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灰燼に帰す  作者: nukko67
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STAGE Ⅰ―4

 学園長の指導も終わり、もう既に疲れてしまった朝。

 僕は自分の教室で、ウトウトしながら授業を受けていた。……入学して次の日からもう授業するってヤバなくいか?


 いくらこんな学校でも実技の授業ばかりでは無いらしく、普通に座学の授業を受けていた。

 それも国語とか数学を。

 想像してみて欲しい。魔女だの軍人だのの格好仕立てる奴らが数学の授業受けてるのだ。


 ……笑うしか無いだろ…………


「お前、大丈夫かよ。見てるこっちが辛いんだが?」


 なんて考えてると隣のアムニスが話しかけてくる。


「眠い、なのに寝れない。」


 目の前に広がる光景のせいで。


「……ご愁傷さま。」


 アムニスが憐れみを込めた目線を向けてくる。

 おいやめろ、僕をそんな目で見るんじゃない。泣いちゃうだろ。


「別の話をしようぜ。……次の授業なんだ?」


「お前マジか……」


 僕を信じられないものをみたような目で見るアムニス。そうですかそうですか、どんな話題でも僕はこんな目に遭うのね。


「そりゃあ言葉どおり信じられないものを見たからね。」


「しれっと心読むのやめない?」


 思考盗聴されてるのか……今度から頭にアルミホイル巻いて学校こないと。


「言っておくけど、頭にアルミホイル巻いたって奇異の目で見られるぐらいだからな。」


「……そんなに僕ってわかりやすい?」


「うん。顔に全部書いてある。」


 衝撃の事実である。まさかこの僕がポーカーフェイス下手だったなんて……


「……話がズレたな。体育だよ、次。というか今日は残り全部体育だ。」


 ……今まだ2限目だよね? どんだけ大掛かりなことするんだよ。体育初っ端から飛ばし過ぎだろ。


「体育?」


 体育、体育だろ?

 うーんと唸ってみても、眠気に抗うのに精一杯なのでろくに思考もできない。


「ほんとに知らないのか? この学園の名物だぞ。毎年最初の体育で、戦闘の実力テストがあるんだ。」


 何その安いフィクションに出てきそうな武闘派学校。

 つか学園っつった? 中等部とかもやってんのかよ。

 まぁあの学園長が考えそうな事ではあるか。


 そこまで考えて、何とも言えない複雑な気分になる。

 ……僕ら、会って1日目だよね?

 なんというか、お互いがお互いの事理解し過ぎな気がするのだが?


「……魔法ってすげぇ……」


「どうしたの急に……」




 そんなこんなでやってきた、体育のお時間。

 僕らはグラウンドに集められて、そのまま放置されていた。


 僕達のクラスだけだと思ったが、周囲を見れば1年生全員が集まっている。


 暫く待つと、前方にめちゃくちゃゴツいハゲが出てきた。身長も2メートルは優に越えてる。

 この人が体育科の教師だろうか?

 ソイツは周りを見渡してから頷き、大声で話し始める。


「俺は柊真冬! お前らの体育科を担当することになった、宜しく頼む!」


 そのなりで日本出身かよ。

 流石の僕もびっくりである。まさかこんなクソデカハゲマッチョが同郷の人間とは……


「もう知っているだろうが、今回の授業内容をここで改めて説明する!」


 件のテストの話だろうか。どうも知らなかったバカです。


 周りの様子を確認してみるが、皆緊張した面持ちをしている。この感じだと結構重要なテストだったりするのだろうか? それとも、皆試験内容自体は知らないとか。

 その問いには、直ぐに答えが与えられた。


「今日はお前らの正面衝突での実力、言わば戦闘力を試させてもらう! 今年のテストはトーナメント方式で行う! 10分後に始めるからそれまで各自準備すること!」


 今年のテストは、か。


 こういうのって入学試験の時やったほうが良かったんじゃないか?

 つか、僕どうしよう。まだろくに魔法なんか撃てないんだけど……早速奥の手を使う羽目に?


