STAGE Ⅰー16
「まあ、こんな感じですかね。」
髭の濃いおっさんから、少女の様な声が出ている。
何度見ても、この場合は聞いてもか? とにかく、こんな光景には慣れそうにない。
別におっさんから少女の声が出ても良いだろって? それはそうなんだが……慣れないというか……うるせえバーカバーカ。
何考えてるんだ僕は……
あれから、半分パニックの様になってるエフティシアを物理的におとなしくさせ、目の前のおっさんに色んな事を教えてもらっていた。
信用はしきれないが、襲ってくる様子は無いし、少なくとも僕なら襲ってきても対処できる。
まず彼らについてだが、どうやら大昔から続く部族だとかなんとか。
そしてそんな彼らには、所謂部族のしきたり的なのがあるらしい。
如何やらその内の一つに、決闘というお互い脱いだ状態でのステゴロをして、現部族の長を倒した奴がそのまま長の席を奪えるとかいう、なんともバイオレンスなルールもあるらしい。
僕が彼に『里長』と呼ばれてるのは、どっかのタイミングで僕が現里長を倒したからなのだろう。部族なのに里長とはなんとも違和感があるが……
「つか、なんで僕がその前里長をぶっ殺したってわかるんだ?」
「呪文の類ですねぇ。」
「呪文?」
魔法の事だろうか。だが少なくとも、僕は彼らが魔法の詠唱をしてるのを聞いたことがない。
詠唱省略ができるほど実力が高いのか、僕の魔力循環や引誘循環のように雑魚過ぎて詠唱が不要なのか、はたまた呪文というのが魔法とは違う何かなのか。
「そっすね。里長には俺らの部族の人間に反応する印がつけられてて、倒した奴にそれを受け継いでいくようになってます。それのおかげで今里長は俺らと会話できてますしね。」
確かに、言われてみればエフティシアはこいつの言葉を理解してなかった気がする。多分!
「それと里長、印は目で見えるもんじゃないんで探してもわかんないっすよ。」
「なんだ、それならそうと言ってくれよ。服脱いじゃったじゃないか。」
「もともと着てないでしょ。」
これだよこれこれ。最近なんだかツッコミに回ることが多かったが、僕はこうやってボケてる役のはずなのだ。
「……楽しいな。」
「……どしたんすか……」
いきなり笑みを浮かべた僕だったが、流石に引かれてしまった。
「なんだと? 僕は村長だぞ、尊重しろ。村長だけに。」
「村長じゃなくて里長っすよ?」
「……ギャグだったんだが……」
まさかこの僕が大滑りするとはな。取り敢えず帰ったら枕が濡れるのは確定として。
つかそこ重要なのか? どうだっていい気もするが……
「島の外ではそんなギャグのが流行ってるんすね。」
違うよ?
しまったな、僕のせいで間違った文化を教えてしまった。まったく罪な男だな僕は。まあいいか。
「今島の外って、言ったな。島の外の存在がここにはよく来るのか?」
「ん~。いや、十数年置きぐらいの頻度っすかね。俺も島の外の人を見たのはこれが2回目ですし。」
とすると、うちの教師陣とコンタクトは取ってないのか?
「僕が里長ってことなら、お前等は僕の指示に従うってことでいいのか?」
「そっすね。うちの部族は里長絶対なんで。しきたりに則った引き継ぎですし、皆納得してくれるでしょう。」
「なら、すぐに生徒への襲撃を止めてくれ。」
それを聞いて頷いた彼は、少し待ってほしいと僕に言って、森の奥の方に駆けていった。
一先ずは、これで襲撃者問題は解決だろう。
あとは噴火をどうするかだ。
すぐにでもパルウァかアムニス達と合流して、これからの方針を……
なんて考えていると、隣に寝かせていたエフティシアが目を覚ました。
「ハッ!? 止まらなくなった団長が追いかけてくる!!」
「どんな夢見てたんだお前。」
起き抜けに変な事を叫ぶエフティシアだったが、少しして落ち着いてくれば、まともに会話できるようになった。
パルウァに事情を説明している間に、さっきの彼も戻ってきた。きちんと全員に伝えてくれたらしい。
「それじゃあ改めまして、俺はアルビスっていいます。よろしくっス!」
髭の濃い女声のおっさんで、舎弟口調な彼の名前は、某スーパーマーケットと同じらしい。
インパクトが強すぎて頭がぶっ壊れそうだ。少なくともこの人生で二度と忘れることは無いだろう。
「で、貴方は彼と会話ができるのですね?」
「ああ。アルビスって言うらしい。」
「alw◯ys lively brightly identity supermarket?」
日本のスーパーだぞ、よく知ってるな。
「何言ってるかよくわかんないっすけど、俺の名前をイジられてるのは何故だがよくわかるっス。」
「? お前の方もエフティシアの言葉は分からないのか?」
「俺達がわかるのはあくまでも里長が扱う言語であって、そんな訛りが酷いとわかんないッスね。」
まあ発音良かったしな。流石本場出身……なのか?
