STAGE Ⅰ―2
あいつに案内されてやってきたのはFクラス、落ちこぼれのクラスだった。
このクラスの教師は酷いものだったが、自由時間があるのは嬉しい。
さてどうしたものかと周りを見渡せば、隣でスンってしてる奴がいる。
白銀の長く綺麗な髪に、多少幼いが随分と整った顔立ちの男。
そんなのがボッチやってるものだから、面白くなってつい話しかけてしまう。
「なあ、お前もボッチの類か?」
多少心配していたが、初日から友達が3人もできるなんて僕も成長したものだ。
名前は最初に話しかけてきたアムニスと、アムニスと雑談してると混ざってきたケヴァだ。
3人で談笑していると、教壇に1人の生徒が登ってきた。
襟足辺りで纏められた長い金髪に碧眼の少女。そしてなにより、右胸につけた金色の足跡を模したバッジ。
「なあ、あの娘。」
「……ああ。」
どうやら2人も気づいたらしい。
「お◯ぱいが大きい!!」
「ああ!」
違ったわ。
馬鹿みたいな発言の為に、小声で叫ぶという妙技を披露したケヴァと、それに強く頷くアムニス。
ここは、僕がしっかりと教えてやらねば。
「おい馬鹿共、それより重要な事があるだろ。」
「……なんだと?」
「……よく見てみろ。」
僕に言われ、まじまじと見つめる2人。
「「…………はっ!?」」
「気づいたみたいだな。……あの御御足に!」
やってしまった。
仕方ないだろう、僕の中に眠る芸人魂が騒いでしまったのだ。
我ながらコッテコテで見え透いたボケではあったが。
他の奴らは気づいたのか、教室が騒がしくなる。
「それとあの娘、級長だな。」
「なんだよ、ちゃんと気づいてるじゃねえか。」
「え?」
アムニスはちゃんと気づいていて、ただの僕のお節介だったらしい。
まあこんなの気づかないわけないよな。気づかない奴なんて相当の馬鹿ぐらいだろう。
あの右胸のバッジは、各クラスの級長に与えられる証だ。
級長って言い方古いって友人から聞いたが、それは置いておくこととする。
級長こそ、クラス分けの際の例外。
級長は成績1位から6位迄から選ばれ、1位はAクラス、2位はBクラス、3位はCクラス、といった具合に役職を与えられる。
Fクラスの級長なので6位ということになるか。
圧倒的不憫枠である。
Fクラスの生徒が落ち着いて来た辺りで、うちの級長が口を開いた。
「はじめまして、皆様。私はこのクラスの級長を務めさせて頂くエフティシア・C・リバーと申します。」
ゴリゴリの貴族だった。
この世界の公用語は、世界統一後に日本語を元に新しく作られている。名前は漢字かひらがなの場合は性・名でそうでない場合は逆になるよう作られている。
そして貴族にのみ、性と名の間にアルファベットを一つ入れる事が許されていて、家格が高い程その文字がAに近づくシステムになっている。
つまり、このエフティシアとやらは貴族なのだ。
しかもCとなると殆ど居ないやばいところである。
喧嘩売らないよう気をつけよ。
「じゃああいつと結婚すれば玉の輿じゃん。」
なんて馬鹿なこと抜かすのはケヴァだ。
マジで変なこと言わないでほしい。貴族なんて構うだけ面倒なのだから。
「今回は、先ずは挨拶をと思い。皆様、宜しくお願い致しますわ。」
教室中が静まり返る。そりゃそうだ。
なんてったってめちゃくちゃ圧かけて言ってくるんだもん。
怖えよ。
放課後。
僕は学園長に呼び出され、学園長室を訪れていた。
廊下にノックの音が響く。
すると直ぐに、中からどうぞと声が聞こえた。
扉を開くと、西日の入る窓を背に、大きな椅子に座る学園長の姿がある。
木造の机が一つと学園長用の大きな椅子、壁には書類でいっぱいの本棚。典型的な学園長室だ。
西日が眩しいのか、はたまた別の理由か、思わず目を細める。
僕よりもより白に近い髪が、光を反射する。
僕を射貫く鋭い眼光が、崩れないその笑みが、何より強者にのみ許されたその余裕と自信が、学園長よりも大きなその椅子を小さいと思わせる。
「……何のようだ?」
不機嫌を装って返答する。
「おっと、忙しかったい? そこに頭を垂れて、希うのであれば単刀直入に話してあげよう。」
「帰る。」
「ただの冗談じゃないか、気を悪くしないでおくれよ。」
お前の癖に僕を巻き込むな。
目で話せと促す。
油断のならない相手だ。あんなふざけた偽名を名乗るには、それだけの実力が必要だ。
屈服しない、扱いづらい存在として認識させる必要がある。
「まあいいか。……君、自分の荷物ぐらい自分で運びなよ。君達の部屋に君の荷物だけなかったからわざわざ魔法で取ってくる羽目になったよ。」
……ん~~? な〜にを言ってるんだコイツは?