 僕が不安にかられているとアニムスがケヴァを連れやってきた。


「何ぼーっとしてんだよ。軽くでも準備はしないと。」


「魔力練っとかねえとだな。」


 いや、あのね。その魔力練るってがまだ出来ないのよ。


 学園長曰く、魔力を練るというのはかなり魔法を使うのに重要な事らしい。


 人々は皆魔力を持って産まれる。魔法を知っていても知らなくても、それは共通らしい。

 ただその魔力はそのまま使える訳ではなく、魔力を練ることで使いたい魔法を出せるよう調整するらしい。


 例えば、火の魔法を使いたい時は、魔力を練って火の魔力にして、その魔力を使って使い魔法の術式を組む。らしい。

 術式というのは、パソコンのプログラミングコードみたいなものとのことだ。


 この練った魔力の種類によって出せる魔法が変わってくるので、それで魔法は大まかに分類されてるようだ。


 どの魔力を練りやすいかで、得意魔法とかが結構左右されるとも言っていた。


 因みに、四元素系統の魔法は練った魔力の性質が似ているので同じ系統にされているが、厳密には少し違った4種類が纏めてあるらしい。


 まあそんなこんなで、魔法を使うのなら魔力を練るのは基本中の基本なのに、それが出来ない僕には足掻きようもない。


「……どうしたもんかね。」


「なんだお前、さては戦闘中に魔力練れる口か?」


「そんな上級者じゃねえよ。」


 パルウァもそうだったが、魔力を練るのに慣れた連中は練る速度もさることながら、並行して別の事も出来るらしい。

 僕とは大違いだ。


「じゃ、トーナメントで当たらないよう祈っとくか。頑張れよ!」


「負けても笑ってやるからな。安心してボコられてこい。」


「なんで負ける前提なんだよ。」


 どうやら、少し不安なのがバレていたらしい。

 2人は去り際に手を振っていった。……ほんと、当たらないよう願うばかりである。




 人は、10分あれば何が出来るだろうか。

 大抵の人間は、カップラーメン3つ作れるというだろう。

 ぇ……僕だけ?


 何を隠そう、僕は10分間何も出来なかった。

 そう、何も出来なかったのだ。断じて何もしなかったわけじゃないし、ましてや余裕な訳が無い。


 だというのに、柊は僕に言ったのだ。


『余裕そうだな、そこのお前。お前最初の試合な。』


 僕は声を大にして言いたい、ふざけんなと。



 そうして始まった最初の試合。

 相手はC組の級長。

 絶対仕込みやがったあのハゲ。教師としてあるまじき行いである。

 そのハゲは少し顔をニヤつかせながら、審判として僕らの間に立っている。


「距離は10m、俺が勝敗を告げた時点で戦闘を止めなければ反則負けだ! 勿論殺しは無し!」


 喉が渇いた。冷や汗が頬を伝うのを感じる。

 自分より強い者には、潔く殺されるしかない。弱肉強食は食物連鎖の基本だ。

 ……ゴクリと、生唾を飲み込む。


 対戦相手と、視線が交差する。

 緊張している僕と違い、相手は余裕そうだ。恐らく、なんで僕が相手なのかを知っているのだろう。


 ………………癪だな。

 ここは魔法学校だ。何が起こっても魔法で言い訳が通る。

 たとえ、無名の生徒が学年3位に勝ったとしても。


 ハゲが両者の顔を見て、丁度3秒。

 上に伸ばした手を勢いよく振り下ろす。


「はじめッ!!」


 瞬きする間も無かった。

 記念すべき第一戦、見逃す奴は居ない。全員がみているのに、誰一人として見えた者は居なかった。

 少なくとも僕は、一切視線を感じなかった。


「チェック。」


 音速を優に超えた事により生まれたソニックブームと衝撃波は、事前に貼られた結界によって観客へ被害を及ぼす事はない。

 ……観客には。


 嵐の様な光景の中、高らかに宣言した。


「……僕の勝ちだ。」




 対戦相手は急ぎ医務室へ運ばれていった。

 あとに残ったのは罅の入った薄緑色の結界と、たった一歩踏み込んだだけとは思えない程に、大きく抉れた地面。


 僕がやったのは簡単だ。

 一歩踏み込んで、前に跳んだ。それだけ。


 相手が受けたのは、結界に罅を入れる程とはいえただの衝撃波。そんなのて重傷を負うほど弱いのが悪い。それに、見た限りでは致命傷は無かった筈だ。

 文句は言わせない。


 これが、僕の奥の手。

 怖がられる事に怯えた僕が、両親の前ですら見せてこなかった、生まれ持った力。

 原因不明の身体能力。


 かなり遅れて、歓声が響く。正に拍手喝采。

 僕は、その中心に立っていた。




「恥ッッッず……」


 なんて言って顔を真っ赤にしながら、ソイツは帰ってきた。


「お疲れ。……っていう前に、俺等に聞かせてもらおうか。アレは何なのか。」


 ジトっと、睨みつける。

 アレとは、ついさっきこいつが見せたなにかについてだ。


「……ただの身体強化の魔法だ。」


 身体強化の魔法。辻褄は合う、が余りにも出力が高過ぎる。さっきのは、今まで記録された中でも頭どころか、人の体3つ分は突き抜けた出力だ。


 余りにも、異様。それに尽きる。


「無理するなよ。身体強化の魔法って、やり過ぎると魔力回路ぶっ壊れるから。」


「はは……マジ?」


 当の本人は困った様に笑っている。


 嘘は……見えない。と言っても魔法は使ってないのでわからないが。

 流石に今魔法を使う程バカではない。


「……はぁ。」


「人の顔見てため息つくなよ。失礼だぞ。」


「それだけの事をしたんだよ。お前は。」


 ほんと何をやっているのやら。


「……この後絶対、面倒なことになるぞ。」


 ソイツのアイオライトの様な目を見つめて、再びため息をつくのだった。

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