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いのちの続きを、この地下で ~地下1,000mの大阪万博で出会った君は、アンドロイドの体で僕に微笑んだ~  作者: 春凪一
第一部

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第23話:それぞれの道

[地下万博・中央管制室]


北欧館を目指すチーム、そしてバルト館で粘るチームがまだ活動を続ける夕刻。


中央管制室の静寂を破り、涼やかな電子音声のアラートが響いた。


[音声アラート:アイラ・アスラーン様の保護者、アルスラーン様が迎賓館ゲートを通過されました]


壁一面のスクリーンに映る、アイラを抱きかかえて迎賓館の廊下を歩くアルスラーンの映像を確認し、星影燈が口を開く。


「あら、アスラーン様御一行はもうお戻りのようですね。どうしましょうか。予定より少し早いですが、明日のご説明のため、保護者の皆様にはそろそろご足労願いましょうか」


主催者AIが穏やかに、しかし即座に応じる。


『ええ、そうしましょう。このタイミングでの招集は、まだ活動中のチームを分かつことになりますが、明日になればいずれそうなる運命です。前倒しで構いません』


「承知しました。それでは、保護者の皆様に30分後、一階のロビーに集合していただくよう、連絡を取ります」


明日から始まるDay3は『保護者お休みDay』。


保護者という名の「安全装置」を外し、子供たちの自立と彼らの間での直接的な交流を促す。それがこのプログラムの真の目的だった。


燈がコンソールのホログラムに触れると、一斉通報のコマンドが実行される。


その通知は、時差なく全ての保護者の端末へ。スイス館でワインを嗜む咲良悟の、そして北欧館を目指す日向万里奈のスマホにも、同じ集合合図が静かに表示された。


* * *


スイス館を後にした日向姉妹は、いよいよ最後の目的地である北欧館へと到着した。北欧館のすぐ近くには、可愛らしいミャクミャクの像が設置されており、その隣に立っていたロボットスタッフがにこやかに話しかけてくる。


「記念撮影はいかがですか?撮影したお写真は、こちらの『エキスポ新聞』に印刷してお渡しできますよ」


「わあ、面白そう!撮ってもらおうよ、万里姉ちゃん!」


二人はミャクミャクの隣でポーズを取り、ロボットに写真を撮ってもらった。すぐに印刷されて出てきたのは、名刺2枚分ほどの小さなカードだ。そこには、ミャクミャクと楽しそうに笑う自分たちの写真の下に、こんな見出しが書かれていた。


『大阪・関西万博を楽しむお客様』


「「あははは!お客様やって!」」


二人の朗らかな笑い声が、北欧館の前に響いた。


その時、万里奈のスマホの画面が点灯し、短い通知音を立てた。主催者からのメッセージだ。


「ん?……なんか主催者の人が、保護者だけ先に迎賓館に戻ってきてください、やってさ。明日の動きについて説明があるんやって」


「そうなんだ。私は大丈夫だから、万里姉ちゃんは先に戻っていいよ。今日中に、絶対にバルト館のミャクミャク人形を見つけるんだから!」


璃奈が力強く拳を握る。その決意に満ちた瞳を見て、万里奈は少しだけ心配そうに、しかし優しく頷いた。


「うーん、そう?ほんならお言葉に甘えて、先に戻っとくわ。璃奈、気をつけてな。何かあったら、すぐに連絡ちょうだいよ」


「はーい。あ、もし時間があったら、(地下)夢洲駅のSLTステーションに到着してるはずの、私の551蓬莱の豚まんを受け取っておいてくれると助かります(笑)」


「あんた、ほんまにようさん食べるなぁ(笑)。わかったわかった、任しとき!」


万里奈は妹の頭をわしゃわしゃと撫でると、一人、迎賓館へと向かっていった。


* * *


万里奈の背中が見えなくなると、璃奈は一人、北欧館へと向き直った。


スイス館ではスイーツにこだわった結果、ヒントそのものはスイーツと無関係だった。その反省を活かし、今回はレストランや売店を後回しにして、真っ直ぐパビリオンの中へ入る。日が暮れ始めており、今日中にミャクミャクを見つけたいという思いが、彼女の足を少しだけ急かしていた。


館内は落ち着いた薄暗さで満たされており、中央には不思議な形の巨大な石のオブジェが鎮座している。そして、天井からは渦巻き状に何枚ものスクリーンが吊り下げられ、北欧の雄大な自然や美しい街並みを映し出していた。


璃奈は立ち止まり、その場でくるりと一回転してヒントになりそうなものを探す。


そして、すぐに見つけた。


入り口を入ってすぐ右手、壁に設置されたSDGsの説明パネル。彼女の目がそこに釘付けになる。


『北欧各国は、地域間または国際的な取り組みを通じて、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指しています』


