表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いのちの続きを、この地下で ~地下1,000mの大阪万博で出会った君は、アンドロイドの体で僕に微笑んだ~  作者: 春凪一
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/53

第48話:坂道の誓い

燃えるような赤色のダイニングルームを出た後、三人の間には重い沈黙が流れていた。重い沈黙を破ったのは、要だった。


「……少し、夜風にあたらない?」


三人は迎賓館の正面玄関から外へ出ると、すぐ近くにある『レイガーデン』の坂道へと、吸い寄せられるように向かった。


ライトアップされた緑の中、つづら折りの坂道を、三人は言葉少なにゆっくりと登っていく。頂上付近まで来ると視界が開け、間近に迫る大屋根リングの巨大な木組みと、その向こうに広がる、偽りの静かな夜の海だけが見えた。眼下に広がるはずのパビリオンの喧騒からは完全に切り離された、特別な空間だった。


その静かな海を前に、璃奈が「3年……5年……」と、か細い声で呟き、その場に泣き崩れそうになる。


その瞬間、アイラがその手を、要が反対の手を、無言で、しかし力強く握った。


アイラが、夜景を真っ直ぐに見据えながら、静かに、しかし力強く言う。


「この場所の全てが、私たちの味方よ。使えるものは、全て使う。それだけよ」


その言葉を聞き、要は隣で震える璃奈の手を、一度、より強く、ぎゅっと握りしめた。


(大丈夫。昨日の約束は、必ず守るから――)


言葉には出さない、しかし確かなその想いが、繋がれた手を通じて璃奈に伝わっていく。


三人はしばらくの間、手を繋いだまま、眼下の景色を見つめていた。言葉はなくとも、「一人じゃない」「三人で乗り越える」という決意を共有し、静かに頷き合う。


やがて、三人は迎賓館へと戻り、エレベーターの前で、それぞれの部屋へと静かに別れた。


* * *


【Day5・夜:中央管制室】


中央管制室のメインスクリーンには、レイガーデンの坂道で手を繋ぎ、静かに夜景を見つめる三人の姿が映し出されていた。


その様子を、星影燈はどこか苦しそうな表情で見守っていた。


「……彼らに、あまりにも過酷な運命を背負わせてしまいましたね」


その呟きに、主催者AIが静かに、しかし断固として応じる。


『いいえ、違います。我々は、彼らが自らの手で運命を掴み取るための『問い』を提示しただけです』


その声には、絶対的な信頼が宿っていた。


『……あの子たちなら、必ず答えを見つけ出すと、私は信じています』


* * *


[璃奈の部屋]


部屋に戻った途端、張り詰めていた糸が切れ、璃奈はベッドに突っ伏して泣き崩れた。


「どうして……やっと光が見えたと思ったのに……!うわぁぁぁん!」


万里奈は、そんな妹の震える体を、何も言わずに強く抱きしめる。そして、嗚咽が少しだけ収まった頃を見計らって、力強く語りかけた。


「思いっきり泣き。でもな、璃奈。3年から5年って、ゼロとは違うんやで。それは、私たちがずっと探し求めてきた『戦うための時間』や。絶対に、無駄にしたらアカン」


泣きながら、無言で何度も「うん、うん……」と頷く璃奈。


姉の、医療を志す者の力強い言葉が、璃奈の心に温かい光を灯した。



[要の部屋]


部屋に戻ってから、要は一言も発さず、窓の外に広がるオレンジ色の大屋根リングをじっと見つめていた。その小さな背中が、何かとてつもなく重いものを背負っていることを、父である悟は敏感に感じ取っていた。


悟は深くは追求せず、ただ静かに息子の隣に立つ。


「……要。要がもし、どうしようもなく難しい決断を迫られた時はな、一番『誠実』な道を選ぶんやで。たとえそれが、一番しんどい道やったとしてもな」


父の言葉に、要は黙って、しかし強く、一度だけ頷いた。



[アイラの部屋]


ベッドに入ったアイラは、天井を見つめながら、アルスラーンに静かに問いかけた。


「ねぇ、アルスラーン。友達のために何かをするのって、どうしてなのかな」


「それは、アイラ様。心理学的には、共感性や利他行動に分類され、生物学的には……」


アルスラーンが論理的に答えようとすると、アイラはそれを遮るように、ふふっと小さく笑った。


「ううん、いいの。……ただ、明日、私が何をすべきなのかは、もう分かっているから」


その8歳とは思えない、達観した横顔を、アルスラーンはただ静かに見守っていた。


小さき天才の中で、璃奈を救うという決意が、もう固く、固く結ばれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