13 彩風三花 後編 配信終わりの打ち上げと噂の探索者
「今日もお疲れ様ー!かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
あれから20階層の攻略配信を済まし配信を終えた彩風三花の3人は、個室の飲食店で打ち上げを行っていた。
ダンジョン周りでは攻略情報や探索者情報の話題が出ることが多いため、自然とこのような個室のお店が多くなっている。
「んー!やっぱここのお肉は美味しいわね~!」
「だよね~。体を動かす探索者向けってことで量も多いし!」
「2人とも、お肉ばっかり。野菜も食べないと。」
ダンジョンからは資源だけでなく食料も採れる。最初は「未知の場所の食べ物は気味が悪い」と言われていたが、味もよく栄養価も高いため、今ではダンジョン周りの施設ではごく普通に食べることができる。
「今日みたところ、動きは大丈夫そう。これなら続けて上の階層いってもよさそうかな。」
「だから問題ないって言ってたのに~。階層更新でもいいよ?」
「10階層、20階層の解説をやったからには、その先の解説もやっといた方がいいと思う。キリ悪いし、毎回コメントで『解説まだですか?』とか言われそう。」
「あーありえそう~。それなら仕方ないね~」
食事が落ち着いたところで三人は今日の探索の振り返りをする。仕事外で仕事の話をするようなものだが、3人ともダンジョンは好きなので自然と配信外でもその話題になることが多い。
「20階層に藤白さんがいるのはびっくりしたわね。視聴者は知ってる人いたみたいだけど。」
「だよね~。タイミングもばっちし被ったもんね。でもいい戦いが見れたよね。」
「戦術の幅が、広がった気がする。実際使えるかはともかく、選択肢が多いに越したことはない。」
ダンジョン6階層以降は、ダンジョン産の武器でないと攻撃は通らない。それゆえに、ダンジョンで手に入るものだけで戦うという固定概念にとらわれていた。
その3人からすれば、藤白の戦いは目から鱗が落ちるようなものだった。
「20階層か...。今日改めて見てみたけど、やっぱり強敵ね。」
「今でこそなんともないけど、当時は壁だったね~」
「うちも含めて3人とも躓いていた。だからこそチームを組んだ。」
彩風三花はいつもダンジョン探索を終えた後はこのお店でお疲れ会をすることになっている。それはくしくも、今回と同じ20階層攻略を終えたところで決めたことだった。
今日は20階層を再度攻略し、さらに初突破した人を目にした。そのことで自然と当時のことを思い出す。
「それまでは時々チームを組むだけだったわね。」
「半固定、って感じ?20階層までは野良募集も結構あるもんね。」
「見かけたら優先的にチームを組みに行く、そのくらいだった。」
彩風三花は、何も最初から3人で攻略していたわけではない。ソロで潜る時もあれば、受付で募集をかけたもの同士が一緒に探索をする、野良募集というもので潜ることもあった。
しかし当時それでは突破できない壁があった。それが20階層だ。
「ソロじゃ無理、即席チームでも役割分担が上手くいかずに敗走。正直気が重かったわ。」
「そこでだよね。私たちがうまく役割分担できてるんじゃない?ってなったのは。」
「誰から言い出したんだっけ。つば姉?」
「あたしだったかな?でもたしかに相性いいなーと思ってはいたわね。」
「私が『空中歩行』で前衛を務めて、つば姉が『間合い管理』で声かけサポート、ふーちゃんが『音感知』で索敵。それにふーちゃんはその時から自由スキルは魔法系だったもんね。」
3人の固定スキルは、ちょうど噛み合っていた。特にさんぽは『空中歩行』で動き回っても、立体起動の中で敵との間合いを測るのが苦手だった。それをつばきが『間合い管理』の固定スキルで指示することにより、安定性は一気に増した。
「魔法系だったけど、だからこそ狼の群れはきつかった...。感知も正面からの戦闘では役立ちにくいし...」
「野良で後衛ばっかり集まったら、ボスには挑めないもんね~」
