STAGE Ⅰ―15
「はっ……はっ……はっ……」
走って、走って、走って。
普段まるで運動しない私の身体は、既に悲鳴をあげている。
それでも、止まれない。
背後に追手の気配を感じて、攻撃魔法を放つが、やはりなぜか明後日の方向に飛んでいってしまう。
その時、足元にある木の根に気づかず、転んでしまった。
振り向けば、既に襲撃者が大鉈を振り上げていた。
結局、逃げられなかった。
あぁ……ここで死ぬんだ。だなんて思って、目頭が熱くなる。
「ぁ……あ、あ……」
上手く呼吸が出来ない。
死神の鎌が、私の死が、すぐそこに迫っていた。
願わくば、次の人生はもっと……
「あっついんだよ!!」
聞き覚えのある声、それが聞こえた瞬間。
私は目を疑った。
死神の鎌はまだ、私には届かないらしい。
「きゃあああああ!!」
露出魔に遭遇した女性の如く甲高い声が、木々を揺らす。
なぜか? 簡単だ。僕が、遂に僕を縛る全てから解放されたからだ。
要は僕が全裸だからだ。
その状態で、エフティシアと合流した。
ただ、この甲高い声はエフティシアのものではない。
誰のかって? そんなの決まってるだろう。
「何でお前がそんな声出してるの?」
皆、もうわかっただろう?
そう、エフティシアを襲っていた葉◯ぱ隊だ!!
「おかしいな。本来なら僕が上げる筈なんだが。」
「……?」
なんていいながら煩いそいつをぶん殴る。
頸がねじれて御臨終だ。
エフティシアは、なにがなんだかわかってないようだった。
そして確認したが、やっぱりそいつ男だった。
「貴方、なんでここに⁉」
「そりゃ、お前を助けに来たからだろ。」
頭を抱えて唸る彼女。
何をそんなに考え込んでいるのやら。
「まだ上手く状況を呑み込めてないけど、一つ聞いていい?」
「もちろんだ。スリーサイズ以外ならなんでもこたえてやろう。」
冷めた目で僕を見るエフティシア。
もしかしなくとも、スベった?
「貴方、他の仲間は?」
「……」
僕を見る目がどんどん冷たくなっていく。
……かなしい。
「……それで。」
エフティシアの目を、真っ直ぐ見ながら。
話を切りかえ……ようと思ったが、今度はなんだか彼女と目が合わないのに気づいて、サッと股間を隠す。
その時の彼女の表情を、僕は忘れないだろう。多分。
「……それで、無事か?」
「貴方の服装よりはマシですわ。」
あ、口調戻ってしまった。
しかし、そんな軽口を叩ける様なら問題はないだろう。
「貴方こそ、何故全裸なんですの……」
「引誘循環使ってたら魔法飛んできた。」
「……」
「……」
微妙な空気になってしまった。
これ、僕が悪いのか? ……僕が悪いな、ごめん。
「ああ、まあ……とにかく、僕の班かお前の班の誰かか、探すか。」
「……そうですわね。」
そうして、僕らは肩を並べて歩き出すのであった。
襲撃者達の拠点を探し始めて数時間。
一向に見つからない。
「なあ~、本当にこっちなのか? 迷子とかじゃないよな。」
ケヴァはさっきからこれだ。いい加減腹が立ってくる。
まあまあと温水がケヴァを宥めるが、そんな彼女も前方の男子生徒の事を訝しんでいる。
その男子生徒はと言うと、こちらもまたオロオロしている。
何か予想外なことでも起きたのか、それとも後ろの2人にメンタルをやられているのか。
仕方がないことだとは思う。
非常事態で、おまけにすでに迷子になってる奴もいて。こうなるのは仕方ないのだろう、所詮は高校生になりたての子供なのだから。
そのとき、右後方から複数の気配を察知した。
「「敵襲!!」」
同時にケヴァも察知したらしく、声が重なった。
「人型が4体! 多分あいつらだ!!」」
言うが否か、ドッジボール大の火球を4つ作り出してすぐさま射出するケヴァ。
魔法の展開が速い、前よりも格段に。やはり、テストや実践というのは成長に繋がるのだろう。
そんなことを考えながら、結界魔法を発動させる。俺たちを取り囲んで、半透明の結界が地面からせりあがってくる。うちの教師達にはまるで敵わないが、少しくらいなら外敵の侵入を防げる。
温水が剣をかまえ、男子生徒が腰を抜かして、森の奥から、思ったとおり襲撃者たちがやってきた。
4人。聞いた限りでは、数人程度の集落、とかでもなさそうだった。
つまりは歩哨の類だろう。
