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いのちの続きを、この地下で ~地下1,000mの大阪万博で出会った君は、アンドロイドの体で僕に微笑んだ~  作者: 春凪一
第一部

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第14話:思考のシンクロ

ユーカリの花をモチーフにした、白く美しいデザインのオーストラリアパビリオン。その入り口に近づくにつれて、要は不思議な匂いがすることに気づいた。


「なんだろう?この……野趣あふれる香り……」


「動物っぽい匂いがするやろ?別に変なものを撒いてるわけとちゃうくて、ユーカリの香りに、何かをプラスアルファしてるらしいわ。そのプラスアルファが何なのかは、25年前にパビリオンのお姉さんに聞いても教えてくれへんかったけどな(笑)それにしても、当時と全く同じ匂いや。よう再現したな、ほんまに」


「へぇぇ、面白いね!僕の中のイメージでも、オーストラリアには自然がいっぱいの印象があるもん。納得だよ」


会話をしながらパビリオンの中に足を踏み入れると、そこには巨大なユーカリの森が広がっていた。そして、先ほどまでの野性的な匂いはすっと消え、清涼感のある爽やかな香りが二人を包む。


「すごい!ユーカリの木って、こんなに大きくなるんだね!」


「詳しくは知らんけど、オーストラリアのどこかの森をモデルにして作られたらしいで」


「じゃあ、この景色を実際に見られるんだね!いつか行ってみたいなあ!……あ、香りが変わった。ちょっとスッキリしたというか、スーッとする。いい香りだね」


「ああ、これはお父さんにも分かるで。ユーカリの木の匂いやな。ユーカリオイルも、こういう香りがする」


「なるほど。あ!コアラがいる!あっちのは何だろう?鳥かな?」


要が指差す先、ユーカリの木の幹に、縦型のディスプレイが滑らかに埋め込まれており、そこから愛らしいコアラがひょっこりと顔を出している。


「ディスプレイが仕込まれているんだね。……ということは、このユーカリの木、本物じゃないんだ」


「本物か作り物かはお父さんは知らんけど、なんでそう思ったん?」


悟が感心したように尋ねる。


「だって、生きている本物の木をわざわざ削って、ディスプレイを埋め込むなんて、可哀想なことは普通しないでしょ?『いのち輝く』万博なのに」


「ははは、確かにそやな。要の言う通りや」


ユーカリの森を抜けて次のエリアに進むと、そこは壁と天井の全てがディスプレイに囲まれた、巨大な映像空間だった。オーストラリアのどこまでも青い海と、南半球の満点の星空が、ゆったりとした音楽と共に映し出されていく。そのあまりの美しさに、要は映像が二周するまで、ただじっとその場に立ち尽くしていた。


「すごいね……。海も、空も、めちゃくちゃ綺麗だ……!」


たっぷりと時間を使い、オーストラリアの雄大な自然を体感した二人は、パビリオンの外に併設されたカフェへと向かった。


「くら寿司で食べたばっかりだから、さすがにお腹いっぱいだよ」


「ははは、さすがの成長期中学生でも無理か。なかなか美味しそうやけどな」


悟はそう言いながら、メニュー写真の「オージーミートパイ」と、ココナッツがまぶされた四角いケーキ「ラミントン」の間を、楽しそうに指で行き来させている。

その仕草を見て、要はクスリと笑った。


「……お父さん、ミートパイとラミントン、半分こしない?」


「!」


悟はニヤリと笑うと、待ってましたとばかりに注文カウンターへと向かっていった。


要は、パビリオンの敷地内にある大きなステージの前に設置されたテーブル席に座り、父親を待つ。


その時、大屋根リングのほうから、ひときわ目を引く二人組がパビリオンの敷地に入ってきた。美しい銀髪を長く伸ばし、澄んだ青い瞳を持つ姉妹。


(うわ……きれ……。あの人たちも参加者なんだ。どこの国の人だろう?)


