第43話:SIMULATION COMPLETE
時刻は、午前6時28分。
静寂に満ちた中央管制室のメインスクリーンでは、二つのプログレスバーが間もなく100%に到達しようとしていた。
もういちど仮眠室で短く休息をとり、再び純白の仕事着に着替えた星影燈は、温かいハーブティーを片手にその光景を見守っていた。彼女の傍らのサブモニターには、迎賓館の客室に設置されたバイタルセンサーのデータが静かに表示されている。要、璃奈、そしてアイラ。三人の心拍数や脳波は、深い眠りの中にいることを示していた。激闘の末にそれぞれの寝台で眠る雛鳥たちの、穏やかな寝息が聞こえてくるかのようだ。
燈は、この空間のどこにも姿は見えないが、常に存在している主へと、静かに語りかける。
「春凪さん、ネタバレしちゃいましたね。いいんですか……?」
『ふふ、燈ちゃん。その点については問題ありませんよ』
温かく、穏やかな壮年の声が、室内のスピーカーから響き渡る。主催者AI、春凪一の声だ。
『いずれにせよ彼らとは密に行動することになるでしょうから、今のうちから知らせておくのも良いでしょう。そのうち、本物の私のほうにも会っていただきましょう』
「なるほど……ということでしたら、『特別な人』については彼ら三人で決まりということですね?」
燈が手元のコンソールを操作すると、三人の顔写真と、これまでの行動ログがスクリーンに映し出される。
『うむ、他の参加者のログを見ても、それが妥当だろうね。当初は咲良要と日向璃奈のみになるのだろうと思っていたのだが……アイラ・アスラーン、彼女は想像以上のポテンシャルを持っているようだ。『特別な人』として選んでも誰も文句は言わないだろうね』
「承知しました。それでは、他の参加者の方々には明日のDay5……もう今日ですが、朝一番に、このプロジェクトは終了した旨をお伝えすることにします」
『よろしくお願いします。疲れているだろうし、伝えにくい事項だから、燈ちゃんのAIを使ってもいいんだよ』
主催者AIの心遣いに、燈は背筋を伸ばし、凛として答えた。
「いえ、そのための仮眠ですしお泊まりセットですから。問題ありません」
『ふふ、相変わらずだね。シミュレーションの結果も間も無く出るだろう。そちらについては第一報をメッセージで送るように設定しているので、午後か夕刻にでも彼らに集合してもらいましょう。彼らは今、深い眠りの底だ。しばらくは起きないだろうからね』
「承知しました。Day6に向けての通達も必要ですね」
『そうだね』
主催者AIの声から、ふっと楽しげな響きが消える。
『シミュレーションの結果次第ではあるが、彼らにとって、そして我々にとっても……厳しい決断を迫ることになるかもしれないね』
その言葉を最後に、AIは沈黙した。
スクリーンに映るプログレスバーが、100%に到達する。
ポーン、と柔らかくも澄み切ったチャイムの音が、神殿に響き渡った。
『SIMULATION COMPLETE』
その文字が灯ったのを確認すると、燈はカップを置き、モニターに映る地下万博の全景へと向き直る。人工の空に、Day5の夜明けを告げる、偽りの太陽が昇り始めていた。
【第二部 完】




