1 偶然の救出
初投稿です。気軽に読んでくださると嬉しいです。
ズズゥン...という音がして目の前の敵が倒れこむ。そのまま光の粒子となっていくのを確認したところで俺は剣を納め一息つく。
「ふぅ...やっぱこいつとの戦いが一番だな」
ボソリとひとり言をつぶやきドロップアイテムを回収する。ダンジョンにはたくさんの魔物がいるが、個人的にはこいつが一番戦っていて楽しい、というか戦い甲斐がある。経験値もドロップアイテムもいいし、ここ最近は週に2、3回戦ってるほどだ。
「帰るには微妙な時間だな。」
時間は夕方前。こいつと戦う前に準備運動がてら少し探索もしたが、それでも少し時間が余ってしまった。このまま帰ってもいいが、そういえば『灰紋苔』が欲しかったので、それを集めていこうかな。
時間があるからといってもう一回こいつと戦うのはさすがにしんどいし。戦っていて楽しくはあるが、集中力と体力をかなり使うからな。疲労状態だと普通に命を落としかねない。ダンジョンとはそういう場所だ。
「えーと...あった。」
マジックバッグを漁りパッと見つけた転移石を取り出す。階層は...56階層。56~59階層ならどこでも取れたはずだから、これでいいだろう。
またそのうち転移石集めもしていかないとな、ないと不便だし。
そんなことを考えながら俺は転移石を起動し、30秒後に光に包まれて56階層へと転移をした。
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「よし、こんなもんかな。...ん?」
56階層へ転移して1時間ほど経ったところ、目当ての素材も回収したのであとは適当に経験値稼ぎでもしてから帰ろうかな、と思っていると、少し離れたところに明らかに周囲と質の違う気配を感じた。
「これは...中ボスか?しかも誰か戦ってる?」
56~59階層では、ランダムに徘徊型の中ボスが出現する。今回はこの56階層に出現したのかもしれない。
それはいいのだが、この階層に人がいて戦ってるのはかなり珍しいことだ。そもそもこの階層まで来れる人間もそれほど多くないと思うんだが...。少し気になるので様子を見に行ってみるか。
「あー、これはかなりまずそう。」
気配の方向に向かっていくと、遠くの方にやはり中ボスの大蜘蛛が見えた。そしてそれに相対している一人の探索者がいるのだが...足元にはすでに糸が何重にも張り巡らされ、逃げ場は完全に塞がれていた。
気配はその探索者一人しか感じないので、助けが入ることもなくかなり絶望的な状況だろう。他の仲間はやられたのか?さすがにソロってわけじゃないだろう。俺はスキルの構成なども相まってソロだが、普通ダンジョンは複数人で潜るものだ。
「...助けるか?」
ダンジョンでは魔物と戦って死んだとしても自己責任である。一応探索者同士助け合ってくださいね~と言われてはいるが、助けたとしても逆にトラブルになる場合もあるので、ピンチになってる探索者を助けるかどうかはそれぞれの判断とされている。
今までソロで深層を潜ってばかりだったので、こういう状況に出会ったのは探索初期の頃以来だ。
見つけてしまったからにはこのまま見殺しにするのも精神衛生的によくない。正直、人が死ぬところは見たくないし、それが自分が助けないせいで死んでしまったとなれば後々ずっと心に引っ掛かるだろう。
自分も死んでしまうような相手ならともかく、俺ならあの大蜘蛛はそれほど苦戦せずに倒せるだろう。
そうして考えていると、大蜘蛛はさらに糸を出して探索者をぐるぐる巻きにしてしまった。探索者は暴れているが、あれだけ巻かれてしまうとどうしようもないだろう。
これでもう探索者の負けは決まっただろう。火の攻撃も持ってなさそうだし。
……放っておけば、確実に死ぬ。
「行くか」
マジックバッグに剣をしまい、代わりに杖を取り出す。大蜘蛛相手ならこっちのほうがいいだろう。
そのまま走って近づいていき、大蜘蛛が探索者にとどめをさそうとしたところで、俺は杖から魔法を放ち大蜘蛛に向けて放った。
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:ぽぽちゃああああん!!!
:まずいまずい
:なんで一緒に帰ってないんだよおおおおお!!
:え!?つば姉とふーちゃん帰ってるの!?ぽぽちゃん一人!?
配信ドローンから投影されるコメントを気にする暇もなく、花歌さんぽは自身に絡みついた糸を引きはがそうと必死に体を動かす。
(なんで、なんでこんなことに...!!!)
55階層を攻略し、抱き合って喜んだあと。
56階層を少し様子見したところで3人で転移石を使って帰るはずだった。
それがほんの数秒、自分だけ転移石を取り出すのが遅くなってしまった。2人の転移石が起動して帰り、自分の転移石も起動するというほんの数秒、その数秒がこの状況を生み出した。
いきなり上から音がしたと思ったら体に衝撃が走り、気づいたときには遠くに吹き飛ばされていた。吹き飛ばされたことにより転移石の起動がキャンセルされ、この大蜘蛛と対峙することになってしまった。
混乱しながらも武器を抜き応戦したが、防戦一方で苦戦しているところに糸を吐き出され体が動かなくなる。普段であれば防戦していても2人が攻撃してくれるが、今はその援護はない。
:こいつ中ボスじゃね?この前最前線組が情報公開してた気がする
:うっそだろ。普通の魔物なら1匹くらいなんとかなったかもしれないのに
:なんとかならないの!?これマジでぽぽちゃん死んじゃうよ!!
