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いのちの続きを、この地下で ~地下1,000mの大阪万博で出会った君は、アンドロイドの体で僕に微笑んだ~  作者: 春凪一
第三部

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第45話:繋がっていく縁(えにし)

Day5の朝。


子供たちがまだ夢の中にいる頃、悟と環は二回目の地下万博散策を始めていた。


活気あるマレーシア館のレストランで、念願だった「ロティーチャナイ」と、甘〜いミルクティー、「テータレ」をテイクアウトした悟は、環と並んで歩き出す。


「レストランの中は当時もいっぱいやったからな。こうしてリングの下で食べるのが普通やってん」


大屋根リングの下に大量に設えられたベンチに腰掛けると、頭上には幾何学的に組み上げられた木材の美しい構造が広がる。悟から受け取ったロティーチャナイを、環はゆっくりと口に運んだ。


「美味しい!」


「ほんまや!……はぁ〜、美味しいなぁ」


サクサクともちもちが同居する生地と、程よくスパイシーなカレー。素直な感想が、二人の口から同時にこぼれる。


「当時は走り回るばっかりで、こんな風に座ってゆっくり何か食べるなんて、夢のまた夢やったなぁ」


悟が懐かしむように言うと、環も優しく微笑んだ。


「そやね。でも、こうして25年越しに夢が叶うなんて、すごく贅沢な気分やわ」


穏やかな時間が流れる。この贅沢な時間が、息子である要が一人で戦い、得てくれたものであることを、二人は静かに感じていた。


食後、悟は「もう一つ、25年間ずっと行ってみたかった場所があるんよ」と、環をほとんど誰も知らないエリアへと導いた。そこは、当時一部のスタッフの間でだけ噂されていた幻の休憩所、『第4案内所』だった。


「俺も環さんも忙しくて来たことはなかったけど、夏の暑い日、ここだけは別世界みたいに涼しいって、みんな言ってたんよ」


初めて足を踏み入れるその場所は、噂のとおり、静かで涼しい、秘密の空間だった。


シンプルなソファに並んで座り、二人だけの静寂を楽しむ。やがて、悟がぽつりと呟いた。


「要も、もう俺たちの知らんところで、あいつだけの『第4案内所』みたいな場所を見つけてるんやろな。親は見守るのが仕事なんやなって、今回改めて思ったわ」


環も深く頷く。


「ほんまやね。あの子、もうすっかり一人前やね」


その言葉を受け、悟は少し悪戯っぽく笑った。


「それにしても、あいつ、すっかり男の顔になっとったわ。どうやら、一緒に参加してる女の子に、ぞっこんみたいやで」


「えっ、うそっ!そうなん?」


環の目が、嬉しそうに丸くなる。


「どんな子なん?悟さんは会ったん?」


「ああ、少しだけな。銀色の髪が綺麗な、賢そうなお嬢さんやったわ。要のやつ、あの子の前やと、いつもよりちょっとだけ格好つけとんねん」


「ふふ、そうなんや。見たかったわぁ、要のその顔」


環は、まだ見ぬ少女の姿を想像し、幸せそうに目を細めた。


夕刻。


二人は、人工の夕日に照らされる大屋根リングの上を歩いていた。25年前に、悟が環に告白した場所。眼下には、宝石のように輝き始めた地下万博の夜景が広がっている。


悟が、その光の海を見下ろしながら呟いた。


「万博は無くなるって言ったけど、残ったなぁ」


環が、隣で優しく応じる。


「そやね」


二人は顔を見合わせ、同時にふふっと笑みをこぼした。


「俺たちのえにしも、このリングみたいに、ずっと繋がったままやったな」と悟が言う。


あの日、ここで始まった二人の物語。それはやがて、要という新しい『いのち』へと繋がり、そして今、その要が自分たちの手を離れて、新しいえにしを繋ごうとしている。


親として、これほど誇らしいことがあるだろうか。


二人はもう何も言わず、ただ静かに、息子の戦うこの美しい世界をいつまでも見守っていた。


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