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灰燼に帰す  作者: nukko67
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STAGE Ⅰ―6

 入学してから、一ヶ月が過ぎた。


 学園長による講習は未だ続いているが、特にこれと言ったこともなく進んでいく。

 

強いて言うのなら、魔法を1つだけ使えるようになった事だろうか。魔法と言うには、余りにもお粗末な物だが。


 魔力感知。と言うそうだ。

 大した術式も組まず、自身の体内に存在する魔力を認識するだけ。それ以外の効果はない、無駄に魔力を消耗するだけの魔法だそうだ。


 だが、僕からすれば大きな一歩だった。




 生物の授業中。


「――であるからして、魔王の魔力によって新しい生命体が――」


 僕は窓の外を見つめながら、学園長との今朝の会話を思い出していた。


『そう言えば、君はもう班を決めたかい?』


『班?』


『知らないのかい? 駄目じゃないか、ちゃんと先生の話を――』


『いいからさっさと教えろ。』


 曰く、今度の定期試験では4人一組で学園側から与えられた試練を攻略するらしい。

 学園長が言うには、その4人は自分達で決めるとのこと。


 もうそんな時期か。

 一ヶ月。長いようで短かかった。


 定期試験が終わればクラス替えだ。ふと、感慨にふける。

 ……悪くないクラスだった。特に何があると言う訳でもないし、最底辺のクラスではあったが楽しくなかったと言えば嘘になる。


 ふと、窓の外に咲いている桜が目に付く。

 少し強く風が吹けば、今にでも花が全て散ってしまいそうな程にしか残ってない。


 あれだろうか。かの有名なこの桜が散るころにはってやつ。

 まさか自分がそんな事を考える羽目になるとは。恐るべしヴィレ・セカンド学園。


 なんてことを考えていると、先生から注意されてしまった。

 ……絶対に許さんぞ学園長! 僕の集中力を削ぎにくるなんて、教師にあるまじき行動である。



「お前、ソッチの気があったのか……いや、いいんだ。他人の趣味にとやかくいうつもりはない。」


「違うからな。」


 いやまあ確かにずっとお前の方向いてたけど、お前を見てたわけじゃないのよ。




 放課後。僕は缶コーヒー片手に、懐かしい場所を訪れていた。

 入学式の日の放課後、独りで黄昏ていた場所だ。


「……意外と、いい景色だよな。」


 学校からは少し遠いので、荒い舗装が施された片側一車線道路。小さな山を囲うようにして造られたそこのガードレールに身体を預ける。


 最近気づいたのだ、僕はこの景色が好きだと。

 山頂を背に立ってみれば、紅く染まった空と下に広がる街並み、その向こうに沈んでいく斜陽。

 鴉が3羽、鳴き交わして飛んでいく。


 なんにも考えないように、缶の中の珈琲を呑み込んだ。


「はぁ…………」


 ……僕は、冷めた珈琲は、嫌いだ。




「班ですか?」


 夜。みんな大好きポテサラをつつきながら、寮の3人に班が決まっているのか聞いてみる。


「フッ……残念だったわね。アタシら3人は一緒に行くってもう決まってるわ。」


 初ガツオの刺し身を咀嚼しながら、パルウァが答える。

 まだお口に入ってるでしょうが、お行儀悪いわよ。


「だから、一緒には行けないですね。」


 いつも通り、セティはニコニコしている。

 どうやら僕の浅い考えはお見通しのようだ。


 肩をすくめてみせる。


「そりゃ残念。もう1人は誰なんだ? 4人一組だからお前らだけじゃ足りんだろ。」


「リバーさんと一緒に行くことになりました。」


 今度はクルムが答えてくれる。


「あ。うちのクラスの級長か。」


 エフティシア・C・リバー、学年6位の優等生か。


 アイツは例の実力テストで俺をボコして1位になった連中のうちの1人だが、罪悪感があるのかあれ以降優しくしてくれているので最悪誘おうと思っていたんだが……


「まさか、取られているとは……」


「急にどうしたんですか……」


 悔し涙を流してみれば、クルムにちょっと引かれてしまった。


 コイツら誘えば丁度4人なので楽だったのだが、こうなった以上はアムニスとケヴァを誘って、最後の一人は3人で探すことにする。


 あの2人も既に決まってる、なんてことにならなければいいのだが……


 僕が思案に耽っていると、そう言えば、と話し始めるパルウァ。


「あんたが、身体強化以外の魔法使ってるとこ見たこと無いけど。他に何か使えるの用意しときなさいよ。」


「なんでだよ。」


「そりゃ、定期試験で必須だからよ。」


 言葉も出ない。正に青天の霹靂であった。




 翌朝。今日は休日だ。


 いつもなら朝食を食べてすぐ二度寝するかリビングでゴロゴロするかなのだが、今日は違った。


 昼飯代だけ3人に渡してきて、僕はひとり人気のない山の中迄やってきていた。


「まあ、ここらでいいか。」


 本来ならいつも通り、学園長のとこに行ったほうがいいのだろうが、今日は休みなので学園には誰も居ない。


 そう。僕はここに、魔法の練習をしに来ていた。


 昨日パルウァが言っていたことが事実ならば、かなり拙いことになったと言える。


 ……悩んでても仕方無いので、取り敢えず練習を始める。


 両の掌を前に向けた。目を閉じ、集中すると身体の中に血液の様に流れる魔力を感じる。


 それを火の魔力に練り上げようとするが、途中で一切魔力を感じなくなってしまった。

 まるで、パッと消えてしまったような感覚だ。


 またこれだ。

 いつも魔力を練るタイミングで、魔力を見失ってしまう。


「拙いなぁ……」


 このままではまたFクラスだ。それで他の奴らがFじゃなかったら僕は煽られまくるだろう。


 ……想像したらムカついてきた。 


 なんとしてでもFクラスは回避すると。ココロに固く誓った今日このごろであった。




 今日は土曜日、学校はお休みです。

 いつもは身体を休めてるあの人が、今日はお金だけ渡して私達を置いていってしまいました。


 ……別に、ほんのちょっと悔しいだけで、悲しくはないです。

 別になんでもない。なんでもない筈だったんですが……


「ルティ。どうしたの? お腹痛い?」


 クルムに心配されてしまいました。


「今朝パルウァさんが大暴れしましたからねぇ。やっぱり魔力足りてないんじゃないでしょうか。」


「はい……そんなとこだと思います……」


 お昼ご飯のピザも美味しくありませんでした。

 魔力の枯渇でこんな事にはならない。それは、私もよく知っています。

 でも今は、そういう事にしたいと思いました。


 早く帰ってこないかな?

 なんて思いながら、ダラダラするだけの休日なのでした。


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