自然と目で追いかけてしまう要の耳に、妹らしき少女が口ずさむ、奇妙な歌が聞こえてきた。


「ふんふんふ〜ん♪らっみ〜んと〜ん♪甘くて白くて真四角で〜♪」


歌っていた少女――日向璃奈は、カフェのメニューを覗き込むと、ぱっと顔を輝かせた。


「あった!万里姉ちゃん、ラミントンあったよ!ありがとう万博公式アプリ『Visitors』!」


「ほんまや、良かったやん!どうする?一つ買って、半分こする?」


「チッチッチッ!」


璃奈は人差し指を立てて、得意げに左右に振る。


「わかってないなあ、万里姉ちゃんは。ズバリ、ここは一人ひとつずつでしょう!」


「あんた、ほんまよう食べるなぁ。しゃあない、ほんなら二つ買ってくるわ」


姉の万里奈もどこか嬉しそうだ。食べる気満々なのだろう。二人は小走りに注文カウンターへと向かっていった。


* * *


オーストラリア館のカフェの注文カウンター。悟が注文を終えようとした時、すぐ後ろに並んでいた、銀髪の姉妹の背の高いほうが、人懐っこい笑顔で話しかけてきた。


「こんにちは〜。もしかして、参加者の保護者の方ですか〜?」


その柔らかく、心地よい関西弁のイントネーションに、悟も思わず自然に顔がほころぶ。


「はい、そうなんです。ウチの息子が金のたこ焼きを見つけましてね。参加要領を見たら、なんかえらい面白そうやから、私もついてきてしまいました。はっはっは」


「あー、そうなんですね〜!確かに『特別ななんちゃら』とか書いてあって、ちょっと変わってますよね(笑)」


万里奈はそう言うと、隣に立つ妹を悟に紹介した。


「あっ、こっちは妹です。金のたこ焼きを見つけたのは、この子なんです」


「初めまして!私は咲良悟さくらさとると言います。よろしくです」


悟が頭を下げると、璃奈もぺこりと小さくお辞儀をした。


「あ、はい!初めまして、日向璃奈ひなたりなです。こっちは姉の、日向万里奈ひなたまりなです。よろしくお願いします」


「お二人とも、日本語めっちゃ上手ですね!特に万里奈さんに至っては、めちゃくちゃナチュラルな北摂の大阪弁で……もしや、日本にルーツをお持ちなんですか?」


「はい、父が大阪出身の日本人なんです。で、母がロシア人で……私たち二人とも外見は母に似ましたね〜」


「なるほど、そういうことでしたか。いやあ、25年前の大阪万博の時も……あ、私、25年前の地上の万博でアルバイトしてたんですけどね、その時も、外見はどう見ても日本人とちゃうよね?って方でも、日本語がペラペラの方が多くて、めっちゃびっくりしたんですよ。なんか久しぶりに、あの頃を思い出しましたわ」


「(うんうんと頷きながら)ウチも、家の中では父がずっと大阪弁やったんで。その頃は台湾に住んでましたけどね。あ、璃奈は今も台湾ですけど、私は今は大学の近くで一人暮らしで」


「大阪、ロシア、台湾ですか!いやあ、なんか万博にふさわしい、国際的なご姉妹ですね〜(笑)」


「「そうですね〜(笑)」」


大阪人の中でもとりわけ『コミュ力お化けの大阪人』であるこの二人が喋り始めると、もう止まらない。悟は注文したミートパイとラミントンを受け取った後も、日向姉妹がラミントンを一つずつ受け取るまで、カウンター横でお喋りを続けていた。


三人が連れ立って、要が待つテーブルへと戻ってくる。


「要、お待たせ〜。こちら、日向万里奈さんと、日向璃奈さん。万里奈さんは大阪の大学に通ってはって、璃奈さんは台湾にお住まいで今回の参加者ご本人。お父さんが日本人でお母さんがロシア人で、お二人とも何ヶ国語も喋れるマルチリンガルで……」


「お父さん、ちょっと待って!いっぺんに喋りすぎ!まずは僕のことを紹介してよ」


思わず要がツッコミを入れる。そのやり取りを見て、璃奈も万里奈もくすくすと笑っている。


「あぁ、ごめんごめん(笑)。万里奈さん、璃奈さん、こちらが私の息子の、咲良要さくらかなめです」


「初めまして、咲良要です。……あの、父がずっと喋っていたようですが、何か失礼なことはしませんでしたでしょうか?」


要が丁寧に頭を下げると、姉妹も笑顔で会釈を返した。


「「初めまして!よろしくお願いします」」


「ええ、全く問題ありませんよ。めっちゃ面白いお父さんやね、ご心配なく(笑)」


しばしの談笑ののち、四人はそれぞれ、手にしたオーストラリアングルメに舌鼓を打つ。


「ぱくっ……もぐもぐ……!万里姉ちゃん!これ、めちゃくちゃ柔らかくて、優しい甘さで……美味し〜い!」


璃奈がラミントンを頬張り、幸せそうに声を上げる。


「そうなんや〜、どれどれ?……ぱくっ……もぐもぐ!うわっ、ほんまや!美味し〜い!ほんで、このボリュームがたまらんねぇ」


「じゃあ、お父さんはミートパイから……ぱくり!……おぉ、これは……!要、ちょっと先に食べといてくれ!」


悟はそう言うと、小走りに注文カウンターへと戻っていき、すぐに緑色の缶を手に帰ってきた。


「あれ、なにそれ?もしかしてビール?」


「そう!このミートパイには、オーストラリアのビールがベストマッチするに違いない!」


「えー、まだ先は長そうだけど、大丈夫なの?」


「当たり前やん。お父さんがいつも言うてるやろ?」


悟がにやりと笑い、要もつられて笑う。そして、二人は声を揃えた。


「「楽しんだもん勝ち!」」


カラカラと笑う父子を見て、日向姉妹も微笑んでいる。


* * *


「そう、それで凄いなぁって思って食べたんですよ、アホを(笑)」


万里奈が、くら寿司でのデザートの話をすると、四人の間にまた笑いが起こる。


楽しいお喋りをしつつ、要は食べ終えたラミントンの入っていた小さな紙製の袋を、習慣で丁寧に小さく折り畳もうとしていた。その時、袋の内側に何かイラストが印刷されていることに気づく。


