27 ダンジョン86階層と、不穏な影
ダンジョン86階層
80階層台は、以前突破した時はレベル80台だった。
なので力が足りずに過剰駆動も使用していたため、ほとんど探索はできずに駆け抜けただけだ。
だがレベルも上がり装備も強くなっている今なら探索できる。幸い中ボスの時のような嫌な感じもしないからな。
:今日はじっくり見せてくれるな
:岩の模様?文字?みたいなのなんだろ
:なんかアイテムありそう?
うす暗い森を歩き、ところどころにある遺跡の残骸のようなものをドローンに映していく。もしかしたら何かアイテムの隠し場所などのヒントが書かれているかもしれないし、学者あたりが解読してくれる可能性がある。
(これは...ポーションの素材か)
その間に俺は『鑑定』を創り、アイテムの素材となる植物を見つけていく。
レベルや装備が不足しているとどうしても戦闘スキルばかりになって、こういう鑑定スキルを創る枠もなくなってしまうからな。やはり探索にはある程度余裕が必要だ。
そうして歩いていると、中に入れそうな大きな遺跡にたどり着いた。これまでは瓦礫や残骸ばかりだったので、これだけ形が残っている建造物は初めてだ。
:建造物か!?
:そこ入口?中に入れそう?
:何かダンジョンの秘密があったりするか!?
:危なくない?やめといたほうがいいんじゃ?
入口に立ち、気配感知を広げてみる。
...少し気配は感じるが、通常の魔物だ。
少なくとも入り口付近に強力な魔物はいない。
「これを使ってみるか」
だがもしかしたら中ボスのように気配感知を無効してくる敵がいるかもしれない。
そういった魔物の奇襲を防ぐために、俺は85階層の中ボスを倒して手に入れた『深淵擬態の外套』を取り出して羽織った。
:お、例のマントか?
:透明になれるやつだ
:落ち着いて探索したいときには便利そうだな
魔力を消費するのでずっとは着けていられないが、この遺跡を探索する間くらいは多分大丈夫だろう。
最悪、魔力を回復するマナポーションを飲めばいいし。
そうして遺跡へと足を踏み入れ、どんどん進んでいく。
何か壁画のようなものや文字らしきものもあるが、さっぱりわからないのでドローンに映すだけ映しておく。ここで時間をかけていてもしょうがない。
:進むの早いな
:マントは魔力消費するって言ってたしな
:そういや技使うと魔力でバレるって言ってたけど、マントの魔力は大丈夫なの?
:魔力は外に放出するタイプと内で消費するタイプがあるんだよ
コメントがどんどん流れていくが、探索には関係なさそうな話題なのでスルーする。
そういやドローンは丸見えだから、魔物からすれば「なんだあれ?」とはなってしまうのか?
まあ俺の姿は見えていないし、攻撃されたとしてもドローンが対象だから別に大丈夫か...。
そのまま進んでいったところで、『気配感知』に反応があった。
通常の魔物よりも強い反応だ。
(...さすがに中ボスよりは数段弱い反応だけど)
そう思いながらゆっくりと進み、角から顔だけ出してその気配の場所を確認する。
そこにいたのは通常より巨大なリザードマンだった。大きさは3メートルほどだろうか。
だが、これまで見てきた同種とは明らかに違う。
槍を両手に持ち鎧を装備した姿で、まるで侵入者を待ち受けているかのように静止している。
俺の姿は見えていないはずだが、リザードマンは不意に首を巡らせ、こちらのいる方向に槍の切っ先を向けた。
気配感知に頼っているわけじゃない。空気の流れ、音、何か別の基準で探っている。
(...小ボスってところか?)
その後ろには先へと続く通路が見える。こんな魔物を配置しているんだから、奥には何かあると思うが...。
マントで通り抜けるのは無理そうだな。完全には気づかれていないみたいだが、横を抜けるのはちょっとリスクが高すぎる。普通に倒した方がよさそうだ。
:でっっか
:85階層に続いて中ボスか?
:倒すつもりか
マントを脱ぎ、剣と盾を構えてリザードマンの前に姿を現す。
リザードマンは舌をチロチロと出し、威嚇するような声を出した。
「シュルルルルッ」
その声と共にリザードマンは動き出し、走りながら口から水のカッターのようなものを吐き出してくる。
(いや、最初は槍で来ないのかよ!)
