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第二話 変則術式

放課後、七限目。

 昼休みが終わると、五限、六限と授業は過ぎていった。

 ノートの上を走る(しゅう)の手が止まることはなかったが、意識はどこか上の空だった。


 ――昼休み、廊下で偶然すれ違った少女。

 銀の髪、紅玉(ルビー)のような瞳。その奥で確かに宿っていた光が、どうしても頭から離れなかった。


 彼は、ただ微笑まれただけだった。たった一度、目が合っただけ。

 けれど彼はその瞬間、彼女は何かを持っている、と感じた。

 それが何かまで、彼は言葉に出来なかった。ただ、あの瞳の奥に見えた「光」は自分の中のどこにもない、と、彼にはそう思えてならなかった。


 宗には目標があった。少なくとも、そのおかげで今の彼がいる。

 けれど日々を淡々とやり過ごしていくうちに、いつしか見失っていた。

 そんな彼にとって、あの光は、少しだけ眩しかった。


 六限終わりのチャイムが鳴った数分後、担任の篠崎が教室に入ってきた。

「はい、じゃあ連絡事項は掲示板にある通りな。じゃ、また明日」

 たった二言のホームルームは一分と経たずに終わり、生徒たちはそれぞれの放課後へ散っていく。

 宗はスマホを手に取り、学内連絡アプリを開いて学期初めに送られてきた個人通知を確認した。

 

 科目名:術式構成入門

 日時:火曜日7限(15:50〜16:40)

 場所:4階コンピュータ室

 

 宗はスマホを制服のポケットに入れると、立ち上がって鞄を手に取った。なんてことのない、いつも通りの一日。

 ただ、今日はほんの少しだけ、心の奥で何かがざわついていた。理由は、自分でもまだ言葉にできなかった。

 

 ***


 宗がコンピュータ室の扉を開けると、そこには誰の姿もなかった。到着が早すぎたのかと思い、彼はとりあえず教員用デスクに近い席に座った。

 しかし七限の開始時刻直前になってようやく現れたのは、担任の篠崎一人だけだった。

「よ、待たせたな」

 篠崎はなんてことのない様子で言った。宗は椅子から立ち上がると、戸惑った様子で尋ねる。

「あの……他の人は」

「いない。お前だけ」

 篠崎はさも当たり前のことかのように言った。

「普通、一人じゃ開講しませんよね……?」

「そうなんだけど、お前に限っちゃそうも言ってられんからな」

「ああ……まあ」

 宗はどこか心当たりのある様子だった。

「で、お前術式構成とか興味あったんだな」

「興味あるっていうか、まぁやってるので」

「おっ?どんなの作ってんだよ」

「見ますか?」

「おう。見る見る」

 宗は再び席に座ると、備え付けのデスクトップ型パソコンを起動するのではなく、自分の鞄からノートパソコンを取り出して画面を開いた。ソフトを立ち上げ、ファイル画面を開いて篠崎に差し出す。

「おー、SpelLab(スペルラボ)使ってんのか。本格的だな」

 篠崎は上から順に術式ファイルを開いて内容を確認していく。するとその表情はみるみるうちに驚愕としたものに変わり、そして呆れたものとなる。

「……俺、教えることほぼねぇぞ。なんでこの授業取ったんだよ」

「いや、楽かなって」

「ああ……」

 篠崎はそれ以上何も言わず、宗にノートパソコンを返した。そして何やら考え込み始める。

「いやどうしたもんかなぁ……Magi(マジ)Factory(ファクトリー)で自分の属性の基本術式作るとか、朝飯前どころか寝てても出来そうだもんな……いや?待てよ」

 篠崎は何やら閃くと、宗に問うた。

「お前、変則術式ってやったことある?」

「いや……要らないんで、ないですけど」

「あ、そっか。作れはする?」

「まあ、多分」

「おっ、じゃあちょっと待ってろ」

 篠崎はそう言うと、足早にコンピュータ室から出て行った。置いて行かれた宗が十五分ほど手持ち無沙汰に自分のノートパソコンを操作していると、再び扉を開ける音が聞こえた。

 宗がそちらの方を向くと、片腕にノートパソコンを抱えた篠崎と、両手を前にして鞄を持った一人の女子生徒の姿があった。

 銀の長髪に紅玉の瞳が印象的な、端正な顔の女子生徒。昼休みに廊下ですれ違った、あの一年生だった。

 宗は思わず目を見開き、女子生徒は目を逸らす。篠崎はそんな二人をよそに軽い調子で言った。

「お前、この子の変則術式組まないか?」

「僕が、ですか?」

「おう。お前ならできんだろ。それの出来次第で成績つける。まぁ形になってりゃいいから、あんま気負わなくていいぞ」

「はあ……でも、何のために?」

「期末の護身試験。この子、変則ないときついからな」

 篠崎はそう言って女子生徒に視線を向けた。

「ちょっと、こいつに君のデータ見せてもいいか?」

「あっ、はい……どうぞ」

 女子生徒が応じたので、篠崎は机の上のマウスとキーボードを一組ディスプレイの方にどかすと、抱えていたノートパソコンを置いて画面を開いた。そのままタッチパッドを操作して何かを表示すると、宗の方に画面を向ける。宗はそれを覗き込み、表示された情報を確認し始めた。時折タブを切り替えながら一通り目を通すと、彼は篠崎に言った。

