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灰燼に帰す  作者: nukko67
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SAVE POINT 痴れ者共の夢の果て(1)

 彼が学園に入学して約2週間。


 接触する為にわざわざ、教師陣に彼のクラスを伝えなかったことから始まり、いまでは彼が魔法を覚え無いよう色々やっていた。そんな日々。


 ある日の朝。いつも通りの学園長室で、いつも通り私の前で、意味の無い事を一生懸命やっていた彼に、私は話し掛けた。


「球技大会?」


 帰ってきたのは、そんな言葉とキョトンとした顔だった。

 ああ可愛い。素が可愛いというのに、更にそんな、あざとい表情をしてしまえば、我慢できずに、食べてしまいそうだ。


「そう。その種目を決めたいから、手伝ってくれるかい?」


「構わないが、そううのって生徒がやっていいのか?」


 思えば、この2週間で距離も近くなった。

 少し前の彼なら、きっと対価を求めてきたはずだ。それが即答とは。


「……何ニヤついてるんだ。流石に引くぞ。」


「失礼だね、私は学園長だよ? ……それと、先程の質問だがそれこそ、私は学園長なんだから。」


「お前最低だな。」


 おっと、流石にそろそろ辞めたほうがいいだろう。彼に怪訝そうな顔をさせてしまった。

 ああでも、そんな表情もまた、可愛らしい。




「――と言うわけで、今年の球技大会ではドッジボールに決まった。」


 くじ引きで……


 今朝、いつものように僕が魔法の練習をしていると、突然学園長が『そういえば、1週間後に球技大会やる予定なんだよね。』とか言ってきた。

 曰く球技大会とは、球技を1種目選んで、それをクラス対抗で競うらしい。


 その種目を、成り行きで僕が種目を決める事になってしまった。

 それも、ただ学園長が用意した候補の中からくじ引きで選ぶだけだった。


 それでいいのか……


「それから、優勝したクラスには豪華特典もあるとのことだ。まあ、やるだけやってみるといい。どうせ出来ないが。」


 おい最後の。言う必要なかったろ。

 ただ豪華特典という言葉にクラスがざわついたせいか、僕以外に聞こえたやつはいなさそうだ。


 豪華特典。これも事前に学園長に聞いていた。

 内容は知らないが、学園長がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていたので、きっと碌でもないものだろう。