(ん?なんだこれ…)


軽く袋を開いて中を覗き込むと、そこには間違いなく、意図的に描かれたであろう二つのイラストがあった。内側の右側には、会場全体をぐるりと囲む大屋根リングの全体像。そして、内側の左側には、一本の巨大な柱を地上から見上げているようなアングルのイラスト。


「……!」


要はピンときて、まだラミントンを味わっている璃奈に、少しだけ身を乗り出して声をかけた。


「あの、日向さん」


「はい、なんでしょう?」


不思議そうに首を傾げる璃奈に、要は自分の袋の内側を見せる。


「そのラミントンの袋、食べ終わったら中を見せてもらえますか?」


「え?ええ、もちろん」


璃奈は最後の一口を名残惜しそうに飲み込むと、不思議に思いながらも、言われた通りに袋を開いて中を覗き込んだ。


「あ……!ほんとうだ、同じ絵が描いてある……」


そこにはやはり、大屋根リングと、一本の柱のイラストがあった。


二人は顔を見合わせる。言葉はなくても、互いの瞳が「これって、ヒントだよね?」「間違いない」と語り合っていた。


オーストラリア館で手に入れた、最初の鍵。それは、この広大な地下万博の中で、ミャクミャクが隠されている**『場所』**を示す、重要なピースだったのだ。


* * *


オーストラリアの料理を美味しく食べ終わると、自然と会話はミャクミャクからの依頼のことに移っていた。


「つまり、通常ルートならバルト館に何回か通って、その後にくら寿司へ行って、それから3つの国のパビリオンを回ることになると思います。私たちはバルト館1回と、くら寿司のお寿司とアホだけで(笑)、それでここ、オーストラリア館ですね。ある程度、先が見えるまでは、どんどん進もうと思ってます」


璃奈が言うと、要も頷いた。


「うん、僕たちと大体同じ考えです。うちのチームが初手でくら寿司に行ったのは、偶然だったんですけど、結果的にラッキーだったってことですね。僕の想像では、この3つの国を回って得たヒントで、ミャクミャクが見つかるんだと思います」


「あ、そうですよね!私もそう思います。そして、ミャクミャクが見つかった後に、次の何か、案内ロボは『課題や依頼』って言ってたから、新しい課題か依頼が開始されるはずです」


要と璃奈、二人の天才の思考は、完全にシンクロしていた。


* * *


地下万博の会場内には、2025年の万博開催中と同じく、そのエリアと時間帯に合わせたBGMが流れている。これは、サウンドスケープ・デザインと呼ばれていたもので、会場をひとつの生態系と見立てて、音による調和を目的としていたものだ。


西の空に橙色の差し色が増えてきたころ、サウンドスケープの音量が絞られて、会場内にアナウンスが流れる。


「本日のプログラムは間もなく終了です。参加者の皆様は、大屋根リングの上部、『スカイウォーク』を通って、宿泊施設である迎賓館までお進みください。なお、安全管理上、迎賓館到着後の夜間の外出は固く禁止されております。繰り返します。本日のプログラムは……」


* * *


「じゃあ、私たちはお先に迎賓館へ行きますね。お互い、頑張りましょう!」


「はい、また」


日向姉妹は、素早く今夜の宿『迎賓館』へと出発していった。


その後ろ姿を、要は目で追う。


その時、万里奈がふいに振り返り、要に向かって腕をくの字に曲げ、にこっと笑いながらガッツポーズをして見せた。


(あ、僕に?)


驚きながらも、要が手を振って返した、その瞬間。


万里奈はくるりと前を向き、入れ替わるように、今度は璃奈が振り返った。


結果的に、要は璃奈に向かって手を振っている格好になってしまい、目が合った璃奈が少しだけ、不思議そうに首を傾げる。


「………っ」


要は、顔に熱が集まるのを感じながら、慌てて手を下ろした。


* * *


オーストラリア館を出発し、迎賓館へ行くために大屋根リングへ向かう日向姉妹。璃奈がキョロキョロと周りのパビリオンを見回しながら歩いていると、ふと、隣を歩いていたはずの万里奈の気配が消えたことに気づく。


不思議に思って振り返ると、万里奈が少し後ろで立ち止まり、カフェのあった方に向かって、腕をくの字に曲げた奇妙なポーズを取っていた。


「……万里姉ちゃん、何やってるの?」


「ん?いや、別に……。ちょっとエールを送っといた(笑)」


意味の分からない返答に、璃奈は「???」と疑問符を浮かべながら、姉が見ていた方向――さっきまでお喋りしていた咲良要くんたちがいるはずのテーブル席へと、自身も振り返った。


すると、ちょうど此方を見ていた要くんが、璃奈に向かって、はにかみながら、少しだけ手を振っているのが見えた。


「えっ?」


(……私に?)


突然のことに、璃奈は思わず、きょとん、と首を傾げることしかできなかった。


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