その宣言の下には、1番から17番までの目標がモノクロのイラストと共に並んでいた。


そして、その掲示の中でひときわ異彩を放つ、二体の小さなムーミンの人形。


一体は『北欧各国』という文字を、もう一体は『8 働きがいも経済成長も』のパネルを、それぞれ指差すように置かれていた。


「『北欧各国』と、『8』……ね」


璃奈は腕を組み、しばし思考を巡らせる。


(北欧館の参加国は、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの5カ国。デフアノス……アスノデフ……明日のdiff……フデノアス……筆の明日?駄目ね、頭文字のアナグラムではなさそう。もう一体のムーミンは『8』を指している。これは単純に数字の8と考えるのが妥当。働きがいも経済も、だったら語尾が『イモ』で韻を踏んでるから答えはイモ、なんてね。ふふっ。……数字よ。これまでのヒントが『大屋根リングの柱』と『ス』だったんだもの。次に来るのは数字しかないわ。となると、『北欧各国』は……あっ!『5カ国』!そうよ、5に決まってる。つまり、5と8ね。ということは……よし、行きましょう!)


脳内で繰り広げられた思考は、ここまでで約1秒。


天才とは、時に突拍子もないことを閃く存在だが、凡人が辿る思考の道筋を、ただ超高速で駆け抜ける存在でもある。今の璃奈が、まさにそれだった。


彼女はくるりと踵を返すと、迷いのない足取りでパビリオンを出て行った。


目指す先は――大屋根リング、その40番目の柱である。


* * *


時速10キロというカメさんペースで、要と悟を乗せた二台のパーソナルモビリティは、ようやく北欧館の前へと到着した。


悟が拘束から解放されてモビリティを降りた時、スマホの画面に未読メッセージの通知が浮かんでいることに、ようやく気がついた。


「お、主催者からや。……なになに?要、お父さんは先に迎賓館に戻らなあかんらしいわ。明日の動きについて、保護者だけ集めて説明があるんやって」


「そうなんだ。わかった、問題ないよ。僕はここで最後のヒントを確かめて、できれば今日中にミャクミャク人形を見つけてくる」


「おお、さすが我が息子、頼もしいな!よっしゃ、ほんなら後は頼んだで!気をつけてな!」


「はーい」


悟はそう言うと、再び自分のモビリティに跨った。もちろん、即座にアルコール反応を検知した機体は、彼を再び金属ベルトで完全にロックし、そのボディを赤く染める。


拘束されたままゆっくりと迎賓館へと向かう父の背中に、要はひらひらと手を振った。


一人になると、要はふっと表情を引き締める。


「さて、と。日も落ちかけているし、ここからは本気で行こうかな」


要はパビリオンの入り口で一瞬立ち止まり、中の様子を窺うと、迷いなく足を踏み入れた。天井から吊り下げられたスクリーンに一度だけ目をやり、あとは順路に沿って、決めた目標だけを探していく。


そう、数字だ。


これまでのヒントから、最後に来るのは場所を示す数字であると、要は確信していた。彼はパビリオン内のあらゆる「数」を、フィルターをかけるように識別していく。


入り口の掲示にあった『北欧5カ国』の「5」。壁際に並ぶモニターの数。天井のスクリーンの枚数。床に描かれたアートとしての足跡の数。高級そうな硬い感触のソファの席数。そして、SDGsの「17」の目標。


(うん。定数と変数が混在しているけど、ここでヒントになり得るのは定数だけだ。モニターやスクリーンは故障すれば数が変わるし、足跡や席数も同じ。変わらない数字は……『5』と『17』だ)


観察と思考を高速で回転させながら、要は順路の最後にあったSDGsの展示パネルの前へと辿り着いた。そして、そこで初めて二体の小さなムーミンの人形が置かれていることに気がつく。


一体は『北欧各国』という文字を、もう一体は『8 働きがいも経済成長も』のパネルを、それぞれ指差すように。


「……なるほど、そういうことか。北欧各国は入り口にあったのと同じ『5』。ご親切にどうも。そして、SDGsは『17』という全体ではなく『8』という個別の目標がヒントなんだな。……直接的すぎるな」


謎が、もはや謎ではなくなっている。あまりに分かりやすいヒントの示し方に、要は少しだけ不満そうな表情を浮かべた。普段から、リアル脱出ゲームを主催している会社のメールで出題される謎解きの宿題や、高IQ団体の月報で出題されている高難易度の謎解きに親しんでいる彼にとって、これは少々手応えがなさすぎた。


「あとは組み合わせだけだ。『5』と『8』。安易なものと、突飛すぎる可能性を消去法で除外すると……残るは『13』と『40』。この二つが最有力候補かな。今の時間なら、二箇所とも回れそうだ。よし、行ってみよう」


彼は可能性が同等にあると判断した二つの数字を最終ヒントとして採用すると、すぐさまパビリオンから出て、パーソナルモビリティに乗って大屋根リングの13番柱へと向かい始めた。


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