26 ダンジョン省の苦労
本日2話目です。0時に前の話を投稿しているので、まだの人はそちらからご覧ください。
そして前話と含めてもあまり話が進みません...。展開進める上でのクッションと思っといてください。
(全く...面倒ごとばかり増えていく...)
部屋の一室で、ダンジョン省に努めている佐藤はため息をついた。
深層のソロ探索者──彼と接触し深層の情報を見せてもらえるように、そして素材を優先して売ってもらえるように交渉を成立させたところまではよかった。その功績で自分の立場も良くなったのは確かだ。
(警告したというのに、ここまで無防備とは...)
だが、配信を始めてその姿が世間に知れた後も、彼は普通に大学に行き、普通の日常生活を送っている。『あなたの素性を突き止めることができるものもいる』と警告したはずなのに、だ。
(せめてもう少し変装をするとか、あるだろうに...)
髪型を少し変えるくらいでは、素性を誤魔化すことはできない。実際、彼を特定したであろう人たちが少なからず接触を図っていた。
だが、「表立った接触は抑える」といった契約。あれはただの立場的なものではなく、もし接触してくるものがいたらこちらで対処する、といった暗黙の了解でもあった。
(そのせいで毎日人員を送らなければいけない)
それらの接触はすべてダンジョン省によって未然に防がれていた。口約束とはいえ契約なので仕方ないことではあるが、そこに割かれる人員も思った以上に必要であるし、もう少しバレないように努力してくれと愚痴を言いたくもなる。
大学に行くなとまでは言わないが、マスクやサングラス、伊達メガネをして...など、簡単にできることはやってほしい。かと言ってこちらが過剰に口を出すこともできないので難しい。
(しかもなんだ、61階層で接触って。あれは止められるはずがない。)
ただでさえ接触者を防ぐのに苦労していたと言うのに、そこに加えてダンジョン内での接触が起きてしまった。
浅層なら止めに行ける人もいたが、61階層なんてところまで止めに行ける人がいるはずがない。結果としてダンジョン省は東雲と彼との接触を許してしまった。
(本人はあまり気にしていないようだが...色々と問題だ。)
あの件に関しては、最後に手を取り合いお互い認め合った。という風な綺麗な話とされているが、佐藤としてはそうもいかない。
なにせやっていることは「目的の探索者に会おうとダンジョンの中まで追いかけた」ということなのだ。それを止められなかったのは、少なからず問題視されている。
(でも、「ダンジョンに入る目的を事前に聞くように」なんてことをしても意味がないだろうに。そんなのいくらでも嘘がつけるんだから)
そのことから、上の者たちは「対策を考えろ。例えばこんなふうに。」と言って、指示と共にいくつか例をおろしてきた。
だがどれもこれも現場を知らないチンケな提案でしかない。
(そもそも本人も言ってたが、1階層じゃなく61階層なんてところまで行くのは例外すぎる。これに関してはどうしようもなかっただろ。)
あんな深層まで行ってしまうと、素直に探索者同士が同じ階層で会った、という風にしてしまったほうがいいのではないか。
それに探索者は自由の方針があるので、入り口で声をかけることはできても、重度の犯罪でも犯していない限りダンジョンに入るのを禁止することはできない。
(探索者というものは...みんな変わり者だ。)
探索者に振り回されている佐藤としては、そう思わざるをえない。
そもそも、佐藤としてはダンジョンに潜ること自体が変人・奇人の行いだと思っている。自分では絶対に潜りたくない。
それは何も、「命を懸けた戦闘をするから」といったことではない。
(あんな謎だらけの空間に行くなんてどうかしているとしか思えない)
ダンジョンは入り口となる魔法陣を使えば入ることができるが、『その空間がどこにあるのか』『一体何なのか』というのは一切わかっていない。
そもそも正確な座標が存在しないのだ。GPSを持っていっても、位置は魔法陣から動かない。内部からの通信も、魔石を使ったものでないと反応しない。
(地下深く説、天空説、異次元説、異世界説、たくさんあるが、そのどれだとしてもダンジョンに入るのはごめんだ。)
地球の地下にある、天空の雲に隠された場所にある、異次元にある、異世界へと繋がっているなど様々言われているが、ダンジョンの中で空が見える時点で地下や天空ではないだろう。
転移石に数字が書かれているので1階層、2階層などと言われているが、その数字が何を指すのかも判明していない。
通常であれば地上からどれだけ上、もしくは下かを指す数字だろうと考えられるが、座標がないので上か下かもわからない。
(一番有力なのは、階層ごとに独自に空間が作られている説で、数字は難易度を指すというものだが...。)
ダンジョンは各階層の奥にある魔法陣を使うことで次の階層へと行ける。
その移動が「上下」ではなく「別の空間」であり、数字は難易度の高い、低いを示していると言う考えが有力である。
なので現在は、数字が高ければ難易度も高くなるので「上の階層」、数字が低くなれば難易度も低くなるので「下の階層」と言われている。
しかし「深層」「浅層」と言ってしまうと、上と下が逆になってしまうのではないかと議論されていて...