:これドローンも糸に絡まってね?全然視点が動かない
もがいているうちに、さらに糸が吐き出され体が囚われてしまう。なんとか手を動かして糸を斬ろうとするが、身動きが全く取れない。
(なんて粘着性...動かない...!?)
剣も糸に引っかかり手放してしまい、目の前に大きな生き物が近づいてくるのが見える。
:この後グロ注意です
:やめてやめてやめてもう見れない
:今から2人戻ってこれないの!?
:残念、様子見しただけだからこの階層の転移石はないんです...
(ここで...死んじゃうんだ...こんなに急に終わりって来るんだな...)
ほんの数分前まで仲間と、視聴者と笑顔で話し合っていたのに。
自由がきかなくなり、恐怖を通り越し冷静になった頭でそんなことを考える。どうせなら恐怖で痛みが麻痺していないかな、一思いにやってくれないかな、なんて考え、その巨体が目の前まで来たところで。
ゴウッ!!と、巨大な炎が目の前を通り過ぎた。
(...?火の攻撃も使うの...?でも今横から飛んできたよね...?)
突如あらわれた炎に、花歌さんぽもコメント欄も、一瞬呆けた。
:え!?何今の!?
:大蜘蛛の攻撃じゃないよな?横から飛んできたっぽいし
:ほんとに2人戻ってきたの!?
混乱する視聴者だが、ドローンの前に一人の人物が現れたことでさらに混乱は加速する。
:いやマジで誰?
:この階層にいるってことは天譚か烈煌のメンバー?
:顔がうまく見えねえ!ドローン動いて!
その男は杖を片手に上を見ていると思うと、突然その場から飛び退いた。それと同時に棘がその場所に突き刺さる。
:うお、あぶな
:大蜘蛛上に逃げてたのか
:誰でもいいからぽぽちゃん助けてあげて!!
:頼む!!!なんとかしてくれ知らない人!!!
ドローンが糸に絡まり動けないため、そこからは大蜘蛛と男が断片的にドローンに映し出される映像となった。炎や糸や棘が飛び交う場面がところどころドローンに映る。
:なんだどうなってるんだ
:これ天譚でも烈煌でもないよな
:よく見えないけど多分違う。そもそも一人っぽいし
:一人でこの階層にくるやついんの?
コメントが勢いよく流れる中、ドローンの前に大蜘蛛があらわれる。そして大蜘蛛の周りを火が覆ったかと思うと、その火を貫き、一本の火の直線が大蜘蛛へと走る。
「ギッ!?」
大蜘蛛は避けようとしたが周りも火に覆われているため、一瞬動きが鈍ってしまう。その隙に火の直線は大蜘蛛の脚に当たり焼きちぎる。
そして脚が一本ちぎれ動揺している間に、さらに火の直線が何本も大蜘蛛に襲い掛かり、他の脚もちぎれ体も焼き焦がしていく。
:おおおおおお!!!!
:脚やった!!!
:当たってる当たってる!
:すげえ魔法!!!見たことないぞこんな魔法!?
:これもしかして火で動き封じてから貫いてるのか?すげえな。
大蜘蛛は反撃で背中から棘を生み出し飛ばすが当たっている様子はなく、糸も火に焼かれてしまい相手を絡み取ることができない。
そのまま次第に形勢は男に傾いていき、大蜘蛛の動きが鈍くなったその時。火の直線が大蜘蛛の頭を貫いた。
「ギイイイイイイイイ!!!」
頭を貫かれた大蜘蛛は大声を出し体をジタバタさせた後、倒れて動かなくなり粒子となって消えていった。
:勝ったあああああああ!!!
:56階層の中ボスをソロで!?誰だよこいつ!!!
大蜘蛛が粒子化するのを確認した男は、歩いてきて配信に映る位置に立つと、腰の布から別の杖を取り出し大きな水を生み出し周りを消火する。
:炎の杖に水の杖か。装備ちゃんとしてるな。
:やっぱ見たことない顔だよな。
:女の子に火傷跡なんて残しちゃだめだからね。優しいじゃん。
いまだ呆然とする花歌さんぽに男は話しかける。
「その糸、熱を浴びると粘着性がなくなるから。もう手でちぎれるよ」
その言葉にハッとし、手足に力を込めると糸はぶちぶちと千切れていく。その間に男は転移石を取り出し、周囲を見渡す。そしてドローンと投影されたコメント欄を見つめる。
:お?コメント気づいた?
:あなたは誰ですか!
【彩風三花公式】:この度は当事務所所属の花歌さんぽを救出いただき感謝いたします。花歌さん、急いで転移石を起動して戻ってきてください。
同じくコメントを見ていた花歌さんぽは、ドローンの糸も千切ったところで急いで転移石を取り出し起動する。そして起動の間に、助けてくれたお礼と名前だけでも聞こうと顔を上げると、すでに男の姿はなかった。
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転移後、静かになったダンジョン内で俺は思わずつぶやいた。
「あのドローン、配信用ドローンってやつか...。めんどうなことにならなきゃいいけど...」