「これ、結構大変じゃないですか?」

「おう、まあ大変だな。無理か?」

「いや……無理ではないと、思いますけど」

「じゃあそういうことで。データ送るわ……あ、月宮(つきのみや)さん、いい?」

 篠崎は思い出したように女子生徒の方を向いて確認し、彼女は首を縦に振った。篠崎はそれを確認すると、ノートパソコンを操作する。

「えーっと、共有……高校、三年一組……日下部、日下部……あった。よし、お前の学内アドレスに送っといたから、それ見てやってくれ」

「はい……」

「じゃ、俺そこにいるから。あとは二人で頑張って……あ、今日無理に組まなくてもいいから。まぁ、分かんないことあったら聞いてくれ」

 篠崎は教員用デスクの方を見てそう言うと、持ち込んだノートパソコンを開いたまま持ち上げてそちらに向かった。そしてそのまま教員用デスクにノートパソコンを置くと、椅子に腰かけて操作を始めた。備え付けられた教員用のデスクトップ型パソコンには目もくれず、事務作業に没頭し始める。その目線はパソコンの画面に釘付けで、宗たちのことなどすっかり興味をなくした様子だった。

 宗はそんな篠崎から目線を外して、自分の隣にある椅子を引いた。

「とりあえず、座りなよ」

「はい……」

 女子生徒は恐る恐る椅子に座ると、落ち着かない様子で目を泳がせていた。

「僕は日下部宗。三年。君は、月宮華奈(つきのみやかな)さんね」

「はい……一年の、月宮華奈です」

 宗はあくまで確認するように、先程見た彼女の――華奈のデータに書かれていた名前を口にした。それに応じた華奈の声は、どこか寂しげだった。

「さて、さっそく組もう……と言いたいところなんだけど。変則術式っていうのは、使う人専用のものなんだ。だから使う人に合わせて作らなきゃいけないんだけど、僕は君のことを何も知らない。だから今すぐは作れない」

「はい……篠崎先生もそう仰っていて、それで、この後面談のはずでした」

「なるほどね。まぁどっちにしろ、僕は君のことを知らなきゃいけない。データである程度君の属性とか魔力量とかは分かるけど、君がどういう風に魔法を使うとか、どういう性格なのかまでは分からない。まずはそれを知らないと。だから今日は、話して終わりかな」

「はい……」

 華奈は戸惑っていた。三年の先輩からいきなりそんなことを言われて、すぐに返せる言葉を彼女は持っていなかった。

「って言っても、そんないきなり話すことないよね」

 宗にも、困らせてしまった自覚はあった。どこか申し訳なさそうに笑ったその表情が、華奈の胸を締め付ける。

「あの……先輩って、術式作り、お得意なんですか?」

 華奈は恐る恐る尋ねた。

「得意……まぁ、得意って言うのかな。大体は、こういう魔法作りたいなって思ったら、まぁ形にできるかな」

「えっ、普通、自分の属性の初歩的な術式を作るくらいが、高校生でやることですよね」

「まぁね。僕は小学生の時からやってるから」

「なるほど……」

 そうして二人の会話は、弾んだというには言葉少なで、ぎこちないというには滑らかに進んでいった。しばらくして宗が部屋の前方の壁に掛けられた時計を見ると、針は七限の終わりに差し掛かっていた。

「そろそろ終わりだね。これ、週一じゃ無理かもな……君、昼休みって忙しい?」

「いえ、特には」

「じゃあさ、明日から一緒にお昼食べない?」

 宗の唐突な誘いに、華奈は一瞬固まった。そんな彼女をよそに、宗は続ける。

「昼休みに話そうよ。それなら、君のことを知れる気がする」

 華奈は少し考えるように宗から目を逸らしたが、すぐ彼に目線を戻して言った。

「……はい。では明日から、お昼ご飯、ご一緒させていただきます」

「ありがとう。あ、LYNK(リンク)交換しとく?」

「はい」

 二人が鞄からスマホを取り出し、連絡先を交換し終えたところでちょうどチャイムが鳴った。篠崎がようやく顔を上げ、二人に向かって言う。

「あ、もう帰っていいぞー。おつかれさん」

「はい。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 宗と華奈は篠崎に礼をすると、立ち上がってそれぞれの鞄を手に持った。コンピュータ室を出て、廊下を並んで歩く二人には、まだ鞄二つ分の距離があった。

※このエピソードには、作者が構築した世界観、構成、表現の補強にChatGPT(GPT-4o)を使用しました。

本文の一部にAIによる表現が含まれますが、本文そのものは作者が執筆したものであり、AIによって生成されたものではありません。

最終的な構成・編集・セリフ・物語の意図は、すべて作者自身の手によるものです。

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