を見て、様々な攻撃を仕掛けてくる。
腕から突如生えてくる岩の棘、口から飛ばす岩、目から飛び出す熱線。
俺は棘を飛んで躱し、岩をハンマーで砕き、熱線は盾で防ぎ、止まることなく駆け上がっていく。
「ゴオオオオオッ!!」
肩まで来たところでゴーレムはさらに大声を出し、進行方向に数十体のゴーレムを生み出す。
ここで立ち止まればまた様々な攻撃が飛んでくるので、このまま突き進む必要がある。
「烈衝崩壊」
繰り出すは、広範囲・高衝撃の打撃技。それにより生み出されたゴーレムは瞬く間に吹き飛ばされ、それどころか変異体ゴーレムの肩の一部もえぐり飛ばす。
俺は吹き飛んだ岩の破片を跳躍して跳びわたり、変異体の顔の真上に飛び立つ。
「ゴオオオオオオッ」
変異体は再び目から熱線を放つが、そんな攻撃でやられるわけがない。
「岩割打」
真上から額に向けて落下しながら技を繰り出す。先ほどの技と違い、範囲は狭く威力を一点に集中させた技は、熱線を打ち消しながら額のコアに向かって突き進んでいく。そして───
ガキィン!!!
と、ガラスが割れるような音が響き渡り、額とコアを壊すのみでなく、顔全体にヒビが入った。
その後数秒、変異体ゴーレムは動きが止まったかと思うと、次第に体全体を崩し粒子化していった。
「よし、終わりっと。」
地面に着地した俺は周りを見渡す。あれだけたくさんいたゴーレムも、大元がやられたことにより次々と崩れて粒子化をしていく。
後に残ったのは変異体から生み出されたわけではない、自然発生した数体のゴーレムだけだった。
その数時間後、41階層の異変が自然鎮静したという報告が流れ──
その原因は「不明」とされた。
なお、解決した本人は素材を入手しご機嫌なまま去っていった。
タイトルとあらすじを読んでくれている前提で、主人公のスキルは今はまだ詳しく説明しません。
序盤に説明ばっかりしてるとそれだけで数話使いそうなので。