世界統一が成された現代。英語や中国語等々の言語は、名残として残ってはいるものの訛りとして判断され、公用語とは言えなかった。
例え世界が一つになっても、一度倒れてしまったバベルの塔の再建など難しいのだろう。
「それで質問なんだが、アルビス達の部族は、過去に噴火を経験したことがあるのか?」
もし噴火を経験したことがあるなら、噴火に対応する術があるなら、今後の動きに大きく影響するだろう。
エフティシアの方は、急に噴火なんて単語が出てきて困惑しているようだ。
そういえばまだ説明してなかったな。
それで、肝心のアルビスはというと……
「え? 全然あるッスよ?」
朗らかな声でそんな事を言ってきた。
「そもそもあそこらへんの山って、結構頻繁に噴火しますからねぇ。」
「マジか! どうやって対処してるんだ?」
「呪文で村事結界で覆っちまいますね。」
結界か。入学早々の実力テストの時、グラウンドに張られてあったあれと同じ様なものだろうか。
「結界を長時間張るためのエネルギーはあるのか?」
「この島の地下に、とんでもなくおっきいエネルギー結晶、里長達で言う魔核があるんすよ。」
魔核。魔力の結晶体か。
成程な、そこからエネルギーを取り出しているのか。つまり、呪文とやらも元となるエネルギーは同じ魔力らしい。
「うん? 頻繁に起きる噴火ってもしかしてそれが原因じゃ無いか?」
地下に膨大なエネルギーがあるなら、そりゃ噴火だって起こりやすくもなるだろ。
「……ま、まぁ村を守る結界以外にも、お世話になってるっすから。」
アルビスの、自分に言い聞かせるような言い分で少しの間沈黙が続くのだった。
「取り敢えず、協力を取り付けられたってことでいいな?」
「そうですね。ほんとはもっと協力しあうべきなのに、パルウァちゃんがごめんなさい。」
あの湖でもう少し休んだ後、俺たちはそれぞれの班員と合流するために動いていた。
今はクルムとセティと合流して、班同士で協力関係を結べたところだった。
「やっぱりパルウァちゃん、実力テストの時の事でモヤモヤしてるみたいで……」
「そんなもんなのか?」
たしか、あいつら……というかセティとクルムも同じ部屋の筈だ。ハーレムじゃねえか許せねえな。
同じ部屋なのだから、長い時間一緒に居たにも関わらず、未だにしっかりとした落としどころをつけられてないのか?
高校生ってそんなもんなのか?
「兎にも角にも、先ず今夜を乗り越えないとな。」
うちの級長は廃村で休んでるらしいし、あいつも自分でなんとかできるだろう。最悪別に半日ぐらい飯抜いても動きに支障はさほどない……と思いたい。
なら、今は自分たちの事を……という判断をしたので、今ここにいる俺、クルム、ケヴァと、近場の警戒をしているパルウァ以外は食料調達に言っている。
そのパルウァだが、夕方辺り急に昨日のように戻ってしまってまだ少しムスっとしていた。それまでは比較的協力的だったんだがなぁ。
そんなことを考えていると、他の面々も帰ってきたようだ。
……無事に、とは言い難いが。
「温水? なぜセティを縛り上げてるんだ?」
そこには、簀巻きにされたセティと、それを担いでいる温水の姿があった。
さらに恐ろしいのは、セティはニコニコしていることだろう。
「接触型のセクハラが酷かったんだ。」
「接触型のなのか⁉ その鎧があるのに⁉」
セティのセクハラが酷いのは、あいつを通してよく知っていたのだが、まさか温水の甲冑を貫通する程の腕前だとは。
「それで、セティの方はなぜニコニコしてるんだ?」
「これはこれでいいかなと……」
「温水、こいつ森に捨ててきてくれ。」
温水は頷いて、森の奥に走って行った。
「えぇ⁉ 協力するんじゃないんですか⁉」
ワンテンポ遅れて、温水を追いかけていくクルム。
「あいつはいつもあんなのの相手してるのか。大変そうだな。」
それはそれとしてハーレムは許さん。あいつもう合流しなくていいんじゃなかろうか。
「そういえばお前さ、セティさんとクルムさんはさん付けしないよな。」
「クルムはなよなよしてるし、セティはあれだからな。いいかなって。」
そんなことを言うと、なにか物凄い目で見てくるケヴァ。
おかしいな。変なこと言っただろうか。
「お前も大概だな。」
そんなことを言われてしまった。
そんな感じで今日は終わっていく。試験はあと2日。あの2人は大丈夫だろうか。なんて、そんなことを思わずにはいられなかった。
止まらなくなった団長:某鉄血な孤児たちより。撃たれてなおネットミーム化した団長へ、追悼の意を捧げます。




