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灰燼に帰す  作者: nukko67
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STAGE Ⅰ―3

「ッ!! ………っぶね。」


 結構な速度で飛んできたそれを回避した。後ろでガシャンと音がした。

 ……今飛んで来た陶器、見覚えがある。

 恐る恐る後ろを振り向くと、さっきの陶器――僕の荷物が壊れていた。


「ッ〜〜〜〜〜!!!」


 声にならない声が漏れる。

 おいどうしてくれんだ、これ30万したんだぞ。

 ……まぁいいか。僕が買ったわけじゃないし。


 それよりこれを投げてきた奴だ。

 前を向くと、恐らく同居人であろう3人がいた。

 見るからにイライラしてる奴にそれを止めてる奴、その様子をニコニコ見守ってる奴と三者三様だ。

 悲しきかな、全員女子であった。


 全くこの部屋割決めた奴は男心というのを分かっていないな。

 ハーレムなんて喜ばれるのはアニメや漫画の中だけで、現実でこんなことになれば地獄でしかない。

 実際こうなっているのだから。


 イライラしてる奴が、恐らく僕の荷物が入っているであろう段ボールを荒らしている。

 こいつが陶器をぶん投げたのか?

 肩に手を置いて声を掛ける。


「おい――」


「……ァア?」


 怖ッ、めっちゃ凄んでくるじゃん。

 振り向いたソイツは、立ち上がって睨みつけてくる。

 だがこの程度で屈する僕ではないのだ。


「それ、僕の荷物なんだが。荒らさないでくれ。」


「るっせー! 寝てろや!!」


 そう言って人差し指を向けてくる。

 次の瞬間には既に、僕の意識は落ちていた。




 パチリ、と。

 目が覚めたようだ。直前の記憶もちゃんとある、と思う。


 ここは、寝室だろうか。

 部屋には二段ベッドが2つあり、僕はその上側に寝ていた。


 ……魔法というのを初めて体験したが、ありゃあ凄いな。一切抵抗出来なかった。


 ……さて、と。


「……そろそろツッコんでいいか?」


 右隣をみて、言い放つ。


「なんでお前、ここにいんの?」


 僕の目線の先には、艶のある真っ黒な髪と端正な顔立ちに、金の刺繍が施された黒色のドレスの女性。

 ……僕の事を眠らせた張本人が、丁度添い寝のような形で横にいた。


「おい、起きろ。頼むから起きて状況を説明してくれ。」


 肩を揺すってみるが、一切反応はない。

 なんてことはなく普通に起きた。ほんとに寝てたのかこいつ。スッと起きたけど。


「ああ、お目覚めになりましたか?」


「???」


 先程とはまるで違う態度に困惑してしまう。

 一体全体どうしたんだコイツ。


 暫く黙っていると、僕が困惑しているのを察したのか、説明し始めた。


「ああ、ごめんなさい。今の私はさっきまでの私じゃなくて――」


多重人格的な事だろうか?


「ええっと、ええっとですね……いつもは、さっきまでの私なんですが、今みたいにイレギュラーがあると、こっち私が出てきたり……みたいな?」


「イレギュラー?」


「はい。今回の場合は、この子がちょっと魔力を使いすぎちゃって。」


「ん~成程?」


 取り敢えず言っておいたが、魔法についての知識が足りなさ過ぎるせいで何言ってるのか分からない。

 なんだよ魔力って。


 やっぱり前提知識ぐらいはさっさと叩き込まなければ。


「ん? お前が俺の隣で寝てたのは?」


「……えへへ、ベッドまで運んだはいいんですけど、そこで眠くなっちゃって。」


 なんというか、色々と心配な奴である。


「私がルティ・セクトゥル、この子がパルウァ・ペクタスと言います。どうぞ、宜しくお願いします。」


 そう言って柔和な笑みを向けてくるルティ。

 立ち上がって、行儀よくお辞儀してくる。


「ああ、宜しく。」


 他の奴らはわからんが、コイツとはいい関係を築けそうだと。

 少し安心した今日この頃であった。




 翌朝。同室の誰よりも早く起床して顔を洗った後、台所へ向かう。遅くまで例の辞典を読んでいたので眠かったりする。


 昨日あの後、ルティ以外とも顔を合わせた。

 パルウァを止めていたのがクルム・ゼノ、ニコニコ見守ってる奴がセティ・H・メイズだそうだ。


 自己紹介と家事の役割分担などを決めて、皆すぐ寝てしまった。

 当然ルティのままだったので、パルウァとはまだ会えていない。


 そして、僕がわざわざあいつらより早く起きたのはその役割分担のせいだった。

 ルティは余り顔を出さないし、他の奴らは揃いも揃って料理が出来ないらしいので、基本僕がやる羽目になってしまった。


 昨日夜中に、わざわざ1階にあるコンビニまで行って買ってきた食材を取り出す。

 食物アレルギーとかは無いらしいので安心だが、好みは分からないので取り敢えず買ってきた朝ご飯の定番達だ。



 ウィンナーを焼いていると、クルムが起きてきた。

 起きたばかりなのか、寝巻姿のままで目も半開きだ。フワフワとした声で話すクルム。


「うーん、いい匂いですね~。」


「……食いたいなら、顔洗って着替えてこい。」


「は〜い。」


 返事して、そのまま寝室に戻っていくクルム。

 あれ、間接的に僕の作る飯なんか要らないって言われてる?



