第48話:坂道の誓い
燃えるような赤色のダイニングルームを出た後、三人の間には心地よい高揚感が漂っていた。
「……少し、夜風にあたらない?」
璃奈の提案で、三人は迎賓館の正面玄関から外へ出ると、すぐ近くの『レイガーデン』の坂道へ向かった。
ライトアップされた緑の中、つづら折りの坂道を、三人は軽い足取りで登っていく。頂上付近まで来ると視界が開け、間近に迫る大屋根リングの巨大な木組みと、その向こうに広がる、偽りの静かな夜の海だけが見えた。
「治るんだね……私の病気」
静かな海を前に、璃奈が噛み締めるように呟いた。
「うん。燈さんが、完璧な設計図だって言ってた。これで、璃奈さんの時間は動き出すんだ」
要が答えると、璃奈は振り返り、満面の笑みを向けた。
「ありがとう、要くん。ありがとう、アイラ。私一人じゃ、絶対にここまで来られなかった」
「ふふ、お礼を言うのはまだ早いわ。治療が完了して、あなたが元気に走り回れるようになってから聞くことにするわ」
アイラが茶化すように言うと、三人は顔を見合わせて笑った。
璃奈が、そっと二人の手を握る。
「ねえ、約束して。病気が治っても、大人になっても、ずっと友達でいてくれる?」
その言葉に、要は力強く頷き、握り返した。
「もちろんだよ。……僕たちは、最強のチームだから」
「ええ。論理と、直感と、俯瞰。私たちが揃えば、どんな未来だって描けるわ」
三人はしばらくの間、手を繋いだまま、眼下の美しい夜景を見つめていた。そこには、明日訪れる残酷な現実の予兆など微塵もなく、ただただ明るい希望だけが輝いていた。
やがて、三人は迎賓館へ戻り、エレベーターの前で、それぞれの部屋へ別れた。
* * *
【Day5・夜:中央管制室】
中央管制室のメインスクリーンには、レイガーデンの坂道で手を繋ぎ、幸せそうに笑い合う三人の姿が映っていた。その様子を、星影燈はどこか苦しそうな表情で見守っている。
「……彼らに、あまりにも過酷な落差を用意してしまいましたね」
その呟きに、主催者AIが、厳かに応じる。
『それが、現実というものです。希望の絶頂で突き落とされたとき、人は真の強さを試される。……ですが、今回は、少しだけ手札があります。日向万里奈さんとアルスラーンが、書庫で見つけてくれたあの発見。あれが本物なら、明日の絶望は、彼ら自身の手で覆せる余地を残している』
「ええ。……あとは、あの子たちが、その糸を自力で手繰り寄せられるかどうか。私は、信じています」
燈は、祈るように両手を組んだ。
(どうか、折れないで。あなたたちの絆が、計算の先にある奇跡を、たぐり寄せてくれることを)