その水の攻撃を盾で防いだところで、リザードマンは槍を振り回して横なぎの攻撃をしてくる。
剣で受け止めるが遠心力の乗った横なぎは思った以上に強く、体がよろめいてしまう。
「シャアア」
その隙を見て再び口から水を吐き出してくる。体勢的に盾は間に合わないと思い、地面を転がることで回避をし距離を取る。
:あぶねええええ
:リーチ長いな
:走りながら水吐き出してくるのはビックリする
口からの水に、手に持っている槍。両方とも射程が長い。
剣は不利だと思い、杖に持ち替え電撃を放つ。しかしリザードマンは見かけによらない軽やかなステップでそれを躱す。
(...あの動きだと拘束魔法も極鋭刃も当たらなさそうだな。)
魔法を連射するか、懐に潜り込んで素早く剣で斬るか。
マントの魔力消費もあるし、魔法の使い過ぎは避けたほうがいいな。マナポーションがあるって言っても、そんな何リットルも飲みたくないし。
そう考えた俺は、再び剣に持ち替え『反射神経強化』を使い攻撃を避けながら接近する。どんな攻撃をしてくるかわかれば近づくことは容易い。
槍と水を掻い潜り近づいた俺を見て、リザードマンは驚いたように蹴りをしてくる。その蹴りを盾で防ぎ、胴体めがけて剣を突き刺す。
その突きは鎧に阻まれたが、片足を上げた状態で突きの衝撃を受けたリザードマンはフラフラと倒れそうになる。
その間に俺は剣を構えなおし、瞬迅斬で腕を斬りつける。
今度はしっかりと剣が通り、リザードマンの緑色の血が飛び散る。
そして体勢が崩れ傷でひるんでいる間に、技も使わずに連続で斬りつけていく。
槍を振り回そうとしてくるが近距離では大した威力は出ないし、近距離なら上に盾を構えていれば口からの水は防げる。
結局そのまま斬り続けて勝負はついた。
リザードマンも最後は槍を捨て拳で攻撃してきたが、さすがに拳相手にやられることはない。
しかし、終盤に水の攻撃で盾にヒビが入ったのは少し肝を冷やした。さすがは小ボス(仮)といったところか。
:なんだかんだ勝てたな
:結局槍の突きは一度もしてこなかった
:槍は振り回すことの方が多いって聞いたことあるから、ある意味正しい使い方だったのかもしれない
リザードマンが粒子化していくのを確認した俺は、剣をおさめポーションで回復し、盾も修復のオーブでなおした後に、マントを羽織り再び歩き出す。
そしてリザードマンがいた通路を抜けると、少し広い空間に出た。
そこは上から光が差し込み、土が敷き詰められていて、その土から植物が生えている。
(...庭園のようなものか?何かを育てているような場所だな。)
見るからに自然ではなく栽培しているような植物。俺は『鑑定』を使いながらその場所へと足を踏み入れた。
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「はい、じゃあ今日の探索はこれで終わりにします!」
「見てくれてありがとうね~」
ダンジョン12階層
探索者の若葉結と春野湊は、そう言ってドローンに向けて終わりの挨拶をする。
ようやく初心者探索者から初級探索者くらいにまでなった2人は、先輩──例の探索者からもらったポーションも使わずに10階層を超え、順調にこの階層まで進んでいた。
:お疲れ様~
:大体は10階層越えて勢いづいて痛い目見るのに、順調だな
:応援したくなるね
「例の探索者を見つけた」ということでほんの一瞬だけ配信に来る人が増えたこともあったが、今は数人~数十人で落ち着いている。
「いやー、これでも結構勢いづいてるよね?」
「うん、10階層主に挑んだのだって、湊の調子がよさそうだったからだし。ほんとはまだ1、2週間くらいかける予定だったもんね」
「僕の固定スキル、ギャンブル性が強いからなー。上振れた結果行けたよね。」
:そのギャンブルが見たくて来てるまである
:そのスキル羨ましい。使ってみたい
「下振れたらめちゃくちゃ使いにくいよこのスキル。僕としては安定したスキルの方が羨ましく思っちゃうな」
「勢いで突破できたけど、このまま進むと痛い目見そうよね。しばらくはこの辺でレベル上げかな~?」
「そうだね。次回はまた一つ下の11階層に潜りまーす!」
そう言って二人は1階層の転移石を起動し、その場から姿を消した。
そこから遠く離れた草むらで、2人のことを見ていた人影がいることは気づかずに...。
次回は2月19日(木)更新です




