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いのちの続きを、この地下で ~地下1,000mの大阪万博で出会った君は、アンドロイドの体で僕に微笑んだ~  作者: 春凪一
第二部

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第41話:三人の天才による協奏曲

しばしの沈黙の後、主催者AIがこれまでにないほど温かく、そして誇らしげな声で応える。


『……顔を上げなさい、若き探求者たちよ。君たちの覚悟、そして未来への意志、しかと受け取りました。素晴らしいプレゼンテーションでした。……燈ちゃん、彼らにアークの全てを解放してあげなさい』


その言葉に、三人の顔に、ぱっと安堵と喜びの色が広がる。


「やったわね、三人とも!」


主催者からの許可を得て、燈の表情が「親鳥」から「一流のエンジニア」へと変わった。その瞳は、子供のようにキラキラと輝いている。


「さあ、こっちへ来て!あなたたちが見つけた鍵を、この子……アークの頭脳に、一緒に教えてあげましょう!」


その声は、もう親鳥のものではない。世界最先端のプロジェクトを率いる、一流のエンジニアの輝きに満ちていた。


燈の誘導で、三人はメインコンソールへと向かう。


「まず、RNAi配列の設計シミュレーションからね。そのためには、璃奈さんの正確な遺伝子情報が不可欠です。でも、この施設には、あなたのデータは存在しないはずだけれど……」


燈の当然の疑問に、要とアイラが「どうしよう……」と息を呑む中、璃奈だけが、静かに、そして不敵に微笑んだ。


「大丈夫。……私、持ってきてるから」


璃奈は、燈に「管制室のコンソールを、少しだけ貸していただけますか?」とお願いする。燈は、何が起こるのか興味津々で、彼女に特A級のアクセス権限を与えた。


璃奈はコンソールの前に立つと、目を閉じ、深く集中する。彼女の意識は、BCI(Brain-Computer Interface)を通じて、義体の通信システムに直接リンクした。


次の瞬間、彼女の指が、ホログラムキーボードの上を、嵐のような速さで踊り始める。スクリーンには、常人には理解不能なコードの滝が、凄まじい勢いで流れ落ちていく。


「台湾の病院のサーバーには、私が緊急時用に作った、秘密の裏口バックドアがあるの。今、その扉を開けて……このアークのシステムに、リアルタイムで秘密のトンネルを掘って、二つを繋げてる」


その光景を、一流のエンジニアである燈が、信じられないものを見るような目で呆然と見つめていた。


(嘘……ありえないわ……!このアークの、春凪共和国が誇る鉄壁の量子ファイアウォールを、まるで鍵のかかっていないドアを開けるように、いとも簡単に……!)


やがて、璃奈の指の動きが止まる。

スクリーンに、転送が完了したファイル名が静かに灯った。


BLUEPRINT_FOR_TOMORROW [RINA.H]


『DATA TRANSFER COMPLETE』の無機質な文字の下で、その一行だけが、確かな生命力を持って輝いているように見えた。


璃奈は、ふぅ、と息を吐いて振り返ると、少しだけ疲れた顔で、でも、いたずらっぽく微笑んで見せた。


「お待たせしました。私の『設計図』、これで全部です。……さあ、始めましょうか」


* * *


三人の天才による、未来をこじ開けるための完璧な協奏曲が、今、始まる。


まず璃奈が、指揮者のようにタクトを振るった。専門家として、台湾から転送した自身の膨大な生体データを、アークのシステムが解析可能な形式へと瞬時に変換・整形していく。そして、数多ある遺伝子の中から、病巣の可能性が最も高いとされる領域を「捜索範囲」として限定し、シミュレーションの無駄を極限まで削ぎ落としていった。


その隣で、要は第二段階シミュレーションに必要な「完璧な神経網モデル」を探し始めていた。特A級のアクセス権限を与えられたコンソールで、アークの広大なライブラリの階層を猛スピードで潜っていく。


それは論理ではなかった。無数の選択肢の中から、最短で正解に至るための道筋が光って見える、あの感覚。ゲーマーとして培われた、第六感とでも言うべき直感が、彼に囁いていた。


――ここだ。


要の指が、一つのエリアをタップする。そこには『Harunagi_Hajime_Personal_Data』という、あまりにも特別なラベルが付けられていた。


幾層にも重なったデータの海をさらに深く潜り、やがて彼は、一つのファイルを見つけ出す。


『HH_Archetype_Neural_Network_Model_ver1.0』


星影燈が、息を呑むのが分かった。


「あっ、それは……!」


『ふふ、自由にやらせてあげなさい、燈ちゃん』


主催者AIの楽しげな声が、管制室に響く。


『あの子は、私が作ったこの庭で、最も美しい果実を見つけ出したようだ』


要は迷わなかった。戦略家として、その「完璧な果実」を治療の最終目標ゴールとして設定。現状の璃奈の神経の状態から、そのゴールに至るまでの最も効率的なルートを導き出すよう、第二段階シミュレーションの論理的な枠組みを構築する。


そして最後に、アイラが管制官として全てを掌握した。


もう限界に近い疲労の中、最後の力を振り絞るように、アイラの小さな指がコンソールの上を舞う。これから数時間に及ぶ二つの巨大なシミュレーション、その計算負荷の複雑な波を完全に予測し、アークの計算能力を100%引き出すための最適なリソース配分のタイムスケジュールを、完璧な一つのプログラムとしてあらかじめ組み上げていく。


やがて、全ての準備が整った。


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