12 彩風三花 中編 20層ボスとソロ探索者 藤白
本日2話目です。前編を見てない人はそちらからお読みください。
「20階層ボスは、デカい狼とその取りまきね」
「狼の群れはボスに行くまでに何度か戦うことになると思うから経験積めるけど、そこにボスも加わると一気に難易度上がるよねー」
「ここで後衛も自衛手段が必要になってくる」
:ソロの壁って言われてるよな
:初心者の壁の10層、ソロの壁の20層だな
:ソロは経験値1人占めできるからレベルも上がりやすいけど、その分欠点も多いからなー
「数も厄介だけど、ボスが魔法で遠距離攻撃してくるのも苦戦する要因ね」
「爪の形をした風魔法だよね」
「それしか使ってこないけど、初めて魔法を使ってくる魔物だから最初は戸惑う。」
:最初は魔法って見えにくいもんな。風だし
:火魔法とかは視覚的にも見えやすいし避けられるのにな
:あれ、そういえば今20階層ってもしかして...
「さて、それじゃあボスの間に...あら?」
「誰かいるね」
「あれは...藤白さん?」
彩風三花の3人がボスの間の前まで来たところ、そこには緑髪が特徴な女性、藤白花乃がいた。
:お、藤白さんじゃん
:やっぱ同じダンジョンだったか
:相変わらず綺麗な髪色ですね
:森階層だから、少しでも敵から目立たないよう同じ緑髪にしてるんだよな。効果あるのか知らないけど
「ん?彩風三花?なんでこんなところに?」
「えーと、実はですね...」
つばきが今回20階層ボスに挑もうとしていた理由を藤白に話すと、藤白は納得した顔で頷いた。
「なるほどそういうことか。56階層のことは聞いてるよ。大変だったな花歌さん。復帰できてなによりだ」
「ありがとうございます!藤白さんは今からボスに挑むところですか?」
「ああ。申し訳ないが待っていてくれるか?今回は自信があってな。いつも以上に気合を入れてきたんだ」
「もちろんです。順番ですからね。こちらの配信に藤白さんの戦いを映してもいいですか?」
「構わないよ。私も自分で撮影するからね。あと、もし私が死にかけたら助けてくれ。そんな事態にはならないつもりだがね。」
藤白は冗談めかして笑いながらそう言い、腰にあるマジックバッグの位置を調節し、盾と短剣を持ちボスの間へと入って行った。
:かっこいいよな藤白さん
:さん付けで呼びたくなる風格があるよな
:別にコミュニケーション苦手ってわけでもないのに、何故かソロでやってるよな
「じゃあ予定変更で、藤白さんが戦ってるところを見ながら分析・解説していこうか」
「名前は知ってるけど実際戦ってるところ見たことはないかも?」
「うちも。固定スキルとか公表してるのかな。」
:おお、彩風三花が藤白さんの戦いを解説してくれるのか
:藤白さんは『回転』の固定スキル。攻撃に回転を加えると威力が上がる
:でも回転すると隙ができるから、多数を相手にするの苦戦してるんだよな
「あ、回転は聞いたことある。藤白さんのスキルだったんだ」
「重火力っぽくてロマンある。」
「自信あるってことは、何かその隙ができる対策とか考えてきたのかな?」
藤白の情報を共有しているうちに、20階層のボス戦が始まる。ボス狼が遠吠えをすると、広間の奥にある森から2匹の狼が出てきた。
「取り巻きは最初は2匹。時間とともに増えていって、最大で6匹まで同時に出てくるわね」
「倒してもまた出てくるんだよね~。全部で15匹倒せば出てこなくなるんだっけ?」
「そう。無限じゃないのが救いだけど、ボス狼もいる中で取り巻きを全部倒すのはなかなか苦労する。」
