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いのちの続きを、この地下で ~地下1,000mの大阪万博で出会った君は、アンドロイドの体で僕に微笑んだ~  作者: 春凪一
第一部

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第8話:カメさんの遠回り

「さて、と。俺たちはまず、腹ごしらえを兼ねて作戦会議といこうか」


「え、もう食事にするの?」


「そう、お寿司や」



向かった先は、西ゲート近くにあるフューチャーライフゾーンの一角、くら寿司 大阪・関西万博店。25年前の万博でも人気を博した、日本を代表する回転寿司チェーンだ。


「あのヒントは大サービスすぎたな。はっはっは」


タッチパネルを操作しながら、悟が楽しそうに笑う。


「そうだね。みんなバルト館に行っちゃったんじゃないの?」


「どうやらそうでもないらしいぞ。オフィシャルショップ巡りをする人もいるようだ」


要がレーンを流れる寿司を眺めながら言う。


「えーっ!ミャクミャクのヒントを無視してるじゃん」


「まぁ、人には色々な考え方があるからな。それもまた良し。否定すべきではない」


悟はそう言うと、にやりと笑った。


「で、我がチームはなぜここへ?」


「もちろん、万博でしか食べられない限定メニューがあるからさ」


「そんなに悠長なこと言ってていいの?……僕はサーモンカルパッチョとミートボール、あと、スモーブローにする」


「お、北欧で攻めてきたか!ええなそれ!じゃあお父さんは、ローストビーフとマラコフで。……なあ要、この共通点わかるか?」


「ヒントが少ないなぁ。海に囲まれて……ないな。難しいね。もう一声!」


「しゃあないな。じゃあ、ミクロネシアンチキン」


「……もしかして、なんちゃら連邦?」


「正解!オーストラリア連邦、スイス連邦、ミクロネシア連邦やな」


二人の会話はいつもこの調子である。遊びと学びが、ごく自然に同一線上にあるのだ。注文してからも、メニューを見ながら「この国はポテトの生産量が…」「この国の牛肉は赤身が美味しくてな…」「ちなみに、この店舗の回転レーンは135メートル。くら寿司全店で最長なんやで」などと、話題が尽きることはない。


そうこうしているうちに、注文した料理が高速レーンで目の前に到着した。


「じゃあ、いただこうか」


「うん!」


「「いただきまーす」」


父と子は、まずは腹を満たし、頭脳を活性化させることを選んだ。この一見、遠回りに見える行動が、後に大きな意味を持つことを、二人はまだ知らない。


* * *


「そういえばさ、お父さん」


限定メニューのスモーブローに舌鼓を打ちながら、ふと、要が思考の海に釣り糸を垂らすように呟いた。


「このお店の入り口の壁に、すごく大きいお寿司のオブジェがたくさん並んでいたでしょ?あの中に、いくつか特別メニューらしきものがあったんだけど、お父さんは気づいた?」


「おお、よく見ているな。さすがは私のバディー(あいぼう)だ。はっはっは」


悟は上機嫌に笑う。


「もうっ!それで、特別メニューのオブジェが何だったか覚えてる?」


「うーん、ミートボールらしきものがあったようには思うが、それ以外は記憶にないな」


「わかった。ちょっと写真を撮ってくるね」


思い立ったが吉日、とばかりに要は席を立ち、店の入り口へ小走りに向かって行った。その背中を見送りながら、悟は感慨深く目を細める。


(小さい頃は人見知りで、私の後ろに隠れてばかりいたのに……。いつの間にか、こんなに頼もしくなった)


悟は感慨深い面持ちで、タブレットから次の限定メニューを選んでいた。


ほどなくして、要が息を切らしながら戻ってきた。


「撮ってきたよ。やっぱり、飾ってあったのは、さっき僕たちが注文したり話したりしてた料理みたいだ。凄い偶然だね。えーと、ミートボールは確かにあった。お父さんの言ったとおりだ。あとは、ローストビーフと……これは、マラコフかな?」


「そうかそうか、ご苦労さん。……ふーむ、確かに。マグロやイクラ、イカにエビといった定番メニューのオブジェの中に、三つだけ、異質なものが紛れ込んでいるな」


「この料理って、どれも国と紐づいているんじゃない?」


要はタブレットで特別メニューのタブを開き、それぞれの料理の情報を確認する。


「やっぱりそうだよ!ミートボールはスウェーデン、ローストビーフはオーストラリア、マラコフは馴染みがないけど……スイスだったよね。これって、すごく怪しいよね、お父さん」


「そうだな。すべての万博限定メニューがオブジェになっているのなら理解できるが、定番のネタの中に3つだけ万博限定メニューが混ざっているのは不自然だ。つまり、このオブジェは特別な意味を持っていると考えるのが自然やな」


「あ!もしかして!」


要は地下万博のパビリオンマップをタップして開き、確認する。


「やっぱりそうだ!スウェーデン、オーストラリア、スイス!この3つの国は万博に参加してる!スウェーデンは北欧館だけど、それぞれパビリオンがあるんだ!」


「なるほどな。そういうことなら、そのパビリオンに行かない理由はない。よし、すぐ行こうか」


「うん!……でも、ちょっと待って。デザートの特別メニューを食べてから……えーっと、バナナブレッドプリンと……アホ?アホにする!」


「はっはっは!そんな悠長なことでええんか?まあ、ええか。じゃあ、お父さんもアホを食べてみよかな。アホって……しかし、すごい名前つけたな、このデザート。もちろん日本語じゃないやろうけどな(笑)」


二人は「アホ」――甘いココナッツソースの中に、もっちもちのお餅が入っている絶品のパラオ共和国のデザート――を心ゆくまで楽しんでから、3つの国のパビリオン巡りへと出発することにした。


【リアルタイム観察AI:ログ記録】


対象: 咲良要


行動: くら寿司の特別メニューを摂取。未知の食文化への探究心を確認。評価ポイント**+3**。


行動: 店内装飾の違和感からヒントを発見。冷静な観察眼と論理的思考を確認。評価ポイント**+2**。


生体反応: エンドルフィン、セロトニンの分泌を検知。脳内における支配的感情は**「楽しい」**。


結論: 対象は困難な状況下においても、楽しみながら課題解決に取り組む姿勢が見られる。評価を更新します。


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