 しかし、それはそれで球技大会に興味は湧いていた。

 魔法を使ってもいいらしいので、色んな魔法が見れるかもしれないからだ。


 きたる球技大会に胸を躍らせていると、ケヴァから話しかけられる。


「なあ、ドッジボールってなんだ?」


「……は?」




 放課後、アムニスとケヴァと3人でグラウンドに訪れていた。


 グラウンドと体育館は普段から授業中以外は解放されていて、魔法の練習に熱心な僕や優等生達、級長達が使っている。


 そんなグラウンドの隅の方で、僕とアムニスのふたりで、ケヴァにドッジボールのルールを教えていた。

 どうやらケヴァはドッジボールの名前すら、聞いたことなかったらしい。



「ほ〜ん。要はボールを止めて、相手にぶつけりゃいいんだな!」


「まぁ、そんな感じだ。」


 これである程度基礎知識は教えられた。と思う。

 そう思っていると、アムニスが口を開く。


「あとはやってみてだな。」


「んまぁ、そうだよな。」


 どうやらアムニスも同じ考えだったようだ。


「ただなぁ……」


「そうだよなあ……」


「うーん……」


 3人で頭を捻る。

 やってみるには、1つ大きな問題があるのだ。


「3人じゃ……きついよな……」


「だよなあ…………」


 アムニスの言う通り。

 3人じゃ明らかに人数が足りない。


 3人で寄り合って考えていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


「あら。3人共、何をしてますの?」


 振り向くと、想像した通りの顔が視界に入ってくる。

 ……思ったより顔近いな……ちょっと吃驚しちゃったじゃないか。


 綺麗な金髪と碧眼に、端正な顔立ち。

 我らがFクラス級長、エフティシア・C・リバーその人であった。


「いやな、コイツがドッジボールのルール知らないらしくてな。」


 親指でケヴァを指しながら、事情を説明する。


「……そんな事ありますの?」


 いや、俺も結構驚いたけどさ。


「でもまあ、練習っていうのは悪くないですわね。」


 次の言葉で、僕はまたもやコイツに驚かされる事になる。全く今日は驚いてばかりだ、寿命が2秒は縮んだ気がする。


「私も、ご一緒しますわ!」




 次の日の放課後。グラウンドに行くと、既に3人共来ていた。


「悪いな、待たせた。」


「いやいい。ボール取ってきてくれたんだろ。」


 その通り、僕が遅れたのは学園長からボールを借りてきたからだった。

 まあそうでもなきゃ同じクラスなのに僕一人遅れるとか無いんだが。


「よし、さっさと始めようぜ!!」


 なんてケヴァが言うので、思わず言ってしまう。


「どうやってだよ。正直3人も4人も変わらんぞ。」


「………………」


 黙っちゃった。ごめんねなんか。


「それなら、私が複製魔法を使いますわ。」


「使えるのか!?」


 思わず声が大きくなってしまう。だが、他2人も目を丸くしていた。


 複製魔法。またの名を分身魔法。

 その名の通り物体を複製する魔法だ。それを生物にかけて、同じ存在を作るなんてこともできてしまう。


「一応私、得意は空間系の魔法ですのよ。」


「はへ〜。頭いいんだな。」


 空間系の魔法は、発動に必要な術式が大きいらしいので時間が掛かったり、ある程度頭が良くないといけない。

 あれ? でも空間系の魔法が得意な人ってお淑やかな人が多いって聞いたんだが。

 入学初日に圧全開で放ってくる奴が、お淑やか?


「今なんか失礼な事考えて居ませんでした?」


 ジト目で睨んでくるエフティシア。

 勘がいい子は……嫌いじゃないわ!!


「早く使って見せてくれよ。複製魔法。」


「露骨に話逸らしましたわね……まあいいでしょう。」


 そう言って片手を振り上げ、呪文を唱え始めた。


 数秒が経ち、一瞬エフティシアの姿が歪んだと思えば、次の瞬間には2人になっていた。


「「まあこんなもんですわ!」」


 同じ様なドヤ顔をする2人のエフティシア。

 2人になっても何ら変わってないようだ。


「それじゃ、俺達にもかけてくれ!!」


 端から見てもワクワクしてるとわかる声で言うケヴァ。ただ、返ってきたのは余りにも無情な現実だった。


「魔力が、限界ですわ……」


 そりゃ無いぜエフティシアさん。

 アンタほんとなんで空間系の魔法使えるんだよ。


 露骨にガッカリするケヴァ。

 コイツ今日踏んだり蹴ったりだな。



「よー! 来てやったぜ、ケヴァ!!」


 結局、クラス全員でドッジボールの練習をしていた。最初からこうしていればよかったのだ。


 最初は学校に残ってたクラスの奴らを捕まえて付き合わせただけだったのだが、いつの間にかクラス全員が協力してくれるようになっていた。


 ケヴァは元々陽キャ(あっち側)だしエフティシアは言わずもがな。僕やアムニスも、例の試験でそこそこ有名になっている。

 そのため、クラスの奴らはかなり好意的に接してくれた。


僕らに感化されたのか、他のクラスも練習をしていたのも大きいだろう。


「ん~~まあ。これなら全然何とかなりそうだな。」


 そんな事を呟きながら、空を見上げるのだった。




「「宣誓! 僕達、私達は――」」


 遂に来た球技大会。

 僕らの初戦はDクラスだ。相手はくじ引きだったらしいので、ほんと初戦でAクラスに当たらなくて良かった。

 勝ち進めばそんなの関係ないけどね!


 余談だが、今日は土曜日だ。休みが削れるこの感じはいくつになっても嫌なものである。


 やがて、AクラスとEクラスの試合が始まった。

 可哀想に。


 ドッジボールとは思えない程、決着はすぐについた。


 先制はEクラスだったのだが、通称そよ風魔法で補正が掛かったボールは、パルウァが魔法とか関係なしに片手でキャッチしてしまった。

 魔法使えよ。こっちは魔法みたいのに。


 そのままパルウァが適当に放ったボールは、空中で加速、拡大して一気に討ち取ってしまった。

 唯一残った級長も、数で押されてボコボコにされた。


 なんというか、容赦のない……


 なんて考えていると僕達の番がやってきた。


 少し先を歩くクラスメイト達の自信に満ちた背中を見て、少し安心した僕がいた。




「開始!!」


 ハゲこと柊が開始の合図をする。


 先制はこちらだ。相手であるDクラスの奴らも既に何かしら呪文を唱えているだろう。

 だから、ボールは適当に放り投げられた。


 思った通り、ある程度ボールが近づくと壁に阻まれた様に、なにもない筈の空中で弾む。恐らく薄く結界を張っていたのだろう。


 これで相手の方に返ってしまえば意味が無いので、結界は壊れた筈だ。


 すかさずアムニスが魔法で、ほぼ全員の動きを止めた。曰く精神に作用して『自分は動けない』と催眠を掛けているらしい。


 そこで、ボールが自我を持ったように加速し、当たっては弾み当たっては弾みを繰り返し次々と討ち取っていく。

 これはエフティシアの魔法らしい。


 ここまで全て計画通りだが、考えたのはエフティシアだ。あいつやべえよ。


 何の苦戦もなく、いつの間にか全員を討ち取っていた。


 なんというか、あっけなく初戦を突破してしまったので少し拍子抜けであった。

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