まずは様子見とばかりに、2匹の狼が藤白に向かってくる。藤白は嚙みつきや飛びつきを横移動でかわし、手首を素早くクルリと回し短剣で狼を突き刺していく。
「あの手首回しでもスキルの効果でるんだ」
「もっと体全体を回転しないといけないのかと思ってたね。」
:体を一回転させる回転斬りの方がスキル効果も高いらしいけど、狼には当たりにくいからな
:とにかく攻撃を当てなきゃ話にならんって言ってたよ
「噛みつきとかはゴブリンより攻撃範囲狭いけど、その分狼には素早さがあるわね」
「だから10階層の時よりも戦闘スピードは速くなるよねー」
「気を付けないと一気に後衛にまで迫ってきて襲われることもある。」
そのまま早さ重視の突きで狼2匹を倒したところで、藤白のいた場所を爪の風魔法が襲う。それを盾で防いだ藤白は、ボス狼へと向かっていく。
「最初の1、2分はボス狼は様子見なんだよね。」
「その間に最初の取り巻きを倒すのが理想ね。」
「様子見だからって攻撃を仕掛けると動き出して取り巻きと一緒に相手しないといけなくなる。取り巻きを最初に倒すのが定石。」
ボス狼に近づきながら短剣から剣に持ち替えた藤白は、狼が前脚の爪攻撃を仕掛けてくるタイミングに合わせて回転斬りを繰り出す。
キィン!という音がし、狼が爪をはじかれ体勢を崩す。そしてそのままもう一度回転をし、脚を斬りつけた。
「ギャウッ!」
「...鮮やかね。相当深く切り込んだ。ボス狼の攻撃範囲が狭まったわ。」
「機動力も大分落ちたんじゃない?」
「あのまま畳みかけたいけど…そうはいかない。」
れんげの言う通り、また奥の森から狼が飛び出し一直線に藤白に向かってくる。ボス狼も風魔法を放つが、それを読んでいた藤白は無理せずに後ろに下がる。
:あそこで無理しないのが大事だよな
:最初と同じ2匹だけど、今度はボス狼もしっかり連携してくるからな
「ボス狼も加わった連携では、取り巻きが探索者の動きを止めて、ボス狼が仕留めにかかる、っていうのが基本の連携ね」
「チームだと取り巻きを相手にする係とボス狼を相手にする係で分担するんだけどね。」
「ソロだと一人で両方相手しなきゃいけない。そもそも役割分担しても、取り巻き係にボス狼が突然攻撃してくることもあるし。」
「そうね。10層と同じで、自分の役割だけに集中してると痛い目を見るから、ボス戦では広い視野が必要ね。」
いつもならこの段階でじわじわと苦戦していく藤白。今回も取り巻きの攻撃をかわしているところにボス狼の爪が襲い掛かり、それを剣と盾両方を使い受け止める。回転がないため弾き飛ばせずに動きが止まったところで、取り巻きも噛みついてくる。
蹴りで一匹を蹴飛ばした藤白だが、もう一匹からの噛みつきは避けきれない。
:ぎゃーかまれた
:防具あるとはいえ痛いぞー!
:こっから消耗戦になっていくんだよなー
「...いえ、ダメージはほとんどないわね」
「前までくらってたんだよね?じゃあ防具新調したか、あるいは...」
「何かスキルを新しく取得したか。」
3人の見立て通り、新スキルでしっかりと噛みつきのダメージを減らした藤白は、噛みついた狼を連れたまま距離を取る。そしてそのまま取り巻きの一匹を剣で斬りつけた。
「ボスは脚の負傷で追撃できなかったわね」
「ボスに傷を負わせて動きを鈍らせるって戦法かー」
「10階層のボスゴブリンと比べたら防御は低め。狙い目はそこかな。」
しかしまた森から狼が2匹出てきて、取り巻きは合わせて3匹になる。一斉に藤白に向かってきたところで、彼女はマジックバッグからあるものを取り出す。
:なんだあれ?
:スピーカーに見えるけど...
:普通にスピーカーじゃね?