 珈琲を淹れてると、今度はパルウァが起きてきた。

 やっぱり寝起きのようだが、こっちは別に眠そうではなかった。


「おはよう。」


「……」


 挨拶ぐらい返せよ。え、何。昨日のことまだ根に持ってんの? そらそうか、あの後結局会えず仕舞いだったし。

 そう思ったら段々顰めっ面に見えてきた。



「ああ、おはよう。」


 鈍っ!

 ごめんね顰めっ面とか言って。

 ……言ってはないか……



 眠そうでこそないが、頭は働いてないパルウァを尻目にトーストを焼いていると、寝室から叫び声が聞こえた。


 瞬時に警戒態勢を取る。

 パルウァもそれを聞いて立ち上がった。


 急いで半裸のクルムがセティに押し倒されていた。咄嗟に顔を逸らした。

 僕は空気が読めるいい男なのだ。


 ……君達出会ってまだ1日目だよね? そりゃあ同じ部屋で寝てるから多少仲良くなるのは早いと思うが、だとしても絶対色々すっ飛ばしてるだろ。


「……仲いいのは結構だが、僕がいる場で乳繰り合うなよ。」


「フフ、そんなに恥ずかしがらなくても……混ぜてあげましょうか?」


「おいやめろ、シャレにならん。」


 焦げたトーストの匂いがする……

 こうして、騒がしい日常が始まっていくのだった。




 朝、パルウァ達よりも早くに家を出た僕は学園長に会っていた。


「それで、予習はちゃんとしてきたね?」


「大変だったぞ、お陰で寝不足だ。」


 例の辞典を取り出しながら言う。


「特に魔法史とか言うクソみたいなとこだ。誰も興味ねえよそんなもん。つか僕の知ってる常識が全部ぶっ飛んだんだが。」


 なんて言うと、突然笑い出す学園長。


「……いきなり笑い出すとかお前、普通に引かれるぞ。」


「い、いやぁ済まない。そうだったそうだった、君はそういう男だった。」


 上擦った声でそう漏らす学園長。

 僕の何を知ってそんな事言っているのやら。


 魔法史。読んで字のごとく、魔法の歴史だ。

 

 その昔、魔法は世界中で扱われているものだった。神から与えられた不思議な力。人々はその力を使い、発展し、進み続けた。


 ある時、日本が1人の存在によって壊滅する。突然の出来事だし、何より誰も予想だにしなかった。それをしたのが生後2ヶ月の赤ん坊であったのだから。


 原因は、その絶大なる魔力の暴走。発展の為の力で大きな国が崩壊した事は、人々にとっての汚点であり直ぐに世界中が団結し、朽ちた日本ごとソレに総攻撃を行った。

 結果、制御できない魔力により多大な被害が出たが、一方的に屠ることで殺害には至らなかったものの封印には成功する。


 日本も、各国に存在した生き残りが集まり復興する。この時から、危険な魔法は忌み嫌われるようになり歴史から抹消され、秘匿された存在となってしまう。


 これが200年前の戦争の真実。


「今更こんなもの読まされてもな。」


「まあそれ、結構嘘が混ざってるけどね。」


「はぁ!!??」


 ふざけんな。

 クソどうでもいい話を2時間かけて読んだ僕の努力はどうなるのだ。


「お前マジ殺すぞ。」


「ヘタレな君がそんな事出来ると思わないな〜」


 煽る様に言い放つ学園長。

 ……何故僕がヘタレなの知ってるんだ?


「……早く魔法を教えろ。」


「せっかちな男は嫌われるよ。」


 そう言って、引き出しから何かを取り出す学園長。

 革の表紙にDiaryの文字。それを僕の前にかざしている。


「……それを使って自分で覚えろと?」


「そんな理由無いだろう。他人の日記を貸すほど屑になった覚えはないよ。」


 自分のじゃないのかよ……


「……まあ最初に覚えるべきは四元素系統の魔法かな。」


 言いながら日記をしまう学園長。

 え? なんでそれ出したの?


「君は、四元素説を知ってるかい?」


 四元素説。

 錬金術師がいた時代、世界は火、水、風、土で出来てると信じられてた。ってやつか。


「ああ、よかった。知ってる時の顔だ。説明は面倒だからね、話が早くて助かるよ。」


「その四元素を操れる的な魔法か?」


「ご明察。やっぱりありがちな方が、皆はイメージしやすいみたいで。魔法はイメージが重要だからね。」


 コイツさらっと重要なこと言わなかったか?

 成程、魔法はイメージが重要と。


「まぁ、如何にもなやつだな。」


「扱いやすく、極めればかなり強い。シンプル、故に強い。」


 ここまで典型的だと使い勝手はかなり良さそうだな。

 どんな道具も使い勝手重視の僕大歓喜。


「……君の場合は、別の魔法のほうが得意そうだけど。」


「……さっきから思ってたが、あんたは僕の何を知ってるんだよ。」


「ん~~色々? 君がこの学園に来ることになった理由とか。」


「嘘吐くならもっとマシなの吐けよ……」


 つい昨日知ったばかりの奴に、僕自身も知らない事知られてるとか恐怖でしかない。……コイツならワンチャン知ってそうだな。


 そんなこんなで、朝から学園長による指導が始まるのだった。

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