「その点あたしたちは、本格的に組んで連携練習して挑んだら、嘘のように順調に進んだわね。」
その時のぴったりハマった感覚が3人を固定チームへと押し上げるきっかけになり、相性のいいチームの強さというものを初めて頭ではなく実感で理解することができた。
「だから、あれをソロで突破した藤白さんにはびっくりね。」
「当時の私たちにはできなかったことだもんね。」
「ソロは決して、不可能ではない。」
今でこそ50階層越えの3人だが、それより低い階層ボスを侮ったりはしない。むしろ攻略してきたからこそ、ボスの大変さというものは身をもって知っている。
知っているからこそ、ボスにソロで挑むのは無謀と言ってもいいと思っている。
「不可能ではないけど...やっぱ怖いわよね。」
「何かあっても助けは来ないし、全部ひとりで背負う必要があるもんね...。」
脳裏に浮かぶは、56階層。ほんの少しの不手際で一人になり、孤独な戦いを強いられた記憶。
そのことを察した2人は途端に心配の声をかけた。
「歌...」
「歌ちゃん...」
それは彩風三花の三羽つばき、花歌さんぽ、風雅れんげの3人でありながら、歳の近い友達である三沢椿、花咲歌、風間蓮華の3人としての会話でもあった。
「あの大蜘蛛...音が全くしなかった。そういうスキルを持っていたのかも...」
「かもしれないわね。次に行く時はそのことを頭に入れて置く必要があるわ。」
「ふーちゃんに全部任せていたツケが来たよね...!ちゃんと私も自分で見れる範囲は索敵とかしないと!」
少し暗い雰囲気になりかけたが、なんとか場を和ませようとする。事故が重なって起きた出来事だし、もう終わったことでもある。だから3人ともできるだけ、あの事故のことは話題に出さないようにしていた。
「全部ひとりで、か...。」
「...助けてくれたあの人のこと?」
「うん...。」
「やっぱり、気になるよね。うちも気になってはいる。」
20階層をソロ撃破した藤白はすごい。では、56階層にソロで現れて中ボスを撃破したあの人は?
すごい、の一言では片づけられない、異質と言っていいだろう。
「本当にソロなら、ボスをどうやって倒しているのか。それにどこまで行ってるのか。何もわからないわね。」
「杖を使ってたけど、魔法主体ってわけでもなさそうだったし。あれは魔法使いの身のこなしじゃなかったと思う。」
「何故全く表に出てこないのかも謎。お金や名声が欲しいなら名乗り出たほうがいいのに。何が目的なのか。」
彩風三花や烈煌四雅、そのほかのチームたちも、ダンジョンに興味がある、ダンジョンが好きという想いはもちろんある。だがそれだけで探索しているわけではなく、生きていくお金のため、配信をして世間に知ってもらい名声を得るため、といった目的もある。
それらが見えてこない噂の探索者には、謎しか感じなかった。
「あの人はどこまで行って、どこまで行けるのかしらね...」
「どこまででも行けそうな感じがする。ほんの一戦見ただけだけど、それでもそう思わせられたよ。56階層の中ボス相手に余裕を保っていたし。」
「助けに来る前に通常の探索もしていただろうし。多少の疲れがあっても一人で中ボス撃破できるのを見てしまったら、たしかにどこまでも行けてしまう気はする。」
謎ばかりの探索者ではあるが、3人の共通の意見としてはこうだった。
余裕を保ったままどんどん壁を乗り越えて、自分たちよりも深い階層に潜り続けているんだろうな、と。
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そしてその頃...
「ゴホ、……ゴホっ……!」
口元を押さえた掌が、赤く染まっていく。
(油断していたつもりは...なかったんだけどな...)
掠れ行く意識の中、そんなことを考える。
ダンジョン深層、85階層。
そこに一人の探索者が、血まみれで倒れていた。
一旦毎日投稿は終了。
これからは月木更新で行く予定です。
次回は1月12日予定。
更新頻度や曜日に要望ございましたらコメントにお願いします。