一旦落ち着け僕。まずコイツは僕の部屋とか言ってたな。僕の荷物は既に新我が家にある。
つまりはコイツの言う部屋はまた別のものというわけだ。
コイツが管理できる部屋となると、十中八九寮やら何やらだろう。
それで、コイツは僕の荷物を持ってきたと言ったな。色々ツッコみたいところはあるが一旦置いといて、僕の荷物を入れる場所となるとそりゃもう僕の部屋しかないだろう。
あの両親、まさか知らなかったな? 知ってたら新しく新居なんか買わないもんなふざけんな。
ついさっき油断ならないと断じたばかりの奴の前で、眉間に手を置いてしまう。
「ああ、僕が悪かった。よかったら僕の部屋の場所を教えてくれないか。」
「構わないが。君は私に場所をきいてばかりだな。」
全くもってその通りでございます。
取り敢えずあの2人は殴ることとした。
「話はそれで終わりか? なら僕からもきいておきたいことがある。」
「……言ってご覧?」
軽く息を吸って、吐く。
意を決して言葉を発した。
「……魔法って、なんだ?」
呆れたような顔をする学園長。
だって仕方ないだろ! 皆当然の様に話すから聞くに聞けなかったんだよ。
取り敢えず今日は皆に合わせていたが、いつまでもそれで耐えられると思うほど僕の頭は有能じゃない。
だからってコイツに聞くことはなかったか。
拙い。言ってから後悔してきた。
ニヤリと、学園長の口元が歪んだ。
凄く嫌な予感がするので帰っていいだろうか。さっきまでの呆れた顔の方がまだマシだ。
「そうかそうか。君は魔法について何も知らないのか。ふむ、ふむ。」
勿体ぶるように大袈裟に頷く学園長。
初めてだよ、僕が家族以外に対してこんなに大きな恐怖を感じるとは。
流石学園長、なんて考えてる場合じゃない。
いやほんとに。
思わず後退りしそうになるが、脚の筋肉をフル稼働させてそれを止める。
「では、私が学園長として、君に、魔法を、教えてあげよう!!」
下卑た笑みを浮かべる学園長を前に、冷や汗が止まらい今日この頃であった。
時刻は暮れ6つ。見てるだけでカラスの鳴き声が聞こえてきそうな程綺麗な夕焼けをみて、黄昏ていた。
疲れた。長い1日だった。
結局、魔法について詳しくは、明日放課後に学園長が教えてくれるらしい。
今日は取り敢えず学園長から借りたこの《アホの為の魔法辞典初級編》の魔法についての欄を読んで予習してこいとのことだ。
今日は疲れてるんだ、ツッコまないからな。
……そろそろ行くか。
寮生活が嫌で足が重かったが、まあ仕方あるまい。なにせ寮について殆ど情報を持っいないのだ。
同居人がいるかもしれない以上、初日からやらかす訳にはいかない。
物凄く不安だし、なんなら僕は荷物を自分で運んでないので手遅れな可能性もあるしで凄く憂鬱だ。
様々な不安要素を頭に浮かべているうちにいつの間にか、学園長から伝えられた場所まで来ていた。
学園の裏にある大きな山。その中腹辺りに大きな建物がいくつある。その内の1つが高等部1年生用の寮だ。
……にしても、随分大きなもんだ。入学式の時こんなに人いただろうか?
なんて考えながら、中に入って……絶句した。
高級ホテルに負けず劣らずの豪華な作りだった。そんなホテル行ったことないが。
洒落たシャンデリアに、黒革のソファー。
奥にはカフェもあり、そこで勉強している生徒達の姿も見える。
金ピカの受付で手続きを済ませると早速部屋に向かう。
部屋は1LDKの男女混合の4人部屋らしい。
いやおかしいだろ、寮としてはかなり広いのかもしれないが常識がない。
……確かにあの学園長が作ったらしい。
なんて考えていると宛てがわれた部屋に着く。
深呼吸して、扉を開いた。
瞬間陶器が顔面目掛けて飛んでくるのだった。