第38話:ミッション失敗?
二人はリングを降り、要は、まだえぐえぐと泣いている璃奈の手を引いて、歩くポーズのミャクミャク像の前へと到着した。
「璃奈さん、大丈夫?作戦実行、お願いできる?」
璃奈は、要のハンカチを顔に当てたまま、無言で、しかし力強く、グッと親指を立てて見せた。
要は、その姿にニコッと笑いかけると、自身の持ち場である、寝転びポーズのミャクミャク像へと向かった。
* * *
時刻は、26時44分。
アイラも、璃奈も、要も、それぞれのミャクミャク像の背後で、目玉のついた尻尾に手を掛けている。
決行の時が、いよいよ迫る。
3、2、1、――ゼロ!
三人は、完全に同じタイミングで、それぞれの尻尾を、ぐっ、と奥へと押し込んだ。
その瞬間。
『ブウウウウーーーーッ!』
けたたましいブザー音が、静寂の地下万博に鳴り響いた。
ミャクミャクの尻尾が体内へと収納されると同時に、尻尾の周囲が巨大な落とし穴のように、ガバッと大きく開く。三人は、なすすべもなくミャクミャクの暗い体内へと吸い込まれていった。
* * *
要は、薄暗く、だだっ広い通路の真ん中に座り込んでいた。ミャクミャクの体内に吸い込まれたあとに、つるつるとした滑り台のような場所を猛スピードで滑り落ちてきたのだ。着地の衝撃で足が少し痛むが、なんとか歩けそうだ。
(みんな、同じ状況なのかな……)
方角も、目印も、何もない。ポケットからスマホを取り出すと、幸い電波は届いていた。要は、作戦会議の時に作った、三人だけのグループチャットを開く。
『要:落ちたね』
すぐに、二人から返事が来た。
『璃奈:落ちたー(泣)びっくりした!』
『アイラ:落ちたわ。アルスラーンも一緒に落ちたわよ』
『要:アルスラーンさんも一緒なんだ!それは心強い!』
『璃奈:ここって、どこなのかしら?』
『アイラ:さっきのブザーの音、知ってるわ。前に、『悪いこと』をした参加者が排除される時に聞いたのと同じだった』
『要:あちゃー、僕たち、排除されちゃったのかな?でも、モブロボは来ないし……。まだ、可能性は残されてるってことじゃないかな』
『璃奈:とりあえず、みんなで合流しない?』
『要:そうだね。位置情報を共有して、ピンを立ててくれる?』
ゲームで味方の位置を把握する時のように要は二人に依頼し、同時に自分自身もピンを立てる。ポポポン、と軽い音がして、アプリの地図上に、三つのピンが立つ。
『要:オッケー!これで簡易マップができた。まずは僕が璃奈さんのところへ向かうから、アイラはそこで待っててくれる?』
* * *
要が、少しだけ足を引き摺りながら璃奈の元へ辿り着くと、彼女が駆け寄ってきた。
「要くん、足、怪我したの?」
「うん、少し挫いただけだから大丈夫。璃奈さんは?」
「ふっふっふ。特注アンドロイドだから、怪我一つないわよ」
ついさっきまで、えぐえぐと泣いていたのが嘘のように、璃奈がドヤ顔をする。
「それは良かった(笑)。……ここに来るまでに気づいたんだけど、この地面、何か移動用の仕組みがあるみたいだ」
地下の地下。ここの地面には無数に埋め込まれた小さなヒダがあり、体重をかけるだけでその方向へ滑るように進むことができるのだ。1970年の大阪万博で話題になった「動く歩道」の、超進化版である。
「へぇぇ、便利ね!じゃあ、アイラのところへ向かいましょうか。……はい!」
璃奈は、当然というような表情で手を差し出し、要に手を繋げと促す。
「はいはい。では、行きましょう、お嬢さま」
「あはは、お嬢さまは禁止でーす」
「「あははは」」
二人は柔らかく、しかし、しっかりと手を繋ぎ、アイラの元へと移動を始めた。
* * *
「アイラ、お待たせ!」
「遅くなってごめんね。大丈夫だった?」
「ええ。アルスラーンが受け止めてくれたし、一人じゃなかったから問題ないわ」
アイラの隣には、涼しい顔をしたアルスラーンが控えている。
「お二人とも、お疲れさまです。お待ちする間に、この空間について少しだけ調査いたしました。ここは、モブロボを回送するための地下空間、および、『悪戯』をした参加者の排除用ルートとして使われているようです」
「排除用ルート……まぁ確かに、ミャクミャクの尻尾を触るのはダメだよね」
要も璃奈も、苦笑いをする。
「また、私に送信され続けている『謎解き禁止』の制御信号ですが、その発信源があちらの方向……おそらく迎賓館の地下あたりから来ているようです。つまり、中央管制室か何かがその辺りにある可能性が高い、と」
「なるほど。中央管制室なら主催者の人がいるかもしれない。そこへ行けば、僕たちが退場になるのかどうかも分かるはずだ。……まあ、どちらにせよ、命までは取られないだろうし、行ってみよう!」