「応援が来る前に、パパっと片付けよう!」
……なんて思ってた時期が俺にもありました。
ありゃだめだ。身体能力が高すぎてまともに攻撃が当たらない。おまけにぞろぞろ増援が来る。そりゃあもうオーバーキル過ぎるって叫んでしまうくらいには。
結果、退却に退却を重ね、今僕らは湖のほとりで休んでいた。
追手は撒けたのかって? 撒けるわけないだろ。あっちの方が人数も質もよくて、おまけにここら辺の地形をよく理解してる。
だが、湖で俺たちは偶然、パルウァ・ペクタスと遭遇した。なんかボロボロだったし自分はルティだとか言っていたが。まあきっとそんな風に精神がぶっ壊れる様なことがあったのだろう。俺は紳士だから聞かないし、耳を傾けないが。
何はともあれ、結局ルティもといパルウァのおかげで何とか無事ではあった。
湖の澄んだ水を飲んで、一息つく。
辺りを見回すと、みんなぐったりしているのが目に入る。
みんなもう、限界だ。探索の続行は不可能だろう。ただでさえまだ火山の件があるのに、これ以上体力を消耗できない。見つけたとして、どうにもできないし。
ここで休んで、少しでも生き残る確率を……なんか忘れてないか?
う~んと頭を捻っていると、急に地面が揺れ始めた。
「ッ!? きたか⁉」
半ば湖に沈むような形になっていた温水が、バッと飛び起きる。
「……いや、ただの予兆らしい。」
すぐに揺れも収まった。ただ、タイムリミットが近くなってるのはわかる。
試験終了まで、後3日。俺たちは生き残れるだろうか。
「さて、これからだが……」
エフティシアを救出した後、兎にも角にも彼女の回復を待つ必要がある為、安全な場所で待機していた。
彼女の場合、パルウァ程他の班に敵対心はなさそうなので、簡単に協力も取り付けられた。
「まず、パルウァ達やアムニスさん達と合流する必要がありますわね。」
「アムニス達は襲撃者達の集落に案内されているから、あいつらはそこにいるだろうな。つまりまあ、来た道を戻れば合流はできるわけだ。集落が複数でなければ。」
「問題は、私がどう逃げてきたか覚えてないことですわね。」
「ふ~む。どうしたもんか。」
つまるところ、僕たちが現在地を理解してないのが拙かった。足跡や彼女が逃げてきた痕跡を探ろうにも、お互いそんな技能はない。
あったら昨日の晩御飯は肉が多かったはずだ。
そんなことを考えていると、腹が鳴ってしまう。
そっと鼻をつまむエフティシア。
「……腹が鳴った音だからな?」
「恥ずかしがることじゃありませんわ。生理現象ですもの。」
そんなやりとりをしていると、近くから草の根を踏む音が聴こえた。
恐らく一人。どうせ……
「追手、でしょうね。」
「だろうな。」
すぐさま物陰に隠れる僕たち。
僕なら倒すこともできるが、そうすると居場所がばれる。結果迷うことなく潜伏することになった。
「敵は、とんでもないくらい感覚が鋭敏ですわ。極力音を立てないように。」
小声で伝えてくるエフティシア。
その忠告に、サムズアップで返す。
敵が近い。自分の鼓動や呼吸音がやけに五月蠅く聞こえた。
そんな時。
すぐ隣から、グ~と、腹の音が聞こえた。敵も僕たちの存在に気付いたようだ。
つい、バッと隣に視線を向けてしまう。
「……生理現象ですもの。」
少し頬を赤らめてそんなことを言う彼女に、僕は呆れたような視線を向ける。
次は、真後ろの藪から、女性の声が聞こえる。
「あ、里長こんなところにいたんで……なんで裸⁉」
びっくりして後ろを振り向く。
そこにいたのは、さっきまで僕たちを探していたであろう葉〇ぱ隊。もちろん男性だ。
混乱しまくっている僕の腕を引いて、エフティシアが逃亡を始めた。
葉〇ぱ隊のほうもポカンとしている。
ひとつだけ、一言だけ心からの叫びを。
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」
場面転換が三行じゃ読みにくいことに気付いて修正しました。
気付くのが遅れてすみません……
葉〇ぱ隊:青い子犬がマスコットなテレビ局で放送されていた番組より
主人公「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」:おいしいハンバーガーのお店の棒㎝より