マジックバッグから取り出したスピーカーから大きな音が流れ出し、狼たちは一瞬動きが鈍る。
「...なるほど。連携封じね。」
「あれで封じられるの?」
「狼たち、実は鳴き声で連携してる。鳴き声に少し違いがある。スピーカーでそれを聞きとれなくしてる。」
:え、そんな方法あるのか
:そうか、武器はダンジョン産が必要だけど、別にそれ以外は地上のやつでも効果あるんだな
連携が鈍りバラバラに襲い掛かってくる狼を、藤白はここぞとばかりに回転斬りで倒していく。あっという間に取り巻きを倒し、再びボスとの一騎打ちになる。
「最初からやってればよかったんじゃないの?」
「多分、ずっと流してたら適応されて鳴き声との聞き分けもされるんじゃないかしら?」
「短時間の妨害ってことかな。」
ボスの魔法、爪、噛みつき、尻尾攻撃を対処しながら、藤白は少しずつボス狼を斬りつけていく。
:一騎打ちなら優勢だな
:相当動き研究してるな。全部見切ってる
ボスの動きが鈍ってきたところで、再び取り巻きが出てくる。噛みつかれながらもスキルで防御し、少しずつ数を減らしてはボスに傷をつけていく。
「...言った通り、また連携してきたわね」
「ほんとに聞き分けてくるんだ」
「対応してくるのが、魔物の厄介なところ」
狼たちが音に惑わされずに連携をしてきたところで、藤白は再びマジックバッグに手を入れる。
複数の玉を手に持った藤白は、それを地面に投げつけ、続けて狼たちにも投げつける。
「あれは...匂い玉、ってところかしら?」
「音の次は匂いでかく乱?」
「地上の犬とか狼と同じく鼻もきくのかな」
離れている彩風三花に影響はなかったが、ボスの間に刺激臭が広がる。いつの間にかマスクをしていた藤白は、先ほどの音の時と同じく取り巻きを一匹ずつ倒していく。
:気合入れてきたってこのことかよ!
:準備万端すぎるだろ。どれだけ対策してるんだ
:なんとしても突破してやるという気概が伝わってくる。
そして再びボスとの一騎打ち。攻撃をかわし顔に直接匂い玉を当てボスが苦しんでいるうちに、ここぞとばかりに回転斬りで首元狙う。
その瞬間、ボスの苦し紛れに放った魔法が藤白に直撃した。防御スキルが間に合わずに吹き飛ばされそうになるが、むしろその勢いを利用して回転を早める。
攻撃を食らいながらも勢いが乗った斬撃は、ボスの首に直撃する。
そしてその攻撃を食らったボスは体をふらつかせた後に倒れ、粒子化して消えていった。
それを確認した藤白は、息を荒げながらその場に座り込む。
血も流れ、回転スキルを何度も使用したことで体力も消耗している。それでも座り込んだその姿には達成感が見てとれた。
:おおおおおおおおお
:突破おめでとーーーーーー
:めちゃくちゃメタってたな
「これは...ある意味で新しい攻略法になるかもしれないわね」
「うん、この方法は知らなかったな。海外でやってたりするのかな?」
「...20階層についてそこまで調べたことないからわからない...。」
驚いた顔で藤白を見ていた3人は、祝福のためボスの間に入ろうとする。その3人を見て藤白はマスクをしたくぐもった声で叫んだ。
「まだにおいするから来ない方がいいぞーーーーー!」
「あ、わかりましたーーー!藤白さんおめでとうございまーす!」
「「おめでとうございまーす」」
その言葉に藤白は手を上げて応えると、ポーションを飲み、ドロップアイテムをマジックバッグに詰め込む。
「私は一度21階層に行ってから帰還する!待機していてくれて助かった!また会おう!」
「わかりました!お気をつけてーーーー!」
「無茶しちゃだめですよーーーー!」
そう言って藤白が魔法陣に入り姿を消したのを見送ると、ボスの間に光の粒子が集まり再びボス狼が現れた。
「さてと。今のはかなり特殊な戦い方も混ざってたから、あたしたちは従来通りの戦い方を実演・解説していこうか」
「チームで挑む人の方が多いだろうからね」
「ソロだとあそこまで対策する必要があるんだね」
:準備はするに越したことはないとはいえ、あそこまでするのは稀だよな
:あそこまでしないとソロだと苦しいってことでもある
:チームでもあれくらい対策すればもっと楽になるかもしれない
「チームだと作戦のタイミングも合わせなきゃだからねー。匂い玉とか、タイミング間違えたらメンバーも苦しむし」
「でも、準備の大切さを改めて知ることができたわね」
「助けに入る事態にならなくてよかった。」
そうして彩風三花は従来同士のチームのボス攻略を実演した。
ただ、後日話題になったのはやはり藤白のソロ攻略であった。
あまり容姿について描写していませんが、日本なので基本黒髪と思ってくれていいです。みんな藤白さんみたいな髪色しているわけではないです。
ちなみに彩風三花は背の高い順でつばき、さんぽ、れんげとなります。れんげのようなキャラは低身長と相場が決まっている。