(いやいや、そんなことはどうでもいいんだ。)
思考が飛躍してきたところで、一旦頭を切り替える。今ある面倒ごとをどう対処するかだ。
(東雲は有名になりたいと言っていたから、上手く交渉すれば手札に加えられるかもしれない)
例の探索者がいるので、東雲に関しては一瞬だけ話題になってすぐに収まった。だがソロで60階層を超えている人物、というのは接触をしておくべきだ。
少々性格に難はあるかもしれないが...。
すでに他の企業が接触している可能性が高いが、条件次第ではこちらにつけることもできるだろう。もしこちらにつけば、ダンジョン内での面倒ごとをおしつける...もとい、任せることができるかもしれない。
そう考えた佐藤は動き出す準備をし、部屋から出て行った。
─────────────────────────────────────
「よーし、ほんならダンジョン潜っていこか~」
「いや、なんでいるんだ?」
東雲との手合わせを終えた2日後。傷も治ったのでダンジョンに潜ろうと入り口まで行ったところ、偶然ばったりと東雲に遭遇してしまった。いや、ほんとに偶然か?
「また待ってたのか?」
「んなわけあるかい。あんだけ怒られたのにまたすぐ同じことするわけないやろ。」
「すぐじゃなければ同じことするような言い方だな。」
手合わせを終えて戻った後、俺は少し注意をされただけだったが、東雲はどこかの部屋まで連れていかれてしっかりと怒られたらしい。
探索者は基本自由とは言え、マナーを守らなければ秩序もなくなる。あまり度がすぎると何かしらのペナルティもあり得るだろう。
「今日はほんまにたまたまや。関東ダンジョン周辺を見て回るついでに、ダンジョンにも潜ろうかなと思ってたところにあんたが来ただけや。」
「そうか...。また何か申し込まれるのかと思った。」
「その節はいきなりですまんかったの。おかげさまで納得できたから大丈夫や。」
ほんとにいきなりだったからな。いつか俺もこのことを引き合いに出して何か要求してやろう。
「まあ申し込んでええなら、一緒にダンジョン探索を申し込みたいけどな。」
東雲はそう言ってこちらを見てくる。
深層探索者を増やす、という目的を考えれば、一緒に60階層台に潜って情報を教えるという手もある。
でも今日はちょっとな...。
「今日は80階層台探索するつもりだから、一緒に行けないな。」
「なんや、さすがにそれは無理やな。」
「失礼。東雲さん、少しお話が。」
そんな風に話していると、横から職員に声をかけられた。それを聞いて東雲は焦ったように返事をする。
「ち、ちゃうちゃう!今回は待ち伏せとかちゃうて!怒られることしてへん!」
「いえ、そうではなく。別件でお話があるので少しよろしいでしょうか?」
「え~?何の話や?内容によるわ。」
東雲がそういうと、職員はちらりとこちらを見てから言葉をつづけた。
「ダンジョン省の人からです。条件が合えば東雲さんと手を組みたいとか...」
「ダンジョン省?これまたえらいところが来たもんやな」
東雲は半信半疑のようだが、ソロで60階層を突破しているならダンジョン省が動いても何ら不思議ではない。俺の時のように、情報提供をしてくれという話かもしれないな。
「行ってきたらいいんじゃないか?もしかしたらダンジョン省が公式に東雲を紹介して、有名になれるかもしれないぞ。」
「たしかに!その可能性あるな!ほんなら行ってくるわ!気を付けて探索するんやで!」
「ではこちらについてきてください。」
それを聞き東雲は嬉しそうに職員についていった。
もし東雲も同じように情報提供するのなら、深層までの道のりの舗装が大分進むかもしれないな。
俺が60階層台を説明して、東雲が実演をして、他のチームがそれを参考にする。
...というのができると思ったが、そういえば東雲もソロだからチーム向けの参考にはならないかもしれない。
「...ソロって使い勝手が悪いな」
もしかしたらダンジョン省も俺の扱いに困っている部分があるのかなと思いながら、転移石を起動しダンジョンに潜っていった。
次回は2月16日(月)更新です




